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国際人権ひろば No.42(2002年03月発行号)

コラム・人権教育

最近の国連による人権教育の取り組み

ジェファーソン・R・プランティリア(Jefferson R Plantilla)
ヒューライツ大阪主任研究員

国連と人権教育

 一九九四年末に「人権教育のための国連一〇年(一九九五~二〇〇四)」が宣言されて以来、人権教育の促進における国連の役割はより明確になった。「一〇年」により、国連は人権教育について追求すべき明確な課題を持っている。

 二〇〇一年十一月に国連が主催した人権教育のための二つの活動は、アジア・太平洋地域にとって重要な意味があった。これらの活動は、国連がその課題を追求していく上で引き受けなければならない役割をよく示している。国連は、各国政府が人権教育プログラムを導入するために役立つ国際的なガイドラインの策定を促進しなければならない。同時に国連は、各国政府が国際ガイドラインを国内のプログラムに反映させるために技術支援を提供しなければならない。

 二〇〇一年十一月二三~二五日にスペインのマドリードで開催された「宗教および信念の自由、寛容、反差別にかかわる学校教育に関する国際諮問会議」は、国際ガイドラインの策定への道を開いた。また、同年十一月八~九日に中国の北京で開催された「人権教育に関する国内ワークショップ」は、人権高等弁務官事務所を通じた国連と中国政府との技術協力協定によって実現した、具体的な国家レベルの取り組みだった。

 マドリード会議での主要な問題は、宗教教育はいかにして寛容と反差別の促進に、そして人権の伸長に貢献するか、ということだった。(注1)

 会議は次のように宣言している。「...宗教または信念の自由に関する教育は世界平和、社会正義、人民間相互の尊重と友好、人権と基本的自由の伸長という目標の達成にも貢献しうるものである」。また、宗教または信念の自由に関する教育は、「...良心、意見、表現、情報および研究の自由ならびに多様性の受容」の促進にも貢献しうる。(最終文書、パラグラフq、r)(注2)

宗教の自由と反差別をめざしたスペインでの会議

 マドリード会議では、教育制度における以下の要素の重要性を強調している。

a. 人権の伸長、偏見または宗教・信念の自由に反する概念の撤廃、多元性や多様性の尊重と受容の確保を目的とする教育政策(パラグラフ四)

b. 子どもの教育における親、家族、法的後見人、その他法的に認められた世話人の役割(パラグラフ九)

c. メディア、非政府組織(NGO)、その他市民社会の構成員の、宗教・信念の自由の領域における適切な知識を提供する役割(パラグラフ一五)

d. 初等・中等学校の段階で子どもの態度が形成されるという事実を考慮し、学校教育および、性格を問わずあらゆる教育機関による学校外の活動の、反差別と寛容を促進する役割(パラグラフ八)

e. 教員に対し、とりわけ多様な宗教や信念を学習する機会と、宗教・信念の自由に関する教育についての世界各地の経験から学ぶ機会を提供する支援(パラグラフ一〇)

f. 「宗教または信念の自由の領域における教育のための手法や教材の改訂、製作、普及、伝達ならびに交流」におけるマスメディアの役割(パラグラフ一一)

 会議は女性と少女、その他の社会的弱者集団の構成員の教育ニーズに注意を向ける重要性を強調している。

 マドリード会議の最終文書は、宗教の自由、寛容と反差別に関する学校教育の国際的なガイドラインとして扱われており、「人権教育のための国内行動計画のガイドライン」を補完するものとなっている。(注3)

 二〇〇一年八月末に南アフリカ共和国のダーバンで開催された「反人種主義・差別撤廃世界会議」に照らして考えると、マドリード会議は差別と不寛容の撤廃に向けた具体的な措置を求める声に直接応えるものである。

 国連が主催した「アジア・太平洋地域における人権の伸長と保護の地域的取り決めに関する年次ワークショップ」の成果として、「アジア・太平洋における地域的技術協力の枠組み」(注4)が策定された。この文書は同地域の各国政府が人権のプログラムを実施するのに役立つ諸活動を挙げている。

 この「枠組み」では人権教育に関する項目で、次の活動を記している:

 活動(b): 国連人権高等弁務官事務所が、加盟国政府の要請にもとづき、適当な場合にはワークショップの開催を含めて人権教育のための国家能力の発展に向けた技術協力と支援を提供すること。

中国で始まった人権教育

 韓国政府、ユネスコの韓国国内委員会と国連人権高等弁務官事務所はこの枠組みにもとづいて、一九九九年十二月一~四日、ソウルで「学校における人権教育に関する東北アジアワークショップ」を共同開催した。このワークショップには、中国、韓国、モンゴル、日本から政府やNGO、学校の代表者が参加した。

 その後、中国政府と国連人権高等弁務官事務所は技術協力活動に合意する覚書に署名した。これが基礎となって、二〇〇一年十一月八~九日に北京で「人権教育に関するセミナー」が開催されたのである。

 このセミナーには、様々な政府職員研修機関、教育省、大学、学校の代表者が参加した。

 参加者は次の四つの分野に関するフォローアップ活動について、提言をまとめた。一.初等・中等学校における人権教育、二.専門家や他の集団に対する人権研修(政府・公的機関職員、裁判官、教員、法執行機関、マイノリティ、非識字者など)、三.調査研究、四.制度の確立。

 この提言には、中国における人権教育が、文化、価値観、歴史、現在の経済発展といった中国の現実を反映すべきであるという見解が考慮されている。

 国連主催の活動によるこうしたガイドラインや提言はかなりありきたりな内容である一方、これらは、各国政府に対して人権教育の推進に積極的な役割を引き受けさせるために必要なのである。

(注1)
国連人権委員会の、宗教的不寛容の問題に関する特別報告者Abdelfattah Amorの「序言」にもとづく。

(注2)
マドリード会議最終文書の脚注によると、宗教または信念の自由は「一神論、多神論、無神論を信じること、また、いかなる宗教や信念をも信仰しない権利」を含むと理解されている。

(注3)
A/52/469/Add.1, 20 October 1997

(注4)
E/CN.4/1998/50, 12 March 1998

(翻訳:河昭子)

編集注:この報告は、ヒューライツ大阪の英文ニュースレター "FOCUS"No.27 (March 2002号)に掲載している原稿の抄訳です。