現代国際人権考
二〇〇一年八月三十一日から九月七日まで、南アフリカのダーバンで、国連の反人種主義・差別撤廃世界会議が開かれる。この会議は、以下で説明するように、大変重要な会議であるにも拘わらず、日本ではあまりよく知られていない。おそらく「人種主義」が日本と日本人の問題ではないという誤解があるために注目されないのであろう。
確かに世間で「人種主義」というとユダヤ人に対する大量殺戮や南アフリカの「黒人」に対するアパルトヘイトを連想するのが普通である。幸い、日本では、ユダヤ人や「黒人」に対するそのような暴力的な差別は存在しない。だから、反人種主義の会議は他人事と受け取られても仕方がない。しかし、今回の国連会議で扱われるのは、国連で採択された人種差別撤廃条約の定義する「人種主義・人種差別」であって、世間でいう人種主義よりはるかに広く、日本ですでに問題にされている様々な差別、例えば部落差別(これはこの条約で『門地』または『世系』にもとづく差別として広い意味の「人種差別」に含まれている)、沖縄構造差別、アイヌ民族差別、在日コリアン差別、一般的な在日外国人差別などをすべて取り上げる予定である。さらに、石原都知事の「第三国人・不法入国外国人」発言や、森首相の「神の国」発言のような排外主義・日本中心主義についても当然問題になるはずの、日本にとっても決して無視できない国連会議なのである。
この世界会議は国連会議としても特に注目すべき会議である。つまり、環境問題(九二年、リオ)、人権問題(九三年、ウィーン)、社会開発問題(九四年、コペンハーゲン)、人口問題(九四年、カイロ)、女性(九五年、北京)、居住問題(九六年、イスタンブール)などの一連の国連会議で取り上げられた、例えば先住民族の土地権問題、発展途上諸国の女性や子どもの人身売買問題、マイノリティの居住差別問題などが、(特に女性差別との複合が問題にされることになっているが、)人種差別の問題として取り上げられる。このことを理解して日本でも人権問題・差別問題に関わるすべての市民が是非関心をもつべき会議である。なぜなら、この会議で出される「ダーバン行動計画」は、今後の国連加盟諸国の行動基準となり、行動計画の実施状況に関して各国の提出する報告書が国連で審議されることになるからである。 この会議の開催に向けて、マンデラ元南アフリカ共和国大統領などが署名した「寛容と多様性~二十一世紀のビジョン」宣言が、「世界会議は、すべての人間の尊厳と平等性、その人権の完全な尊重を保障する基準、構造、対策 ― 要するに文化― を明確にする宣言と行動計画を採用すべきである」としているのは、その経緯をよく示している。