特集 日韓のひとり親家族の今
韓国で、「ひとり親家族」とは、配偶者との死別または離別、配偶者から遺棄されたり、配偶者の長期間の労働力喪失・疾病、刑務所や治療看護施設への入所や兵役服務中、未婚者であり、満18歳未満(在学中は満22歳未満)の子どもを養育する家族をいう。
家族の形態が次第に多様化し、ひとり親家族も増えていて、全世帯の9.4%をしめている。ソウル市の場合、2015年には10.5%にいたっている。このように、ひとり親家族は増えているが、一人で仕事と子育ての両方を担わなければならないひとり親家族に対する福祉制度の実情は、不十分なままである。
「ひとり親」とは、「父」や「母」が一人でも十分に子どもを養育できるという意味であるが、いまだ「欠損家庭、片親家庭」と表現され、ひとり親が何か足りなくて問題がある家族として明白に認識されており、韓国でひとり親として生きていくのは苦しいことである。
1997年の母父子福祉法の改正で「ひとり親家族支援法」が制定された。それによると満18歳未満(在学中や兵役中は満22歳)の子どもを養育する最低生計費(各種の社会保障の基準となる金額で政府が算定)の130%以下のひとり親世帯を対象に、12歳未満の子どもの養育費を一人当り月5万ウォン(約5,200円)、満25歳以上の未婚母と祖父母が育てる満5歳以下の子どもの養育費を一人当り月5万ウォン、中高生の学用品費が一人当り年5万ウォン、ひとり親家族福祉施設に入所した低所得世帯に生活補助金月5万ウォンを支援している。
ひとり親家族の貧困が広範囲な問題であるにもかかわらず、少しでも法的保護を受けている世帯はひとり親家族全体の9%に過ぎず、支援の内容も韓国の教育や生活条件に照らすと非現実的であると指摘されている。すべてのひとり親家族が等しく安定した生活を送れるよう制度を拡げることが必要である。
養育しない側も養育費の責任を負うのは当然のことであるが、韓国では養育費の不履行が慣例になっていて、養育費を出せば、大そうな善行をするごとく考えられているという残念な現実がある。
2013年の女性家族部(「省」に相当)の資料によると、元配偶者から最近まで定期的に養育費を受け取った離婚のひとり親は5.6%に過ぎず、全く受け取っていないケースが83%にいたっていた。裁判では「養育費を支払え」という判決が77.2%になったが、その判決を受けた77.4%が判決どおりに支払っていないと答えており、養育費の支払が円滑にいっていないことがわかる。
また、養育費の履行といっても一人あたり30~40万ウォン(約31,200~41,600円)なので、現実に合わない数字が決められている。韓国ひとり親連合をはじめ当事者団体が、養育費を現実のものにするための方案や養育費履行に関する国の責任を継続して要求してきた。その結果、2014年に養育費支援制度が国会で通過し、2015年3月に、「養育費履行管理院」が設置されて、ひとり親家族の養育費履行をサポートしている。しかし、極めて限られた予算と体制の下で進められているこの制度は、生活費と養育費を同じ概念で捉えており、既存の支援対象者は養育費をほとんど受け取れない構造になっている。また養育費不履行でも、強制条項が弱く実効性がないという問題が提起されていて、補完策が急がれている。
11月4日に開催した「2015全国ひとり親家族文化フェスティバル」参加者一同
1. ひとり親女性の貧困
ひとり親女性は、女性の低賃金と「一人稼ぎ」により所得が顕著に少ないために、離婚した男性の世帯に比べると貧困リスクが高い。しかし法的な生計の保護を受けるにはその基準より所得が少し上回る。ゆえに経済的には貧困であるが支援からは外されるという「死角地帯」という社会問題として挙がっている。
2. 仕事と家庭の両立の困難
非正規職や時給制など不安定な働き方で、子育ても並行して一人でしなければならないのにもかかわらず、子育てサービス制度や働く環境は、ひとり親家族の特別なニーズを全く考慮していない。それが、ひとり親家族の仕事と家庭の両立を困難にしている。
