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国際人権ひろば No.35(2001年01月発行号)

特集

人種主義・人種差別とは何か Part.2

 ここでは、反人種主義・差別撤廃世界会議の準備段階で作成された国連文書(ベラジオ [Bellagio] 会議での報告、A/CONF.189/PC.1/10、2000年3月8日)から、第一部の「人種差別の本質(The Nature of Racism)」の部分を抜粋、翻訳して紹介します。

人種主義の本質

 はじめに、もともと「人種」の概念は、政治的な目的で頻繁に利用される社会的に作られたものであると認識する。圧倒的勢力の権威が、科学的、人類学的な問題として、人間が違う「人種」に決定的に分類されるという認識が神話であることを証明している。人種は一つしかない。それは「人間」という人種である。

 「人種主義」や「人種差別」の形態、種類、定義は一つではないということもまた同様にして明らかである。 しかし、ここでは便宜上、人種差別撤廃条約(あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約)の1条1項の「人種差別の定義」に従おう。

 「人種、皮膚の色、世系又は民族的若しくは種族的出身に基づくあらゆる区別、排除、制限又は優先であって、政治的、経済的、社会的、文化的その他のあらゆる公的生活の分野における平等の立場での人権及び基本的自由を認識し、享有し又は行使することを妨げ又は害する目的又は効果を有するもの」

 人種主義(および人種差別)は世界中のあらゆる国や国際地域のすべての社会にある程度存在し、存続している。人種主義の表れ方および浸透のしかたは文化、文脈、時代によって様々であり、ゆえに戦略をもって闘わなければ(combat)ならない。

 人種主義は社会の営みのレベルによっていつも目に見えるものとは限らないが、偏在している。多くの文化、国、地域で人種主義の存在そのものがまさしく否定されている。

 否定の現象は、人種主義を認識し、効果的に注意を喚起することを特に難しくする。否定は様々なレベルで行われ、ある状況を説明する際に使われる言葉でさえ否定されることがある。「民族的マイノリティ」、「民族紛争」「移住制限」「ニューカマー」「不法滞在外国人」「都市の貧困者」「肌の色にこだわらない」などの言葉が、ある社会的な行動や態度、政府の方針の人種主義的な側面を否定したり不明瞭にするために使われる。

 悪質で陰に隠れた行動や否定に加えて、人種主義は態度(意見、信条、ステレオタイプ)、イデオロギー、私人間の関係、社会的な営み、そして制度においても表れる。制度化された人種主義では、差別、軽視、不利益のパターンが組織的で持続的となり、それはしばしば単に「制度の機能する様」となってしまう。つまり、それが事実になってしまい、裏に潜む問題や可能な解決策を不明瞭にしてしまうのである。

 人種主義は権力を手に入れ維持するための道具である。今日の世界の人種主義の重大な原因(と結果)は植民地主義と奴隷制に根をもつ。しばしば行われた特定の民族集団へのほぼ完全な搾取、強奪、混乱、土地と資源の横領、人間性までの否定などが結果としてもたらされた。植民地主義と奴隷制の今も引き継いでいる遺物は、程度の差はあれ多くの場所や形態の中に証拠として明らかに残っている。奴隷制は、いまだに廃絶されておらず、伝統的な形態もしくは、国内や国境を越えた人間の密輸のように今日的な形態で残っている。国家、民族、集団の経済的、技術的な発展のレベルは、総じて植民地主義や奴隷制によって引かれた人種的なラインに沿って発展し続けている。それは歴史的不平等や不正義の影響を今後も引きずっていくという証言にもなってしまっている。

 人種主義は社会的、経済的要素と複雑に絡んでいる。人種主義はしばしば社会的、経済的不平等の基礎になっていて、多くの社会においては、人種の問題と社会的、経済的階層がしばしば相関している。世界中の貧困者のほとんどは有色人種である。 人種差別に直面している集団は土地、富、雇用、教育、健康、社会サービスへのアクセス、法律による保護、環境の保護を否定されている。貧しい人々はしばしば人種主義的な言葉で表現され、自分たちの欠乏を非難される。

 人種主義は現在の経済のグローバル化のパターンに浸透している。現在進行している市場、経済、国民国家の融合は豊かなものと貧しいもの(国家や国民)の格差を広げる作用をしている。それは、排除と軽視の新たな形態を創り上げる一方で、制度化した堅固な人種主義を助長している。膨大で急速な資本、資源、技術の移動が奨励され十分に規制されない一方で、それに付随する人々の移動や移住は厳しく規制されている。外国人排斥、移住者への差別はますます広がり、多くの社会と政策の共通的側面となっている。

 人種主義は、民族性(Ethnicity)や民族的アイデンティティーの問題と関連しており、それらは政治的に操作され「民族浄化」やジェノサイド(集団殺害)などの国内および国境を越えた民族紛争に導かれる。人種主義はまた、世界中のあらゆる地域で組織化された著しい差別にさらされている先住民族の問題とも関連している。

 人種主義はその他の形態の差別や不寛容ともつながっている。すべての人間は、人種、肌の色、民族性、国家的または言語的出自、階層、カースト、ジェンダー、性的指向など多様なアイデンティティの基盤を持っている。人種主義は人あるいは集団が直面する複数の形態の差別を複合させる。例えば、肌の色や話す言語に基づいた人種的集団の内部でヒエラルキー(階層)が作られたりもする。このように、人種主義は内面化され、同じ人種集団の人間に対する差別が結果として生じることがある。ある人種差別の犠牲者は加害者ではないとは必ずしもいいきれないのである。