ヒューライツ大阪は
国際人権情報の
交流ハブをめざします
国際人権ひろば No.122(2015年07月発行号)
肌で感じたアフリカ
ウガンダのいま ー紛争の再発予防を考える旅の記録
アフリカの東部、ウガンダ―2015年2月、私はウガンダの首都カンパラと、アチョリ人が暮らす北部地域に約1ヵ月間滞在した。
ウガンダ北部では1988年?2006年まで、政府軍と反政府武装勢力LRA(神の抵抗軍)との内戦が続いた。この間にLRAは多くの村人を誘拐し、強制的に戦闘や労働に従事させた
1。誘拐の被害者には18歳未満の子どもが6万人以上おり、殺人を強要され、性奴隷にされたという悲しい歴史がある。
「戦争で子どもが傷つく事はあってはならない」。その思いから子ども兵に関心を抱いてきた私は、4月に就職する前に、ウガンダを訪れることを決意した。「戦争で子どもが傷つかないために、そして内戦の再発を防ぐために、自分は何ができるか」。その答えを求め、村に帰った元子ども兵を支援する団体を訪れた。
様々な人と会い、話し、観察することを通して、多くの発見があった。なかでも、紛争の再発を促しかねないものが、そこで暮らす人の心や気質にあることに気付いた。
ここでは私が見た「ウガンダの今」と、そこで考えた「紛争の再発要因とその対策」についてお伝えしたい。
主都カンパラと北部都市グル
ウガンダの首都カンパラは活気に満ちた巨大な街だ。多くの小店が軒を連ね、沢山の物が売られている。車とバイクの交通量が非常に多く、街の中心部はひどく渋滞しており、交通事故が頻発する。しかし治安は隣国ケニアの主都ナイロビに比べてずっと良い。ウガンダ人の大半が英語を上手に話す上に、オープンな性格で簡単に仲良くなれるため、すぐに気に入った。
首都カンパラから、大型バスで穴だらけの道を走ること、約6時間。北部地域の最大都市グルに到着した。カンパラと違い、高い建物もひどい渋滞もなく、のんびりした空気がながれる街だ。
この街は紛争当時、子どもたちがLRAの襲撃と誘拐から逃れるためのシェルターとなった。数千?1万人もの子どもたちが夜ごと家を離れて集まり、道ばたや店の軒先で夜を過ごしていたという。今この街にその面影は全くない。
帰還した元子ども兵が求めたもの
ありがたい事に、道中に出会ったイギリス人の宣教師に、市議会議員の方を紹介して頂き、元子ども兵に話を聞く場をつくっていただいた。
グルから車で20分程の所に、Lukodi(ルコディ)という村がある。2004年5月19日、そこにあった避難民キャンプがLRAに襲撃され、64名が虐殺された場所だ。私はそこで当時13歳、14歳でLRAに誘拐され、後に帰還した男女二名
2の元子ども兵に話を聞いた。
LRAは誘拐した者の逃げ場を無くすため、彼らに出身の村を襲わせ、村人や親を殺させた。そのため、誘拐された者がLRAから運良く逃げ出し戻っても、村には容易に受け入れられなかった。また、村の社会やルールになじめない者も多かった。
そこで質問したのが、「帰還した後、一番必要だったものは何か」という問いだ。その問いに、女性は「cleansing (浄化の儀式)」と答えた。
浄化の儀式は、村に迎え入れられたことを表すとともに、悪霊を払う意味がある。この地域ではスピリット(悪霊)の存在が信じられている。殺人等の罪を犯した者は、浄化をしない限り被害者のスピリットにたたられ、さらなる罪を犯させるというのだ。LRAで多くの死と虐待を眼にした彼女は、このスピリットのたたりを強く恐れていた。浄化の儀式を行うことが、心の「救い」になったのだと感じた。
職業訓練学校の学生たちによる伝統的な儀式のパフォーマンス(筆者撮影)
キリスト教会で見たもの
このようにウガンダ北部には、内戦で肉親を失った人、誘拐され殺人を強要された人など、悲しい過去をもつ人が沢山いる。彼らが求めるのは「救い」と「許し」だ。熱心な宣教師からキリスト教の神は全てを救い、許す、と教わった彼らは、その多くがキリスト教徒となった。
私は道中に出会った宣教師に連れられ、グルのキリスト教会を訪れた。入り口はどこかと探していると、建物からロック音楽の爆音がきこえる。そこが教会だった。
