人種差別撤廃条約日本加入20年
7月25日「移住女性の権利保障とエンパワメント」をテーマに連続セミナー第2回目を開催した。カトリック大阪大司教区社会活動センター・シナピスのビスカルド篤子さんと、カラカサン・移住女性のためのエンパワメントセンターおよび移住者と連帯する全国ネットワークの山岸素子さんからそれぞれ報告をいただいた後、約50人からなる参加者を交えて質疑や意見交換を行った。
移住女性の権利保障に関して、日本は国連条約諸機関から繰り返し勧告をうけてきた。しかし、そうした勧告が実施されることはなく、むしろ逆行するかのようにより厳しくなった在留資格制度のもと、移住者、とりわけ移住女性は、日本で安心して住む在留資格すら脅かされる情況にある。以下、ビスカルドさんと山岸さんの報告を要約する。
シナピスはカトリック大阪教区において1992年より移住者の問題に関わってきた。シナピスが2012年から2014年の3年間で受けた相談は500件に上る。男女比では男性の方が上回るが、それは移住女性の社会的資源へのアクセスが限られているからと思える。しかし女性のケースの方が長引く傾向にある。それは彼女たちの直面する問題が離婚、出産、育児などに関係しているからかもしれない。刑事罰を受け在留資格を取り消され強制送還に直面するベトナム人、アフガニスタン難民の父親の呼び寄せで来日し、勉学の楽しみを覚えたにも関わらず親の決めた結婚のため国に帰らされる若い女性、出生届けがないまま無国籍状態になった人など、さまざまな外国人の切羽つまった問題に関わってきた。
2014年より、東大阪市に集住するJFC(ジャパニーズ・フィリピノ・チルドレン)の支援に他団体と協力して関わっている。不登校になったJFCの子どもの学習支援などの活動をきっかけに、岐阜や愛知で人身売買の被害にあったJFC母子の大阪での受け入れに奔走した。その活動は警察、役所、保育所、学校、病院、不動産業者など多様な関係者を巻き込んで進められてきた。
こうした活動において私たちは失敗を繰り返してきた。日本型制度の押しつけ、NGO側の「絶大な権力」とそれに抗しきれず「良い行い」を余儀なくされる当事者、関わり過ぎが招く依存、など。これらを通して学んだことは、当事者を尊重し、潜在的な力を信じ、彼女たちの背景を知るとともに、こちら側の情報を十分に伝えることの重要性だ。
カラカサンはフィリピン人女性を含む移住女性の支援のために、12年前、カトリック横浜教区で結成された。カラカサンは支援者と支援される側、両者のエンパワメントを目指している。活動は包括的で、精神的支援や経済的問題も含めその人が日本社会で必要としていることに応えるよう努めている。結婚、離婚、DV、子どもの教育など中長期にわたる問題に、グループワークで取り組み、コミュニティレベルで対応している。ダブルの子どもたち自らによるアイデンティティの気づきや、母子関係作りを支援するプログラムもある。
移住者が直面する問題の多くは個人で解決できるレベルの問題ではない。日本社会の仕組みに関わる問題である。それを変えていくにはカラカサンだけではなく、他の地域で活動しているグループとの連携が必要となる。カラカサンは移住者と連帯する全国ネットワーク(移住連)に入り、移住連女性プロジェクトに関わってきた。プロジェクトは移住女性の権利擁護のため、情報交換、調査研究、政策提言の3つの活動を行っている。総合的な施策に加え、個別課題として、DVおよび人身取引の根絶と被害者の保護、母子家庭への支援策、より厳しさを増した出入国管理制度の問題などについて、政策提言、ロビー活動、毎年の省庁交渉、そして国連機関への働きかけを行っている。こうしたなか、今最も求められるのは、外国人に対する差別撤廃を含み、外国人の人権を保障するための基本法の制定である。基本法があってこそ、個別課題の法整備も活きてくる。