3. 社会的偏見
韓国社会は、「健康な家族」、「正常な家族」という名をもって家族を形態で分けて、見えない形で偏見やスティグマを助長している。学校や社会、軍隊にいたるまで、ひとり親の子どもというだけで、問題児として扱うような差別的慣行がみられる。
4. 心理的な問題
ひとり親女性は、経済的困難、住まいの不安、対人関係、子育てや教育の負担などいくつかの困難を抱えるというリスクのある状況から精神的な問題を持つ可能性が高く、社会の否定的な認識や偏見が、彼女たちの心の安定にマイナスの影響を与え、子育てにも影響を及ぼす。
2004年に「ひとり親支援団体ネットワーク」として活動がはじまった当団体は、2010年に「韓国ひとり親連合」に名称を変更し、当事者中心の活動に重きをおいている。現在、韓国内で10団体(釜山(プサン)ひとり親家族自立センター、軍浦(グンポ)女性民友会、蔚山(ウルサン)ひとり親家族センター、春川(チュンチョン)ひとり親希望センター、大田(テジョン)女民会、天安(チョナン)女性ホットライン、京畿(キョンギ)ひとり親会、ソウルひとり親会、安山(アンサン)女性労働者会、仁川(インチョン)ひとり親家族支援センター)と研究所(フェムライフ研究所)が連帯し、ひとり親の組織化、リーダー育成、法制度改善の活動、ひとり親家族に対する認識改善の活動に取り組んでおり、ひとり親家族の生活の質の向上のために活動する女性運動団体としての性格を有している。
財政が厳しく、常勤スタッフがいないか、スタッフ1人で活動を回しており、さらに、ひとり親が生活と子育てを並行しなければならないという性格上、ダイナミックに活動できない。しかし、「韓国ひとり親連合」が求心軸になって、当事者のニーズに基づくプログラムの開発、広報、問題解決の活動、偏見をなくす啓発活動、後援する企業との連携などを進めることで、加盟団体をサポートしている。
11団体・研究所は各々特徴があるが、釜山では地域機関との活発な連帯活動や文化プログラムを通してエンパワメントに重点を置いている。軍浦ではグループホームを運営し、住居が不安定なひとり親家族を支え、共同体的な生活を実践している。大田では、長年にわたり、ひとり親の起業の支援活動をして、女性の世帯主の経済的自立や相談活動に力を注いでいる。女性運動団体としての性格は有しているが、仁川、蔚山では、父子家庭の集まりを共に持とうとしている。一番遅くに結成された当事者団体である京畿ひとり親会とソウルひとり親会は、常勤スタッフも事務所もないという劣悪な条件の中で、集まりを持ってきたが、意志と使命感をもって地域の他の機関と活発にネットワークを作りながら、当事者団体としてのあり方を探求している。
ソウルにある「韓国ひとり親連合」事務所にて
筆者は、1999年にひとり親になり、前述の軍浦女性民友会で相談活動やひとり親活動家としてスタートし、4年後に韓国ひとり親連合の代表を務めることになった。家族を扶養する立場と活動家という立場の間で常に悩みながら、ひとり親の生活が少しでもよくなるためにするべき役割があるという思いでこれまで歩んできた。組織が少しづつ拡大し、課題に積極的に対応している姿をみると内部の成長を確認できて、満ち足りた気持ちになる時もある。
韓国は、急激に発展して変化してきたが、現場の活動家として15年間見てきたひとり親たちの生活は、養育費支援法が制定されたほかには、目につく変化は見られない。ひとり親は依然として、貧困に苦しんでいて、周囲の偏見に堂々と対峙できないまま萎縮しながら生きている。自分が代表を務めながら、十分に役目を果たしていないのではないかと自らを恥じる気持ちにもなるが、それでも、この団体が存在すべきであり、自分たちの活動が必要であると思う一念で頑張っているところである。
国と社会の無関心によって、変化は大変鈍いが、当事者たちの積極的な参加と声が「健康な家族の価値を拡げる」起爆剤になるだろう。
(翻訳:朴君愛)