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国際人権ひろば No.32(2000年07月発行号)

アジア・太平洋の窓

「子どもの商業的性搾取に反対する世界若者会議」に参加して

要 友紀子・河合 大輔・水島 希
エクパット・ジャパン・関西ユース(準)

 今年の5月21日から25日の間、フィリピンで「子どもの商業的性搾取に反対する世界若者会議」という長い名前の会議が開催された。私たちはそこに若者代表(要・河合)とおとな付き添い(水島)として参加した。

ストックホルムからマニラへ

 世界29カ国から約180人の参加で開催されたこのマニラ若者会議は、世界中で起こっている"Commercial Sexual Exploitation of Children" (子どもの商業的性搾取。以下、CSEC)に対してどのような取り組みが各国でこれまでなされてきたのか、これから何が必要なのかを話し合うことが目的であった。同時にこの会議は、参加者がCSECの当事者を含む子どもや若者たち自身であるという点で特別な意味を持つ。CSECを考えるとき、第三世界と先進国の間の格差の問題や、性暴力など性にまつわる問題が帯びる社会的な抑圧性の問題と同時に、子どもと大人の間の力関係の問題を無視することはできない。その意味で、CSECに対する社会的な議論や法整備などあらゆる過程に子ども自身の声を反映させていくこと、子どもが声をあげられる状況をつくっていことは不可欠の要素であるといえる。

 1996年8月にスウェーデンのストックホルムで開かれた第一回「子どもの商業的性搾取に反対する世界会議」では、122カ国の政府やNGO(非政府組織)代表などの中に世界中から集まった20人の子どもたちが参加し、自らの主張と要求を参加者に訴え、当事者参加の重要性を強く印象づけた。今回のマニラでの会議はその成功をうけ、子どもたちが2年もかけて準備してきたものだった。

ほんとに若者が運営していた!

 といっても、実際に参加するまでは、お飾り的な「良い子」が集まってるんじゃないかと私たちは(自分たちのことは棚にあげ)思っていた。しかしこの推測は見事に裏切られた。会議全体の進行をはじめ、会議の運営の主な部分は20代前半くらいまでの(主にフィリピンの)若者が担っていたのだ。各国からの参加者には、大人の付き添いの人に仕切られているように見える人もいたが、積極的に自分の意見を言う若者もたくさんいた。ただ、言語的な問題から、アジアの参加者は(私たちも含め)通訳を必要としている人が多く、議論についていけなかったり、即時応答ができないという場面が多々見られた。また、一口に「子ども」といっても、参加者は10代前半から20代後半までかなり幅があり、どうしても年齢層の高い人の方が主張・発言が多かったように思う。今後の課題と言える。しかし、日本でこのような若者会議を行ったとして、今回の様に多くの若者が司会やファシリテーターをつとめることができるかというと、難しいのではないかと思った。

世界の若者の報告

 会議では、世界を便宜上五つの地域にわけて行われた地域会議と、参加者が一同に会して各地域からの報告を聞く地域発表が大きな位置をしめた。私たちが参加したアジア地域会議にはカンボジア、インド、ネパールなど9カ国からの若者が参加しており、各国での子ども労働、人身売買の状況について、また各国で取り組まれている活動についての報告が行われた。参加者はそれぞれ歌や芝居で各国の状況を表現するなどして、見応えのあるものだった。

 この地域会議をうけて行われた地域発表では、ヨーロッパからインターネットをつかって(チャットなどで)ペドファイル(小児性愛者)が子どものふりをして子どもに近づく危険があること、またアフリカからは植民地化と紛争の結果としての国際債務、貧困などがCSECの問題を考えるときに重要な背景としてあるという指摘など、各地域に固有の問題の提起がなされた。この場でとくに印象的だったのはヨーロッパの発表に対してケニアの代表が質問した時のことだ。「ヨーロッパの人たちはなぜ私たちアフリカやアジアやラテンアメリカの子どもを買春しにくるのですか? ヨーロッパに子どもがいない訳じゃないでしょう。」この発言に会場から大きな拍手が起こり、その後、緊迫したやりとりがしばらくつづいた。ヨーロッパからの参加者は「経済格差やレイシズムが背景にある。こうした問題にも取り組んでいくつもりだ」という趣旨の発言で答えていた。このやりとりのなかで日本はヨーロッパの側に立っている。私たちはこの質問に何と答えられるだろうか。大きな課題である。

