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国際人権ひろば No.127(2016年05月発行号)

特集 なぜスカーフ論争なのか

スカーフ禁止からその後 -フランスで何が起きたか

 

 フランスでは2004年に制定された公立学校におけるヒジャーブ(スカーフ)禁止の法律に続き、2011年4月11日、公共の場で顔を覆うものを着用することを禁止する法律が施行された。推進派は「ヴェールは治安を脅かす」「顔や表情を見ながら人とのコミュニケーションをはかる社会において、妨害になる」と擁護し、反対派は「個人の自由を侵害する」と反対した。法律は、路上、店舗、美術館、公共輸送機関、公園などの公の場所で顔を覆うヴェールやマスクの着用禁止を定めている。唯一例外となるのは、個人の車の中と礼拝場所である。また、体だけを覆うチャドル(マント)や頭髪部だけの被り物であるスカーフなどは対象外とされた。法律は男女問わず適用され、フランスに旅行中の外国人にも適用される。違反者は最高150ユーロ(約2万円)の罰金および/あるいは市民性教育の受講が科せられる。他人に顔を覆うヴェールやマスクの着用を強要した場合、最高3万ユーロ(約3,800万円)および1年の禁固刑が科せられる。フランス当局によれば、フランスには500万人のムスリムが生活しているが、ヴェールで顔を隠している人は2,000人程度である。

 

 法律を巡る賛否

 

 この法律が生まれたきっかけは、2009年6月に当時の大統領サルコジが宗教上の理由によるヴェールはフランスに歓迎されないと述べたことにある。サルコジは、法律の目的は女性が顔を隠すよう強要されることから守り、フランスの政教分離を擁護するためだと述べた。世論調査では80%が法律による禁止に賛成した。

 イスラームの知識人たちは、ヴェールで顔を隠すことはイスラームの教えではなく、コーランにも書かれていないが、ムスリム文化の伝統であると述べた。アメリカに住む著名なイスラーム学者のハムザ・ユースフは、「個人的には顔をヴェールで隠すことに賛成しないが、ヴェールはイスラームの合法的な伝統である。ヴェールを被る女性の大半は神の命令に従って着用しており、決して夫の命令ではない。数年前にフランスに行ったが、街でポルノグラフィーの大きな看板がかけられていることに衝撃を受けた。女性のヴェールをはぎとって人びとの視線を集めることが文明で、その視線をかわすためにヴェールをかぶることが犯罪なのはおかしい」。

 法律施行の前々日の2011年4月9日、パリで法律反対のデモを無届けで行ったとして61人が逮捕された。施行当日には反対する女性数人がヴェールをかぶってノートルダム寺院の外で抗議行動を行った。同じ日、フランス政府はブルカ(頭から足まで包み込む衣服)がコミュニティの人間関係を壊すと述べ、法律支持者はジェンダー平等と政教分離を進めるものだと賛意を述べた。

 

 法律施行後 何が起きたか

 

 施行から5カ月後、警察は法律のもとこれまで100人の女性が呼び止められたと発表した。彼女たちの誰も罰則は受けていないが、その内10人は裁判所に呼び出された。誤って現場で罰金を徴収した警察官がいたが、のちに取り消された。ヴェールで顔を隠して街を歩く女性を呼び止めることなく無視した警察官もいた。法律に反対しているヒンドゥ・アマスはヴェール着用で2度逮捕された。「禁止になって以来私の生活はひどく後退しました。いつも戦闘の気構えで家を出ます。前から歩いてくる人にいつ銃で撃たれるかわからないと思っています。政治家たちは、この法律は私たちを解放すると言うが、実際は私たちを社会から排除しています。法律ができる前は、無事にカフェに入れるか、役場で書類をもらえるかなど心配することはありませんでした。支持派の政治家は、ニカーブは“歩く牢獄だ”と言ったけれど、実際はこの法律が私たちを牢獄に放り込んでいます」。別の反対者であるケンザ・ドゥリデは日々戦々恐々としていると述べた、「外を歩けば何度となく侮辱的な言葉を投げかけられます。たいていは、『国へ帰れ!』とか『殺すぞ』といったものです。ある男は『ユダヤ人にやったようなことをお前たちにもするぞ』と脅しました。フランスでナチスの一斉検挙の前にユダヤ女性に何が起きたのか知っています。それが今、私たちに起きているのです」。

 2011年9月22日、この法律のもと初めて罰金刑が科せられた。ヒンドゥ・アマスとナジャテ・ナイト・アリーの二人の女性がニカーブを着て法律支持派のモー市の市長にアーモンドケーキを配達した。(フランス語で罰金のことをアメンデという。アーモンドとアメンデの語呂合わせで行った)。二人はそれぞれ120ユーロ(約15,000円)、80ユーロ(約1万円)の罰金を科せられた。

 

 ヨーロッパ人権裁判所の判決

 

 2011年12月12日、ヒンドゥ・アマスはその年の4月11日にニカーブを着用してパリで抗議デモに参加したことを理由に、15日間の市民性教育の講座を受けるよう別の裁判所から命じられた。彼女は、教育を受けるつもりはないしニカーブを脱ぐつもりもないと明らかにし、法律は違憲でありヨーロッパ人権裁判所に提訴すると述べた。2013年11月、彼女はイギリスの弁護団とともにフランス政府を相手に禁止法は信教や表現の自由を認めたヨーロッパ人権条約に違反するとして提訴した。

 2014年7月、ヨーロッパ人権裁判所はフランス政府を支持する判決を出した。判事は、禁止法には宗教的な意味合いはなく、顔を隠すことを問題にしているとした。さらに、社交上、顔は重要な役割を果たすというフランス政府の言い分を支持した。

 フランス以外のヨーロッパ諸国を見れば、2011年7月、ベルギーで顔を隠すヴェールを禁止する法律が施行された。スペインでは、法律はないが、バルセロナなどの自治体は禁止令を出している。イギリスにも法律はないが、スカーフ着用について学校管理者と判事の裁量に任せるとする政令が出た。イタリアではいくつかの自治体で顔を覆い隠すことを禁止している。ドイツでは法律はないが、半分の州では教員がスカーフを着用して学校にくることを禁止している。スイスでは2009年に法務大臣がこれ以上顔をヴェールで隠すムスリム女性が出れば、禁止令を検討しなくてはならないと述べた。2013年9月、スイス、イタリア語圏のティチーノ州で住民投票があり、65%が公共の場でのヴェール禁止を支持した。

 訳・構成 小森 恵

 

本稿は以下の情報を引用・参考にしてまとめた。

1:https://en.wikipedia.org/wiki/French_ban_on_face_covering#Background Wikipedia French ban on face covering

2:http://www.bbc.com/news/world-europe-13038095BBC 2014年7月1日