「日本に難民なんて来ているの?」これは、私がよく耳にする言葉である。
世界に約5,000万人の難民がいるといわれる中、日本に難民が来ていることを知っている人は少数であるように思われる。
これは、日本の難民問題に関する報道が少ないなど、日本の難民問題と接する機会が少ないことが理由であると考えられる。
よって、市民の難民問題に対する関心は他国に比べると著しく低い。
日本は、1979年にインドシナ難民500人の定住受入れ枠を決めてから現在まで約10,000人の難民を受け入れてきた。インドシナ3国における政治状況がおちついたことから、やって来る難民の数は近年減少している。しかし、衣食住、労働、医療等の援助は続けられており、インドシナ難民に関しては様々な問題があるにせよ一定の保護体制が確立しているといえよう。
一方、インドシナ難民以外の難民に関しては保護体制が確立しているとはいいがたい。インドシナ難民とは違い、その他の地域から来る難民には定住枠が設定されてこなかった。そのため、日本に定住するためには、難民認定手続を通じて難民認定される必要がある。しかし、難民認定を受けるまでの道のりは非常に険しい。日本にきた難民は、まず、難民申請の仕方がわからないという困難に直面する。その時、難民申請の仕方、法的アドバイス等をすることができる人材は日本ではいまだ少数である。
難民申請をすることができたとしても、難民認定手続に時間がかかるため、その間の在留資格、衣食住、仕事、医療等の確保に苦労するという問題が待っている。たとえ、それらが確保でき、長い間難民認定の結果を待ったとしても、難民認定されない場合がほとんどである。ここ10年、難民申請者約1,100人に対し、難民認定された人はわずか50人足らずにすぎない。難民認定されなかった人は、身体に危害を加えられるおそれのある国に送還される可能性が高くなる。
難民認定を受けても衣食住、仕事、医療等の確保は難しい。 つまり、難民保護体制が不十分なため、難民認定されても様々な困難に直面するのが現状なのである。
このように次々と困難が生ずる現在の難民保護体制に対し、行政への批判が各方面から聞かれる。 たしかに、現状を考えると、行政の責任は問われてしかるべきである。しかし、我々市民の難民問題に関する無関心さも上記のような現状を生み出している原因になっているように思われる。つまり、難民保護体制の責任を行政にすべておしつけ、我々市民が難民保護のために力を注いでこなかったことが、日本の難民問題をつくりだしているともいえるのである。
私はこれまで、オーストラリア・イギリスの難民問題を研究してきたが、両国と日本との一番の違いは、市民の難民問題に対する関心である。オーストラリア・イギリスでは、良きにしろ悪きにしろ市民の難民問題に対する関心は非常に高い。そのため、難民保護のための市民活動も活発で、衣食住、労働、医療等多くの支援団体が存在し、市民レベルで難民を保護している。また、行政もそのような市民活動を支援し、市民と行政が一体となって難民保護体制を作りあげているのである。
数多くの問題が存在するにも関わらず、日本では難民問題への関心が低いため、市民活動も活発ではなかった。 「日本にきた難民が、法的・社会的基盤が不備なため困難に直面しているのを見ると同じ人間として忍びない」と感じた有志が集まり、国内の難民を支援する団体として昨年7月に設立されたのが「難民支援協会」である。その活動は、1)個別難民支援(難民認定手続、在留資格、衣食住の確保等に関する情報提供)、2)政策提言(難民認定制度および周辺制度の内容や運用に関する提言)、3)難民関連情報の収集・発信(他団体との連携を通じての難民関連情報の集約・分析・発信)と、多岐にわたっている。昨年11月には、人権の擁護又は平和の推進を図る活動分野では東京都ではじめて非営利活動法人として認証を受けた。 周囲に今後の活動が期待される中、「難民支援協会」の活動はこれから本格的になっていくであろう。
今後、ますます多くの難民が日本に来る可能性がある。「難民支援協会」が難民保護のために担える役割は一端にしかすぎない。より多くの市民が日本の難民問題に関心をもち、市民と行政が協力しあって日本のこれからの難民保護体制をつくっていくことが一番であることはまちがいない。
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