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国際人権ひろば No.34(2000年11月発行号)

ヒューマンインタビュー

教育は希望、教育は生きる力

バイマーヤンジンさん
チベット人声楽家

 私が生まれ育ったチベットでは約80%の人たちが遊牧にかかわって生活を営んでいます。草原で放牧生活している人たちだけでなく、町の中で暮らす人たちも家で牛や羊を飼って生活しています。私の両親も遊牧民でした。私たちは両親と子どもたち9人の大家族でした。私の母は、教育を受ける機会がなく字が読めず苦労してきました。両親は子どもたちをみんな学校に行かせたいという強い願いで町に定住しながら遊牧の生活をしていました。遊牧は、家族全員で協力しなければ両親だけではできない大変な仕事です。だから私たちは自然にお互いに助け合って生きてきました。

 私は家事をしながら一生懸命勉強して、チベット人として初めて中国国立四川音楽大学声楽部の本科生として学びました。 卒業後は同校の専任講師に就任し、中国各地でコンサートに出演しました。1994年来日後、阪神淡路大震災救援演奏会等での演奏活動を続ける一方で、日本でただ一人のチベット人歌手として、チベットの文化・習慣を紹介するため積極的に講演活動を行ってきました。

 私はどんなときも自分の言葉で自分の考えを伝えようと努力し、人間は必ず理解し合えることを身をもって実感しました。 文化や習慣は異なっても、人間はみな同じなんだということに気付きました。

 私の話を聞いた方から「バイマーヤンジンさん、今までチベットは遠いところのように思っていたけれど、あなたの話を聞いてチベットを近く感じるようになりました」という言葉を聞くと本当に嬉しい。そんなとき世界が小さくなってきていると実感するのです。

 様々な人々との心の交流を通じて私は成長することができ、より大きな喜びを得ることができました。お互いに自分の心の壁を乗り越えれば、人間は必ず理解し合えることを伝えたい。人間はお互いに違うからこそ交流する意味があるのです。 そしてそのことこそが世界の平和のための礎となるのです。

 日本という異なる社会に生きてきて、今私は遊牧の豊かな心を受け継いでいることを実感し、チベット人であること、遊牧民であることを心から誇りに思うようになりました。自分の両親が私の誇りです。私の両親は字が読めません。しかし私に人間として大切なことを教え育ててくれたのは遊牧の生活であり、私の両親なのです。

 今、日本社会では「切れる」とか「17歳問題」という言葉に象徴されるようにしきりに子どもたちが批判されています。私は日本で小・中・高等学校やPTAに招かれて講演活動をする機会が多いのですが、そこで深く感じるのは、もちろん子どもたちの責任もありますが、子どもたちは大人のすることを見て育ちます。大人はその責任から逃げてはいけません。

 正直に言うと、私も以前、「荒れている」と言われる学校に講演に招かれたときは、子どもたちの態度に閉口しいやだなという気持ちになりました。しかしこの夏3カ月間チベットに帰って考えが変わりました。私は教育を受ける機会の少ないチベットの子どもたちのために学校建設のため講演活動やコンサートを行ってきました。私が子どもたちのために学校をつくるのは、子どもたちにもっともっと成長し、強くなってほしいからです。どこに行っても自分の意見をきちんと発言できるようになってほしいのです。 そして広い世界を見てもらいたいのです。

 それなのに私が日本の子どもたちの抱える問題から逃げ出してしまったら、子どもたちはどうなってしまうでしょうか。 チベットの子どもたちも、日本の子どもたちも同じです。私は子どもたちと真正面から向き合いたい。こういう子どもたちがいるからこそ、私の果たすべき役割があると思うようになりました。今年は、たくさんの方々の支援に支えられて、チベットに学校を建設できた喜びから勇気と希望が湧いてきました。学校に行くことができればそれで子どもたちの人権が守られるというわけでなく、子どもたちが将来自分の力で生きていけるようにする教育こそが人権のために大切なのです。

 私の活動は、チベットに学校を建設してそれで終わりというわけではなく、今後はチベットと日本の架け橋となり、子どもたちが交流できる機会をつくりたい。チベットの子どもたちには人間の可能性、現代文明を見てもらいたいし、日本の子どもたちにはチベットから何かを感じてもらいたい。「荒れている」と言われる学校の子どもたちにこそそのチャンスをつくってあげたい。 それがチベットと日本の子どもたちの将来の力になれば嬉しいです。

(聞き手:ヒューライツ大阪・藤本)