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国際人権ひろば No.36(2001年03月発行号)

コラム人権教育

「人権教育・啓発推進法」を活用し、人権の二十一世紀の創造を

友永 健三(ともなが けんぞう)
(社)部落解放・人権研究所所長

「人権教育・啓発推進法」が公布・施行

 「人権教育及び人権啓発の推進に関する法律」(以下「人権教育・啓発推進法」と略)が議員提案立法として成立し、昨年十二月六日に公布・施行された。これは、人権の二十一世紀の創造を願う多くの人びとの努力の結晶である。けれども、この法律は、枠組みを定めただけの法律であり、この法律を生かしていけるかどうかは、これからのわれわれの努力にかかっている。

「人権教育・啓発推進法」の内容

 「人権教育・啓発推進法」の内容は、第一条(目的)、第二条(定義)、第三条(基本理念)、第四条(国の責務)、第五条(地方公共団体の責務)、第六条(国民の責務)、第七条(基本計画の策定)、第八条(年次報告)、第九条(財政上の措置)、及び附則(人権擁護推進審議会の「救済」に関する審議結果をも踏まえ三年以内に見直しをする旨の規定等)から構成されている。

 また、この法律が衆・参両院の法務委員会を通過した際、衆議院では三項目、参議院では四項目の附帯決議がつけられた。

「人権教育・啓発推進法」制定の意義

 「人権教育・啓発推進法」が制定された意義としては、以下六点をあげることができよう。

(一)日本に存在している部落差別をはじめあらゆる差別の撤廃と人権確立に役立つ。
(二)日本国憲法、教育基本法の中に盛り込まれている差別撤廃と人権確立にかかわる条項の実現に役立つ。
(三)日本が締結した国際人権規約や人種差別撤廃条約などに含まれている人権教育に関する条項、さらにはこれらの条約の委員会から日本に対して出されている勧告の具体化に役立つ。
(四)七年目に入る「人権教育のための国連十年」について、その法的根拠を得たこととなり、「十年」にちなんだ取り組みの拡充に役立つ。
(五)国、地方自治体、学校、企業、マスコミなどあらゆる分野での人権教育の推進に役立つ。
(六)総じて、人権の二十一世紀を創造していくことに役立ち、日本の国際貢献ともなる。 (筆者の知る限り「人権教育・啓発推進法」といった法律は、他の国ではみられない。 )

「人権教育・啓発推進法」の問題点

 「人権教育・啓発推進法」には、上述したように多くに意義があるが、いくつかの問題点も含まれている。

 その第一は、国が策定することになっている「基本計画」の内容が不明確であることと、誰が策定するかについて明確な規定が欠如している点である。この点は、国会での審議の中でも議論され、附帯決議の中で一定の歯止めがつけられた。

 まず「基本計画」の内容については、「『人権教育のための国連十年』に関する国内行動計画等を踏まえ、充実したものにすること」とされた。このことによって、「基本計画」の内容は、少なくとも「十年」に関する国内行動計画を下回ってはならないこととなった。

 また、「基本計画」の策定にあたって、「地方公共団体や人権にかかわる民間団体等関係方面の意見を十分踏まえること」とされ、政府が一方的に策定してはならないとされた。

 第二の問題点は、地方自治体の取り組みへの財政補助が「講ずることができる」との規定にとどまり、義務的なものとならなかったことである。そこで、人権教育・啓発に取り組む草の根の運動と地方自治体とが連携して「財政補助を講じてもらいたい」と国に迫っていく必要がある。

 第三点目の問題は、この法律の所管が法務省と文部省(法務省中心)となったことである。この点については、国会審議の中で論議になり、両省以外にも厚生・労働省をはじめ、全府省庁に人権教育・啓発は関係していることが明らかになった。この点に関しても附帯決議の中で「人権政策は、政治の根底・基本に置くべき重要課題であることにかんがみ、内閣全体でその取り組みに努めること」と指摘された。これを踏まえ、早急に所管を内閣府に移す必要がある。

「人権教育・啓発推進法」制定後の課題

 連続保険金殺人事件や相次ぐ児童虐待に象徴される憂慮すべき日本の人権状況、「差別身元調査事件」の発覚やインターネットを悪用した差別煽動に代表される部落差別や民族差別等の現状を直視したとき、「人権教育・啓発推進法」が制定されたことの意義は大きい。

 最後に、今後の課題を八点提起しておきたい。
(一)「人権教育・啓発推進法」が制定されたことを大々的に宣伝すること。
(二)全府省庁に人権教育・啓発を推進するための体制の確立と計画の策定を求めていくこと。
(三)全ての自治体に人権教育・啓発を推進するための体制を確立し、計画を策定することを求めていくこと。 (さしあたり、全ての自治体で「人権教育のための国連十年」推進本部の設置と行動計画の策定を求めていくこと。 )
(四)保育所、幼稚園、小学校、中学校、高等学校、大学、大学院大学等全ての教育機関で人権教育をカリキュラムの中に明確に位置付けることを求めていくこと。
(五)企業や宗教団体、マスコミや法曹関係者の中での人権教育の推進を求めていくこと。
(六)教員や公務員、警察官や検察官、福祉や医療関係職員など人権との関わりの深い特定職業従事者に対する人権教育の一層の推進を求めていくこと。
(七)隣保館や公民館などを拡充し地域に密着した人権教育・啓発センターを整備することと、人権教育・啓発を推進していくための資格を持ったリーダーの養成を求めていくこと。
(八)「人権教育・啓発推進法」(附帯決議を含む)を英語、ハングル、中国語等に翻訳し国内外に紹介することを求めていくこと。 (英文については大阪大学の平沢安政教授の手で翻訳がなされ、部落解放・人権研究所のホームページhttp://blhrri.orgに掲載されている)

(「人権教育・啓発推進法」と附帯決議は(財)人権教育啓発推進センターのホームページhttp://www.jinken.or.jp/に掲載されています)