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国際人権ひろば No.40(2001年11月発行号)

アジア・太平洋の窓

国際刑事裁判所とアジア

ジェファーソン・プランティリア
ヒューライツ大阪主任研究員

 1998年7月、国際刑事裁判所規程(ICC規程)が採択された際、参加160カ国中120カ国が賛成票を投じたが、アジア諸国の数カ国は反対に回った。この規程が署名のために開放された期間の最終日の2000年12月31日までに署名したアジア諸国はたった10カ国であった。2001年9月時点で規程を批准しているアジアの国は1カ国(タジキスタン)だけである。

 世界の中でアジア地域におけるICC規程の批准・加入率は非常に低い一方で、世界的な批准・加入率は非常に高く、3年間で37カ国が既にICC規程の加盟国となっており、あと23カ国の批准・加入があれば、規程は発効する。しかしICC規程が発効する時の最初の60カ国の中に多数のアジア諸国が入るという展望はあまりもてない。ICC規程はアジア抜きで発効してしまうのだろうか。

 国際刑事裁判所と東アジアにおけるその意義に関する東北アジアワークショップが2001年8月11日から14日まで香港で開催され、香港、台湾、中国、韓国および日本からの参加者が東北アジアにおけるICCのキャンペーンについて討議した。

ICC規程

 ICC規程は重大な犯罪を行った個人の責任を問い、被害者に補償を提供するために必要ないくつかの原則を含んでおり、この規程によって常設の国際刑事裁判所が設置される。オランダがその所在地となるが、公判は他の場所において行われることもあり得る。

 ICC規程は重大な犯罪として次の4つを挙げている。

 a.集団殺害(ジェノサイド)の罪
 b.人道に対する罪
 c.戦争犯罪
 d.侵略の罪

 侵略の罪を除いて、ICC規程の掲げる重大な犯罪を構成する行為は現行の国際条約および国際慣習法に基づいている。侵略の罪の定義はまた別途加盟国の合意を必要としている。

 ICC規程には犯罪の構成要件、証拠および手続規則や行政事項に関する「関連文書」が付帯する予定である。これらの文書は最終案が完成しているか、起案の最終段階にある。ICC規程に批准・加入する60余カ国は、規程が発効次第これらの文書も採択することになる。

 国際刑事裁判所は国連とは別の独立した存在であるが、国連と正式な関係を構築するために合意を結ぶことになっている。

 ICC規程の注目すべき点として次のようなことが挙げられる。

1. 一般的原則として、ICCは被告が加盟国もしくは規程に合意した国家の出身であるか、あるいは犯罪が加盟国もしくは規程に合意した国家の領域内で行われた場合のみに管轄権を行使する。
2. 国内救済措置が尊重され、国内救済措置がない、あるいは不十分である場合のみ事件はICCに付託される。国内裁判所で判決を受けた行為は、その裁判所の手続が国際法の適正手続に反しない限り付託されない。
3. ICCは規程が発効した後に起こった犯罪に対してのみ管轄権を有する。
4. レイプなどの性犯罪は重大な犯罪を構成する行為に含まれる。
5. 告訴ができるのは政府、被害者およびNGOである。捜査するか否かの検察の判断は予審部の審査を受ける。予審部の決定は最終的である。
6. 被告は欠席裁判を受けず、弁護人などの権利が保障される。
7. 死刑は科されない。
8. 子どもの権利条約に基づき、こどもは起訴されない。
9. 被害者は補償の権利を有する。裁判所は被害者の補償と権利回復のために必要な命令を発する権限を有する。

 ICC規程の当事国となる国家はICCに協力する義務を負い、付託された事件について情報提供を要請される場合もある。

東北アジアの状況

 東北アジア諸国の中でモンゴルと韓国だけがICC規程に署名をしている。韓国では批准のための法案が既に議会に提出済みであると報告されている。一方、中国と日本は規程採択時に反対票を投じた。中国が近い将来その立場を変えるということはまずないだろう。日本はしかし現在規程を検討中である。この背景を見ると東北アジアにおけるICC規程批准・加入のためのキャンペーンは困難な状況にある。