教会では聖歌隊が前に並び、ロック調の曲に合わせ、歌い、叫び、激しく踊っていた。ミサに来た信者も皆踊った。そして神父が前に立ち、まくしたてるように「神を恐れ崇めろ」と叫ぶと、信者も「アーメン」と叫び返す。この様子には、宣教師も’crazy’と言うほどだった。
しかしバラード調の音楽に変わると様子は一変する。聖歌隊も信者も、皆が顔をゆがめ涙し、なかには地にひれ伏して、神と対話していた。辛い思い出と向き合っているのだろう。
ルコディ村でおきた虐殺と誘拐の被害者が描いた絵(筆者撮影)
紛争の再発を促す要因: 「救いを求める心」と「指導者追従の気質」
教会に行き、二つのことに気付いた。第一に、ここで暮らす人にとって、神がいかに重要かということだ。彼らには「救い」が必要だった。そして神と出会い、彼らは救われたのだと感じた。
だが、それを理解する一方で、恐怖心を抱かずにいられなかった。信者が皆、カリスマ的指導者についていこうとしているように見えたからだ。二つ目の気付きは、この「指導者についていこうとする気質」が、紛争を生むのではないか、という仮説だ。
今、指導者は「神を恐れ崇めろ」と叫び、人々はその信仰に追従している。だが、ひとたび指導者が「神の敵を殺せ」と叫んだら、彼らはどうするのだろう。集団でその「敵」を襲うこともしかねないのではないか、と思ったのだ。
実際、LRAの母体となった反政府運動は、「スピリットが舞い降りた」と主張する女性の出現がきっかけとなった。その指導者に従う形で政府軍への攻撃が繰り返され、内戦へと発展した。信仰心と指導者追従の気質が、集団暴力の正当化と、内戦をまねいたのだ。
批判的に考えることの重要性
ウガンダ人の「指導者追従の気質」は「批判的に考える習慣」を身につける事で、変えることができるかもしれない。指導者が常に正しいとは限らないことを理解し、自らの倫理観に則して善悪を判断する習慣をもつことが必要だと思った。アフリカに導入された理数科教育の真の目的は、この批判的に考える習慣を身につける事だったと帰国後に聞いた。その効果はまだ分からない。しかしいずれにせよ、批判的思考を育む教育は重要だと思う。
紛争中と紛争後の心のケアと 職業訓練の重要性
元子ども兵への聞き取りの中で、もう一つ印象的だったのが、男性が「NGOの職業訓練や心のケアを受けたおかげで、村に戻れた」と言ったことだ。これを聞いて、武力紛争の最中や終局直後から、被害者の心のケアと職業訓練を行う重要性に気付かさた。
帰還した元子ども兵には、村に馴染めず生活に困り、絶望して自殺したり、犯罪に走ったり、子どもを遺棄する者が多い。帰還後なるべく早い段階で、社会的な生活や、食べるために必要な技術を身につける事ができれば、希望が生まれ、暴力的な行為を繰り返す人や自殺者は減るのだ。
グルから車で4時間ほどのパデールという田舎町に、元子ども兵の男性が開いたNGOを訪れた。4つの提携施設を有するそのNGOは、850人の北部出身の若者に職業訓練を行っている。学生の背景は様々だ。
このNGOでは職業訓練や心理ケアをする以外に、毎月ダンス大会などのイベントを行い、チームでその準備をさせていた。それは、学生を孤立させないためだという。皆で一緒に何か一つの事に取り組むことで、人と繋がる喜びや希望を得るのだ。素晴らしい活動だと思った。
職業訓練学校で美容師の技術を身につける女性たち(筆者撮影)
旅をきっかけとして
この旅を通して多くの気付きを得た。結果、「戦争で子どもが傷つかないために、そして内戦の再発を防ぐために、自分は何ができるか」の答えが少し見えたと思う。
これからも紛争に苦しむ人に眼を向け続けたい。
注
1:LRAによる誘拐事件は国境を越え、今なお続いている。2008年12月?2015年2月の間、LRAによる誘拐被害者は5,346人 (LRA Crisis Tracker, http://lracrisistracker.com/)。
2:一人はポーター(運搬係)を主にしていた女性(2000年から1年間LRAで過ごす、当時14歳)で、もう一人は戦闘要員にもなった男性(1988年から1年間 LRAで過ごす、当時13歳)