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国際人権ひろば No.46(2002年11月発行号)

特集・国際的な障害者の権利保障をめざして Part1

障害者権利条約に自分たちの声を -第6回DPI世界会議札幌大会

岡田 仁子 (おかだ きみこ)
ヒューライツ大阪研究員

 2002年10月15日から18日の4日間、札幌で第6回DPI(Disabled Peoples International・障害者インターナショナル)世界会議札幌大会が開催された。100を超える国・地域から3,000人以上の参加者が札幌市内の体育館「きたえーる」に集い、国際的な障害者の権利保障に向けた動きや各国の障害者政策に障害者自身の声を反映させようと「すべての障壁を取り除き、違いと権利を祝おう!」をテーマに4日間活発な議論やネットワーキングをくりひろげた。

DPI(障害者インターナショナル)とは

 DPIは、1981年シンガポールで設立された障害をもつ人の団体であり、障害をもつ人々自身を主体に、あらゆる生活の場における完全な参加、機会均等の実現などを促進することを趣旨とした国際NGOである。4年ごとに世界会議が開催され、今回の札幌大会は第1回のシンガポールに次いでアジアでは2回目の開催となった。

 ここ数年、とくに今年は障害者の権利をめぐる国際的および国内の様々な活動や計画の実績評価の時期に当たり、あるいは既に新たな展開が始まろうとしている時期で、今回の札幌大会はそのような動きを背景にして行われ、障害者の権利を保障する条約起草を促進しようと議論が盛り上がった。

国内外の動き

 今回の世界大会の国際的な背景として、先ず国連での障害者の権利に関する条約起草の動きがあげられる(「障害者の権利条約の行方」川島聡、『国際人権ひろば』2002年7月号・No. 44参照)。2001年の第56回総会決議で設置が求められた条約検討のための特別委員会の第1回会合が今年7月末から8月にかけて開催され、政府代表、国連機関、NGOなどが約2週間審議した。その会合では審議が具体的な内容に及ばなかったが、2003年5月に第2回会合を開催する勧告を含む報告が採択されて総会に提出されるなど、条約起草に向けて具体的な動きが始まっている。

 またアジア太平洋では、国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)が「アジア太平洋障害者の10年(1993-2002)」を採択し、地域の障害を持つ人の参加の拡大と平等を促進してきた。2002年5月には第二次10年が採択され、障害者の「包括的、バリアフリーで権利に基づいた社会の推進」がはかられることになる。DPIはこれら10 年の採択にあたり、各国政府やESCAPに積極的に働きかけている。

 日本では今年はノーマライゼーションプラン7カ年計画の最終年および障害者基本法10周年にあたり、またここ数年、交通バリアフリー法などの制定がみられたが、障害をもつ人の平等な社会参加にはまだ物理的・法的課題など残された課題は多い。また、国内でも障害者差別禁止法への議論が高まっている。

札幌大会

 15日の開会式は山田昭義DPI日本会議議長の歓迎挨拶、ジョシュア・マリンガDPI世界議長の挨拶にはじまり、小泉純一郎首相のメッセージ、北海道知事、札幌市長などの来賓挨拶に続いてジュディー・ヒューマン世界銀行障害問題顧問による基調講演が行われた。その中で、ヒューマンさんは障害をもつ人たちが他の人と同じ機会さえあれば、社会に貢献ができるということを強調し、そのために障害をもつ子どもや人に必要な教育を提供することや、社会における制度上および実際上の障壁を取り除くことの重要性を訴えた。

 午後に行われたシンポジウムではマリンガさん、ロン・ダッドレイさん、カッレ・キンキョラさんの歴代DPI世界議長およびベンクト・リンクビスト国連社会開発委員会特別報告者をパネリストとして、障害者権利条約の意義やDPIなどの取り組みについて議論が行われた。各氏とも従来の社会発展を主眼とした基準ではなく、障害者の権利を基盤とした条約の重要性をのべ、とくにその中で障害者自身の声を反映させ、自分たちが条約検討のプロセスに参加していくことがいかに大切かということを主張した。

 スピーカーの一人がポーランドの労働運動から引用した、「私たちのことを私たち抜きで決めないでほしい」、という言葉がその後の会議の発言の中で表現を変え、何度も繰り返されている。また会場から、条約プロセスに関する質問や今後の活動に関して質問やコメントが活発に提起された。