 日本におけるいくつかのNGOはキャンペーンを開始しており、その中でも2つの取り組みがあることが知られている。一つは世界連邦運動協会の日本支部が1997年に組織した国際刑事裁判所問題日本ネットワーク(JNICC)である。ここは会合の開催、パンフレット発行、ICCに関するウェブサイトの開設やICC規程に関する報道への働きかけなどを行っている。また外務省の高官に対し、日本がICC規程の加盟国となるよう働きかけるロビー活動も行っている。

 もう一つの取り組みとしてアムネスティ・インターナショナル日本支部はICC規程に関する学習会を開催し、ICCに関する情報を出版物の中で発信し、この問題について報道キャンペーンも実施している。これらの取り組みは両方とも東京で行われている。日本の他の主要都市ではまだこのような取り組みはみられていない。

 韓国においてICCはほとんど知られていないようである。ICC規程の批准手続を早めるよう政府に働きかける組織的なキャンペーンは報告されていない。

 中国にはICCに関するキャンペーンはまだないが、香港では現在計画中である。アムネスティ・インターナショナル台湾支部は「対第二国ロビー」を開始した。このキャンペーンはいくつかの国を選択して規程の批准を訴えるもので、選択した国の在台北大使館に代表を派遣し、それぞれの国が規程を批准するよう訴えている。

二つのユニークなキャンペーン

 ユニークな特徴をもった二つのICCキャンペーンがある。台湾からの参加者は台湾が国連の加盟国ではないので、台湾がICC規程の当事国となることはないと発言した。しかし、彼らは台湾の法がICC規程の原則に適合することが望ましい、という考えからICCのキャンペーンを行いたいと述べた。また、彼らは台湾の国内法を国際的な人権基準に合致させる必要があると感じている。

 彼らの実施している「対第二国ロビー」はICC規程の一般的な批准キャンペーンに役立っている。彼らが各政府に提出している請願書に対し、公式な回答を出している政府もあり、これらの文書はその政府を拘束するものではないが、公式文書として批准を促進し勧めるために用いることができる。

 香港は中国の特別行政区であり、ICC規程の当事国となることはできない。しかし中国は香港を当事者とする特別許可を発したり、規程に関与することを同意したりすることができる。いずれにせよ香港からの参加者は中国がICC規程の加盟国となるか、香港を何らかの形で規程に参加できるようにする必要があることを強調した。彼らによると、ICCの被告となった人が香港領域内に存在するということは将来起こり得ることであり、また香港の銀行に資金を有している可能性も出てくる。そのような場合、香港政府とICCとの協力が重要となる。香港は地域内の金融および商業的中心地であり、重大な犯罪を行ったとしてICC検察官の捜査対象となる人が訪れる可能性が非常に高い。

 台湾と香港の事例はICCキャンペーンの二つのあり方であり、自国がICC規程の加盟国となれない場合でも規程の原則に従うことに価値があることを示している。またICC規程の原則を国内法制度に導入し、重大な犯罪を行ったあらゆる人の責任を問えるようにすることの重要性も強調している。

東北アジアにおけるキャンペーンの展望

 日本、そしてできれば中国がICC規程の加盟国となるにはまだやらなければならないことが多い。韓国とモンゴルに対しては規程を早急に批准するよう促していかなければならない。従って東北アジアでのキャンペーンはアジアの他の地域と同様に重要である。同じようなキャンペーンが南および東南アジアでも開始されている。

 ワークショップではICC規程は多くの政府にとって基本的に合意可能なものであることが指摘された。主要な問題はICC規程に適合させるために現行法を見直したり、新たに立法を行ったりすることにある。従ってICCキャンペーンは国家に規程の当事国となるために必要な立法的措置をとることに合意するよう働きかけることに主眼をおいている。

 今回のワークショップはアジア人権委員会(AHRC)、人権と発展に関するアジアフォーラム(Forum-Asia)、および香港人権モニターの共催で行われた。詳細はアジア人権委員会(AHRC),Unit 4, 7 Floor, Mongkok Commercial Centre, 16 Argyle Street,Kowloon, Hong Kong, tel (852) 26986339, fax (852) 26986367,E-mail:ahrchk@ahrchk.org まで。

(翻訳:岡田仁子)