クリエイティブな表現による一人一人の参加

 この会議がとても楽しいものになったのは、様々な場面で身体表現や芝居などが表現方法として取り入れられていたことだった。とくにダンス、芝居、ビデオなどのグループに分かれておこなわれた"アートワークショップ"では、各グループがCSECにまつわることがらをそれぞれの表現方法で作品にして最終日に発表した。紙面でお見せできないのが残念だが、なかなかの完成度だった。こうした表現方法が楽しさを生むのは、一人一人が思い思いに自分の表現をできるということにある。会議では発言者が(言葉の問題もあって)限られるが、こういう活動では誰もが思い思いに参加できる。また表現していく過程で各人のジェンダーや人種的な先入観などが現れていたりして、そうしたことも問題にできる。日本ではなかなか難しいと思うが(なんでだろう?個人を認めない教育のせいかな)、こうした活動がとくにフィリピンではうまく取り入れられていた。

当事者サポートの重要性

 私たちは日本からのナショナルレポートで、日本では子ども買春の当事者たちがサポートをうけるのではなくて警察などによって「非行少女」として罰せられていることや、大人が「道徳教育」などをもちだすことで、サバイバーが自分の受けた行為をスティグマ化してしまうような社会状況がさらに強化されていること、若者たちが必要としている性的な情報(たとえば性感染症に関する知識や予防法、性暴力への対処法など)がまったく与えられていないことを指摘して、「道徳的説教」ではなくサバイバーの側にたった具体的な議論や取り組みが必要だということを訴えた。その点では昨年、制定された「子ども買春・子どもポルノ禁止法」は(少なくともその運用において)問題の的を外していると私たちは考えている。

 今回の会議で出会った多くの人たちは、こうした日本の状況にくらべて格段に進んだ活動を行っていた。サバイバーの側に立った活動が行われているのだ。ベトナムから参加していたストリート・チルドレンのサポートをしている団体の人は若者に配る性教育パンフを持っていたが、そこにはHIVについての正しい知識やコンドームの使い方などがきちんと書かれていた。スウェーデンからの参加者は男の子どもの性虐待サバイバーへのケア活動をしているといい、この面での取り組みが世界的に遅れていることを指摘していた。南アフリカからはCSECのサバイバーの15才の女の子が参加していて堂々と「アフリカには私のような状況にある子どもたちがたくさんいる。この状況をかえるんだ」と発言していた。また会議期間中には「CSECサバイバーだけのミーティング」が設定されていて、お互いの経験を共有しあう「ピア・カウンセリング」の場が用意されていた。

2001年横浜会議へ

 私たちは今回の会議で大きな課題を持ち帰るとともに、大きな希望をえることができた。世界中で起こっている子どもへの性暴力やCSECには複雑な背景がある。一方で、世界にはこれに立ち向かう様々な活動を行っている人たちがいて、経験がある。 来年の12月、横浜で第二回「子どもの商業的性搾取に反対する世界会議」が開かれる。日本政府は子ども・若者の参加、当事者の参加の重要性と困難性をどれだけ認識しているだろうか。世界中の子どもと若者が注目していることを忘れてはいけない。

追記:日本政府は第2回国際会議にむけて意見を募集しています。
若者・当事者が企画運営に加われるようメールを送って下さい。
第2回世界会議事務局 yokohama.congress@mofa.go.jp
詳しくはエクパット・ジャパン関西ホームページ参照。
http://www.tenkomori.org/ecpat.htm