特集 日韓のひとり親家族の今
グローバル経済のもとで、世界中で、非正規労働者が増加し、多くの人々が不安定さ(プレカリテ:precarite)のリスクにさらされている。また、近代化の帰結として、ひとり親家族が増加している。いずれの国においても、ひとり親の大半は女性なのだが、ひとり親は、子育ても、仕事も、基本的に一人で担うため、不安定な状況に置かれる可能性が高い。しかも、労働市場上の女性の地位が低いとともに、公教育や家族政策に対する社会支出が低い日本では、その傾向は顕著である。その証拠に、日本のひとり親世帯の貧困率は54.6%(2012年)であり1、子どもの貧困率も16.3%(2012年)と、高い値を示している2。
一方、たとえば、フランス、イギリス、韓国のデータについて見てみると、ひとり親世帯の貧困率は、フランスが25.3%(2010年)、イギリスが16.9%(2010年)である(2010年の韓国のデータはない)。また、子どもの貧困率は、フランスが9.1%(2012年)3、イギリスが9.8%(2010年)、韓国が9.4%(2010年)である4。
こうしたなか、2013年に、日本政府は子どもの貧困対策の推進に関する法律を策定し、2015年には、国の子どもの貧困対策会議は小中高生の放課後の学習支援の強化、子どもの居場所づくり、ひとり親の就労支援の強化等の施策案を提示した。近年の日本の政策の特徴は、ひとり親家族の貧困問題を、子どもの貧困政策という枠組みで解決しようとしている点にある。こうした施策の方向性は、ヨーロッパの政策に追随するものである。たとえば、フランスでは、ひとり親家族に対する支援は、ひとり親家族に限らない、子どもと家族の政策や女性政策という枠組みによって展開されている。そして、ひとり親家族に限定しなければならない施策のみ、ひとり親家族に限定した政策として展開されている(たとえば、別れて暮らす親からの養育費に関わる政策、別れて暮らす親子の面会交流政策、ひとり親家族のための施設に関わる政策等)。このように、子どもの貧困対策の推進に関する法律を前提に、子どもの貧困対策という枠組みができたことは高く評価できるが、今後、すべての自治体において、国の示したすべての施策が実施されるべきである。
ところで、フランスの場合、「社会の子ども」という連帯の思想にもとづいて、①貧困の状況にある子どもに対する施策と、②すべての子どもに対する施策とがバランスよく展開されている。日本や韓国では、今なお「家の子ども」という考え方が残存しているが、子どもの貧困対策を展開する際、日本でも、連帯の思想のもとに、①と②の施策がバランスよく実施されるべきであろう。
また、フランスの事例から考えた場合、ひとり親家族の貧困を解決するためには、少なくとも、以下の6つの政策が必要であると言える。1つ目は女性の労働力率の上昇と労働市場上の女性の地位の向上、2つ目は子育て仕事の両立支援、3つ目は最低賃金の引き上げ、4つ目は教育費支援、子どもに関する手当、子どものいる家族への税控除、住宅手当といった経済的支援、5つ目は別れて暮らす親からの養育費の回収の強化と養育費が回収できない場合の手当の支給、6つ目は面会交流支援である。現在、日本では、6つのすべての政策が、フランスより遅れていると言わざるを得ないが、これらの政策を展開していくためには、今後、日本の家族関係社会支出の対GDP比(2011年:日本:1.4%、フランス2.9%、イギリス3.8%、韓国0.87%)5や、日本の公的教育費対GDP比(2012年:日本:3.5%、フランス4.9%、イギリス5.2%、韓国4.7%)6をフランスやイギリス並みに上げていく必要がある。
以下では、筆者が最近行った2つの調査をもとに、ひとり親家族の支援について考えてみたい。
シュアー・スタート・チルドレンズ・センターの保育学校
シュアー・スタート・チルドレンズ・センターの保育学校
2015年に、筆者は、フランス(パリ)とイギリス(ロンドン)で、貧困の状況にある子どもの支援をしている非営利組織のスタッフに対してインタビュー調査を行った。この調査より、以下の4つのことが明らかとなった。
1つに、フランスやイギリスでは、幼い頃からの教育が重要視されているが、幼い頃からの教育が子どもの発達に重要であるという考えをもとに、日本でも3歳児以上のすべての子どもが無料で「教育」が受けられる体制をつくるべきである。フランスでは3歳から小学校入学前のすべての子どもは無料で「保育学校」で教育を受けることができ、イギリスでも、小学校入学前の3、4歳のすべての子どもは「保育学校」に入学できるとともに、貧困の状況にある2歳の子どもは週に15時間の無料教育が受けられる。
2 つに、イギリスやフランスの非営利組織では、貧困の状況にある子どもたちに対する、芸術やスポーツ等を通じた支援活動が活発になされている。こうしたなか、日本でも、貧困の状況にある子どもが、放課後の学習支援だけでなく、スポーツや芸術等の体験活動のなかで、他者との信頼関係や「文化資本」(P・ブルデュー)を獲得し、自尊心を高めることができるような非営利組織によるプログラムをより一層活性化していく必要がある。
3つに、イギリスでは、5歳から11歳までの子どもに対して無料給食が提供されているとともに、非営利組織のフードバンクによる緊急時のフード支援が活発になされているが、日本でも、貧困の状況にある子どもに対するフードの支援が活性化される必要がある。とくに、完全給食を実施していない地域は完全給食を実施する必要があるとともに、夏休み等の長期の休みにおけるフード支援は欠かせない。
4つに、イギリスでは、各地域のシュアー・スタート・チルドレンズ・センター7において小学校入学前の5歳未満の貧困の状況にあるすべての子どもの情報がデータ化され、1か月に1回、各種専門家によりケースマネジメントがなされている。こうしたなか、日本でも、貧困状況にある子どもに対する、専門家によるケースマネジメントが今まで以上に活性化される必要がある。
2015年に、筆者は、日本のある地域のひとり親に対してアンケート調査を行った。質問の一つとして、「希望する支援」について複数回答で質問したところ、約350名の方から有効回答を得た。その結果、「経済的支援」「就労支援」「フード支援」「子どもに対する学習支援」に関するニーズが高く、次いで、「子どもの居場所づくり」
「ひとり親家族に適した教育方法のアドバイス」「子どもに対するスポーツ活動支援」に関するニーズが高いことがわかった。また、「ひとり親が話し合える場づくり」や「子どもに対する芸術活動支援のニーズ」も一定程度存在することがわかった。今後、ひとり親家族のニーズに応じた対策が展開されるべきであろう。
一方、「面会交流に対する支援」に対するニーズが極めて低かったが、ニーズは低いとはいえ、面会交流支援が活発になされているフランスを参考に、子どもの権利としての面会交流支援を活性化していくことも求められる。
(注)
1. 厚生労働省(2013)『平成25年 国民生活基礎調査の結果』
3. Observatoire des inegalites(2015) 1,2 million d’enfants ≪de≫ pauvres.
6. OECD(2015)Education at a Glance.
7. シュアー・スタートー・チルドレンズセンターとは、各地に設置されている貧困の状況にある子どもと親のためのセンターであり、そこでは、複数の専門家が、子どもの保育、親への教育、相談など、各種プログラムを実施している。
参考文献
近藤理恵著『日本、韓国、フランスのひとり親家族の不安定さのリスクと幸せ』学文社、2013年。中嶋和夫(監修)尹靖水・近藤理恵(編著)『グローバル時代における結婚移住女性とその家族の国際比較研究』学術出版会、2013年等。