国連ウォッチ
2000年3月1日~3日 中国・北京
アジア・太平洋地域には人権の保護と伸長のための地域条約や地域機構がない。そのため、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)はこれまでアジア・太平洋地域における地域的取極(とりきめ)の確立を目指した数多くのワークショップを行ってきた。原則として、漸進的なアプローチで諸国間での協議を行うとしている。
1996年のテヘラン会議では、諸国間の技術協力のための枠組み(テヘラン・フレームワーク)が採択され、域内政府は、各国内での人権の保護・伸長と地域的取極の確立のための取り組みを実施してきた。 テヘラン・フレームワークでは4つの優先領域として国内行動計画、人権教育、国内人権機関、そして発展および経済的社会的文化的権利の実現が挙げられている。
テヘラン・フレームワークの実施を求めた第7回ワークショップ(99年2月、インド・ニューデリー)以降、国内行動計画地域ワークショップ(99年7月、タイ・バンコク)、東北アジア人権教育ワークショップ(99年12月、韓国・ソウル)、人権教育国内行動計画ワークショップ(2000年1月、東京)、そして発展と経済的社会的文化的権利の実現のための戦略ワークショップ(2000年2月、イエメン・サナア<Sana'a>)がそれぞれ開催されてきた。これらを経て、今回、第八回アジア・太平洋地域人権の伸長と保護のための地域協力についてのワークショップが3月1日から3日にかけて、中国・北京で開催された。
北京ワークショップはテヘラン・フレームワークの4つの領域でのこの一年間の進展と前述の各ワークショップの結果をすべて検討し、今後の地域・小地域・国内レベルにおける取り組みを促進するため、取るべき次なるステップを確認することが目的とされた。併せて、2001年に開催される人種主義等禁止世界会議についても討議された。
1995年以来毎年開催されてきたこのワークショップは、地域諸国の政府が共通の関心・懸念とする人権についての態度を示し情報を交換させる貴重な場となっている。北京ワークショップは建設的な議論、コンセンサスと信頼の構築につながる雰囲気で行われるように、また、具体的で実際的な問題に焦点が当てられるように意図された。
助言者による短い導入の後、多くの政府代表が政府の公式な立場について、もしくは4つの領域における政府の取り組みについて報告した。また、国内人権機関やNGOの代表も活動を報告した。
参加者たちは結論とする文書を採択した。
文書では、1)国連基金などの支援を受けたテヘラン・フレームワークの実施の重要性、2)相互支援と緊密な連携、3)テヘラン・フレームワークでの、政府、国内人権機関、市民社会の支援を得た取り組みの重要性、4)議会、国内人権機関、専門家、市民団体とのパートナーシップによる取り組みの重要性、5)女性、子ども、社会的弱者の権利の保護・伸長に注意を払うこと、6)テヘラン・フレームワークを引き続き実施するという人権高等弁務官事務所(OHCHR)の提案の歓迎、7)OHCHRの協力機関を巻き込んでの取り組みの実施の歓迎、8)OHCHRによるテヘラン・フレームワークの実施状況の評価と次回ワークショップでの報告、9)議会、国内人権機関、市民団体の参加、10)政府関係機関やその他の協力機関によるワークショップの結果の宣伝と結論の実施にむけた努力の結集、11)OHCHRが次回ワークショップ(タイ政府主催)までに技術協力の達成状況を報告することの要求、12)添付文書にある奨励される取り組みの確認、について項目が挙げられた(*1)。
また、添付文書では4つの領域に従って、地域、小地域、国内レベルでの奨励される取り組みが21項目にわたってまとめられた(*2)。
各国政府、国内人権機関、市民社会の間での技術協力やアドバイスの提供、様々なテーマ・対象でのワークショップやトレーニングの実施、報告や調査活動などが挙げられている。これらの取り組みは国連の「人権分野における技術協力のための任意基金」を使って行われる。
また、人種主義等禁止世界会議の準備については専門家セミナーや地域準備会議などの準備活動を地域、小地域で行うことが挙げられた。
「アジア・太平洋地域の人権の保護と伸長のための地域協力についてのワークショップ」は、この地域の可能な人権の取極を議論する上で、まさに漸進的な(step by step)アプローチをとってきた。しかし地域諸国間の「信頼の構築」はまだ不十分といえる。人権はいまだに政治的にセンシティブな問題であり、どんな取極に対しても全面的なサポートを表明することは多くの政府が避けている。特に取り組みが弱いのは政府である。NGOや市民団体はすでにネットワークや連帯を地域レベルでつくり上げてきた。
ワークショップでの政府報告は時に原則的で概括的な事柄に焦点が当てられ、国の中の現場レベルでの具体的報告がなされない。ワークショップの主催者は、(例えば4つの領域に)問題を絞り、議論が建設的な形でなされ、実際的な提案が取り上げられように試みるべきである。今回のワークショップでは、地域内の政府、国内人権機関、NGOがより議論をしやすくするために、結論の添付文書(取り組みのリスト)はワークショップの始めに出されるべきだったであろう。
ワークショップの実施スタイルもまた重要な要素である。国連の儀礼や伝統に基づいた堅苦しいスタイルは、率直で積極的な議論を妨げる。多くの政府が対立を避け対話を促進する必要を掲げているにも拘わらず、ワークショップの形式主義がそれを妨げている。APEC会議の非公式会議では「ノーネクタイ」で話がされ、個人的で且つ公式的な相互交流はより目立った。もし政府間の「信頼の構築」が重要であるなら、それはワークショップにおいても実践されるべきである。
また、参加する政府代表は外務省からの参加のみではなく、関連する他の省庁からも参加すべきである。
最後に、このワークショップは代表を送るそれぞれの国の一般大衆にも広く周知されるべきである。 ワークショップの開催前、開催中、そして開催後と、メディアの報道はこの重要な取り組み(ワークショップ)についての公の関心を持続するのに必要である。ワークショップの宣伝はうまくいけば人権問題について人々が政府、国内人権機関、NGOと対話するのに勢いをもたせるだろう。
ワークショップの議論を豊かにさせるためにも、ワークショップと並行して、又は事前に、NGOや国内人権機関の集会が奨励されるべきである。
「人権のための国のキャパシティ(力)を高める」ためには、関連諸国の中で鍵を握る人すべてがワークショップに参加すべきである。このワークショップは極めて貴重な機会である。
(この文章はヒューライツ大阪英文ニュースレターでの筆者の文章を編集部で編集したものです。)
*1、*2
ともに詳細は英文ニュースレターまたはホームページのFOCUS第19号を参照してください。