国連ウォッチ
~審議時間、声明数、決議数、女性参加者数は最大規模、進展と消極姿勢の狭間で展開する人権教育
2001年3月19日から4月27日にかけて、国連人権委員会第57会期がジュネーブで開催された。会期中は、南アフリカで8月末から開催予定の「反人種主義・差別撤廃世界会議」に関して様々な視点から言及された。また、人権委員会担当の国連事務局によると、全体会の合計時間、声明の数(1,300以上)、採択された決議と決定の数(101)、同時開催小会合の数、特に女性の増加をみた参加者総数(3,663名)など、どれをとってもこれまでで最も多い数となり、例年人権委員会の会場となっているジュネーブ国連事務局内の17番会議室がもはや手狭になったともいわれ始めた。今会期に参加した国家首脳も世界人権宣言採択50周年にあたる1998年の時の記録と同数となり、コンゴ民主共和国、フランス、マケドニア、スイス、ユーゴスラビアの大統領がスピーチを行った。
今会期でも、広範囲にわたる多種多様な人権問題が扱われたが、ここではそのうちの幾つかに焦点を絞って報告させていただく。
全体会における個別の国・地域に関する審議では、アフガニスタン、ブルンジ、コンゴ民主共和国、キューバ、赤道ギニア、ロシア領域内のチェチェン、イラン、イラク、ミャンマー、ルワンダ、シエラ・レオネ、スーダン、南・東欧における人権状況についての決議がそれぞれ採択された。一方で、中国の人権状況に関する決議案もあったが、例年同様、中国による「動議」が、賛成23、反対17、棄権12という投票結果で認められ、採択されないこととなった。
一方、大規模人権侵害を非公開で審議する1503手続の下では、コンゴ共和国、モルディブ、トーゴ、ウガンダの4カ国が扱われ、トーゴについては検討が持ち越されることになった。
人権委員会では特定テーマにおいて情報の収集や実情調査のために特別報告者を任命しているが、今会期では、傭兵、有毒廃棄物、拷問、信教の自由、意見と表現の自由、教育への権利などの各テーマに関する特別報告者の任期更新が決定された。人権の文脈での有毒廃棄物に関する特別報告者の任期については、15の委員国が人権委員会以外の場で扱うべきだとしたが、38の委員国によって任期更新が決定された。様々な分野と人権問題の深い関係性を証明する一例といえよう。また、多くの政府代表が、これら特別報告者の自国への受け入れを強く表明する声明を行ったことも今会期の特徴といえよう。しかし一方で、いくつかの政府代表による個人攻撃とも言えるほど、数名の特別報告者に対する批判発言もあり、議長と国連人権高等弁務官は、ともにそういった批判に深い憂慮を表明し、特別報告者への更なる支持の必要性を訴えた。
また、人権委員会は、経済社会理事会に提案されることとなる次のようなポストの設置を決定した。
1)ボスニア・ヘルツェゴビナ及びユーゴスラビアの人権状況を調査する特別代表(決議2001/12, para.40)
2)社会権規約の選択議定書草案の問題を研究する独立専門家(2001/30, para.8(c))
3)非自発的失踪から人々を保護するための既存の国際法枠組みを検討する独立専門家(2001/46, para.11)
4)先住民族の人権と基本的自由の状況に関する特別報告者(2001/57, para.1)
人権委員会でしばしばもたれる「特別討議」のテーマは、今回は「寛容と尊重」であった。調停、社会的排除、宗教、ジェンダー(性の平等)、教育、移民などが焦点となり、パネリストの一人、オーストラリア連邦議員のうち唯一人の先住民族出身者であるアデン・リッジウエイ氏による先住民族の権利を尊重することの重要性の主張や、「多くの国々で女性の権利の実現が歯がゆい状況である一方、公の場で議論すること自体はもはやタブーではなくなりつつある」こと、また、「移民は社会を成熟させることに貢献する」など、活発な意見が交わされた。
今回、総意で採択された、「人権教育のための国連10年(1995-2004)」(2001/61)と題する人権教育に関する決議は、これまでのものと比べて一つの進展があったといえよう。昨年9月に出された「人権教育のための国連10年」の中間評価に関する報告書(※)に含まれている様々な「勧告」が、アネックス(Annex)として決議末尾に添付された。一方、今回の決議の履行の側面では、各国政府に対して「促す(invite)」という表現となっており、人権教育の重要性については全会一致にいたりながらも、履行義務については各国政府の消極性がかなり根強いといわざるを得ない。決議草案作成の過程においても、中間評価報告書の決議本文の中での取り扱いについて複数の委員国から消極的意見が主張され、表現がいくつか変更されたことも事実のようである。人権教育の一層の推進に向けて、NGOの側からも人権委員会の場で声明などによる更なる主張を行っていく必要があろう。
今会期では、「民主主義」と「統治」についていくつかのアプローチで決議が採択された。「民主主義の根本基盤としての民衆参加、公平、社会正義ならびに非差別の強化」、「民主主義を促進かつ強化する手段に関する対話の継続」、「民主主義と人種主義の相反性」「人権促進における良き統治の役割」などがある。また、「移民とその家族の保護」と題する決議が今回新たに総意で採択された。この決議では、移民とその家族を人身売買や密輸斡旋者、犯罪組織などから保護する方途について関係諸国が取り組むよう奨励している。その他に、昨年までの「平和の文化に向けて」という決議に代わり「平和への人々の権利の促進」と題する決議や、「人権と国際連帯」などといった決議も採択された。
日本に関連することとして、「女性の人権」の審議のとき、韓国ならびに北朝鮮が、日本の「従軍慰安婦問題」に対する対応が不充分であるとの発言を行った。韓国は、1995年に、「日本との今後の信頼関係のために、政府間の公の場(人権委員会など)での従軍慰安婦問題へのさらなる追求や批判はせずにその後の日本の誠意に基づく対応に任せたい」としていたのだが、今回このような発言を行った背景には、現在の歴史教科書の問題が大きく影響しており、「子どもの人権」の審議のときには、教育における「歴史の歪曲」であるとして、韓国、北朝鮮、中国などが発言した。日本政府は、「国内の教科書検定委員会の存在のため、政府としては教科書の内容に関する決定権がない」、と釈明した。
人権委員会で採択された全ての決議については、国連人権高等弁務官事務所のホームページ(http://www.unhchr.ch/html/menu2/2/57chr/57main.htm)を参照されたい。来年度の会期は、2001年3月18日から4月26日に予定されている。
* 「人権教育のための国連10年」の中間評価に関する国連報告書の翻訳全文は、ヒューライツ大阪のホームページで読むことができます(https://www.hurights.or.jp)。また、印刷版をご希望の方は、ヒューライツ大阪事務局まで。