人権の潮流
「第4回移住労働者と連帯する全国フォーラム・関西2001」(8/11-12、大阪)を終えて
今回の「移住労働者と連帯する全国フォーラム」は、大きな変化のただなかで構想され、実施された。
グローバリゼーションと呼ばれる世界の動向のなかでも、とくに民族というものをめぐる状況の変化は大きく、また急速である。日本社会もまた例外ではなく、ここでは「多民族化」が着実に進行しているとともに、戦後日本の原理だった一民族からなる国民国家の枠組みそのものにも"揺らぎ"が生じている。
そこにいくつかの社会ビジョンが登場している。その一つが、さまざまな色合いの「多文化共生社会」の主張である。その対極には、日本というものの価値とその防衛を訴えて他者の排除を主張する勢力もあり、その代表には石原都知事の度重なる差別発言がある。
こうした流動的な状況のなかで、政府や政権党の外国人政策がひとつの形をとりはじめた(2000年3月法務省告示の『出入国管理基本計画(第二次)』、国籍取得要件緩和法案など)。そこでは、「日本人=国民」を中心として外国籍者を次の三つの階層に分類し配置する新たな秩序の形成が図られている。
1. "日本人の外縁"の位置が与えられ、日本人に準じて段階的に権利が認められる外国人。在日コリアンなど旧植民地出身者とその家族、いわゆる「日系人」や日本人の配偶者など。
2. ただ労働力としてのみ受け入れられる移住者。
3. 排除の対象として扱われ、完全な無権利状態におかれる「不法滞在者」。
このような多民族秩序は、「多文化共生」の主張の一部を取り込み、「不法滞在者の合法化」など権利について譲歩もしている。しかし権利の階層化は、普遍的人権の原則とは両立しえない。またそこには"日本というもの"の価値と枠組みが原理として貫かれており、結局は民族的マイノリティの権利を犠牲にして「日本人=国民」の統合を再編、維持するものである。
こうした外国人政策の構想に対して、私たち市民運動が出遅れており、また無防備であることは、率直に認めなければならない。
全国フォーラムの準備は、以上のような状況のなかで進められた。私たちはこの状況を、歴史的な文脈と世界的な視野をもって検討することとした。そのうえで多民族・多文化共生社会を構想するために、"わたしたちの課題"を洗い出すことを目指した。
今回の全国フォーラムには、私たちの思惑を大きく超えて、二日間で延べ1,100人もの市民が集まった。フォーラムでは決議や声明はあえてまとめなかったが、これほど多くの人びとが集まり、問題提起を受けとめ、話し合ったという事実は残る。その内容は、かならず今後の議論の土台となりうるし、またそうしなければならないと、私たちは確信している。
以下、全国フォーラムに提起された課題と今後に残された課題を、パネルディスカッションの内容を中心に、若干の私見も交えて、書き留めておく。
民族差別は被害者のある犯罪行為である。にも関わらず政府はこれを放置し、加害者を擁護さえしている。辛淑玉(人材育成コンサルタント)はこう強調した。
こうした差別と排外主義を社会的に抑止していく第一歩は、それを犯罪として明確に規範化する人種差別禁止法の制定である。
政府や政権党の民族政策は、過去の忘却に基づいている。
日本企業による外国人労働力の利用と人権侵害や、外国籍者の社会権からの排除は植民地支配と侵略の時代から連続している問題である、と田中宏(龍谷大学)は指摘した。現在の在日外国人の人権課題は、歴史的課題に結びつけて考えられる必要がある。
日本社会の中だけで充足する「多文化共生」もありうるし、政府や政権党の民族政策はそうした観点を国民に求めている。
レックス・バローナ(アジア・マイグラント・センター)とレニー・トレンティーノ(横浜教区滞日外国人と連帯する会)は、日本の市民運動が、資本が移住者の出身国で引き起こしている問題にも目を向けるよう求めた。
また、グローバリゼーションをたんに移住現象の背景として説明するのではなく、移住者が生きている現実として見つめ、そこから課題を探らなければ、移住者独自のマイノリティの権利は考えられない。その作業はこれからである。
エンターテイナーや日本人の配偶者として来日する女性移住者は、日本社会のなかで"見えない存在"にさせられ、そのアイデンティティは否定されている、とレニー・トレンティーノは訴えた。市民運動は女性移住者の現実を明るみに出し、私たちの構想の中心課題としてジェンダーの問題を取り上げる必要がある。
今回、分科会の後に「外国籍女性の支援ネットワーク」が組織された。
階層的な「多民族秩序」への批判は、それぞれの民族集団が与えられた地位とは異なるあり方を模索し、立場の違う者の間での連帯を模索することにつながる。
この問題は、他の誰でもない、民族的マジョリティである日本人にとって重要である。
在日コリアンは、権益擁護のため日本人社会に要求することを超えて、地域社会の責任をもった主体として考え、行動していかなければならない、と文京洙(立命館大学)は提起した。実際、在日コリアンの団体は、今回の全国フォーラムを開催地実行委員会の主要メンバーとして担い、自らの人権課題の解決とともに、新しい移住者とのあるべき関係を模索する分科会をもった。
新しい移住者がグローバリゼーション下の困難な現実のなかで、人権保障を担える自覚的で主体的な組織をどのようにして形成できるのか。日本人は、在日コリアンは、それをどのように支援できるのか。こうした課題をめぐって、分科会「移住労働者のエンパワメント」で討論が交わされた。
マイノリティの権利とは、マイノリティが普遍的な権利を非差別平等に保障されることに加えて、その独自の民族的・文化的なあり方を保持、表現、発展させながら、マジョリティをふくむ社会に参加していく権利である。これは、私たちの構想を支える基本的な考え方のひとつとなりうる。
今回の全国フォーラムでは、マイノリティの権利の要として、公教育における民族教育と母語・母文化の保障について、いくつかの分科会で話し合われた。
* 「人権教育のための国連10年」の中間評価に関する国連報告書の翻訳全文は、ヒューライツ大阪のホームページで読むことができます(https://www.hurights.or.jp)。また、印刷版をご希望の方は、ヒューライツ大阪事務局まで。