国際条約に向けて

 続く2日間は分科会が開催され、条約づくりや人権の他、自立生活、女性障害者、障害児、生命倫理、開発、労働と社会保障、能力構築、アクセス、異なる障害をもつ人やグループ間の連帯、各地域の状況や取り組みのテーマなどに分かれ、より具体的な問題について一層活発な意見交換が行われた。条約に関する分科会では、条約に関して、モニタリングの問題や他の国連機関との関係、今後の運動などさらに細かい議論が行われた。

 条約の意義に関連して、条約への意気込みや期待などが報告者や参加者から次々とあげられた。障害者の問題が他の人権の保障においてないがしろにされ、既存の条約の中で十分に取り上げられてこなかったことが指摘され、障害者の権利として条約がつくられることが障害者の権利の認識を高めるために必要だという考えが示された。

 条約の起草は障害をもつ人たちが平等に社会の一員であるという確認であり、社会への平等な参加につながるというのである。また、ある報告者は、つくられる条約だけでなく、その条約に至るプロセスが重要なのだとして、障害者の組織の連携・協力を訴えた。

 条約ができても、その批准に向けて、あるいはその実施に向けて、運動を続けていかなければならない。その一例として会場から障害者団体の国際的なネットワークである国際障害同盟(IDA)の代表による条約検討特別委員会における活動の説明があったが、一方、国際的な活動に関する情報が各国の国内活動を行っている組織になかなか届いていないこともフロアから指摘があった。

 報告者だけでなく、フロアの参加者の中にも条約検討のための国連特別委員会に参加した人が何人もいて、その経験をもとに今後の活動、とくにそれぞれの国において政府に働きかけることや障害に関する認識や条約の動きについての社会一般の知識を高めること、またそのために各地や障害者組織間で情報を共有することの重要性が繰り返し述べられた。プロセスに障害者自身の意見を反映させること、障害者がプロセスに参加することはシンポジウム同様、何度も強調され、障害者組織として国連の審議に加わることだけでなく、各国の政府代表に障害者を含めるよう求める発言もみられた。

 条約がつくられたとしても、それだけで障害者の権利保障につながるのではなく、先ず各国でその条約が効力を持つためにはその国が条約を批准しなければならない。

 さらに、条約実施のモニタリングは条約を実効力のあるものにするために欠かせない側面であるが、条約機関としての監視機関にも障害者自身が参加することが求められた。また国際レベルだけではなく、国内レベルにおいてもモニタリングが必要であることが指摘され、それにも障害者の組織が加わることも主張された。

 また、DPIは障害の種類を越えた連帯をはかっているが、精神障害をもつ人たちから、障害者権利条約から特定の障害が省かれることがないよう、あらゆる障害をもつ人の権利の確保を目指すよう訴えがあった。精神障害をもつ人たちが、多くの国で未だに合法的に自己決定権を制限されており、虐げられていることが報告され、精神障害への理解と、条約の権利保障の範囲から例外規定や制限規定によって精神障害者が省かれないことが求められた。

コミュニケーションのバリアフリーを追求した会場

 他の国際会議同様、札幌大会も同時通訳を通して複数言語で行われたが、通常の同時通訳、日・米の手話通訳だけでなく、全体会議、分科会を通して前方のスクリーンに字幕が打ち出されるようになっていた。試験的導入ということで時折「?」となる表現もあったが、手話に加えて、新たな会議へのアクセス手段として期待される。

 また、会場には視聴覚などの障害者が利用できるよう開発された情報機器が展示され、参加者の関心を集めていた。

次のステップを目指して

 大会は、最終日にフィリピンのビーナス・イラガンさんを次期世界議長に選出し、札幌宣言※を採択して閉会した。会議中にも条約検討の過程の中でDPIとしての立場を表明するためにも、また国際的な世論形成のためにも何らかの決議文を採択することを求める声が上がっており、採択された宣言には、障害者の権利を保障する条約を求めること、またその過程に障害者自身の意見を反映すること、各国および市民の条約への支持を求めること、また各国で障害者差別禁止法を制定し、政策により機会均等を実現することを求めることが謳われている。権利条約への期待と、自分たちに関わる決定に自分たちが関わっていかなければならないという意気込みが大きな熱意となって感じられる会議であった。

 札幌大会に続いて、10月21日から23日にかけて「アジア太平洋障害者の十年」最終年記念フォーラムが大阪で、また10月25日から28日まで国連アジア太平洋経済社会委員会による「アジア太平洋障害者の十年」最終年ハイレベル政府間会合が大津で開催された。札幌大会にみられた権利条約への期待や盛り上がりがさらに次のステップにつながったのではないだろうか。

(※札幌宣言の全文はNews in Briefに掲載しています)