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国際人権ひろば No.49(2003年05月発行号)

世界の人権教育

「人権教育のための国連10年」のこれから -第59会期国連人権委員会での結果

藤井 一成 (ふじい かずなり) 創価学会インタナショナル・ジュネーブ国連連絡所代表

■ NGOの取り組み


 2003年の国連人権委員会(3月17日~4月25日)における「人権教育のための国連10年」(以下、「国連10年」)の推進に関する議論は、例年通り、草案担当のコスタリカと相互協力体制で取り組みつつ、世界中の人権教育関係者約3,100名をインターネットで結ぶ国際ネットワーク「人権教育アソシエイツ(HREA)」をはじめとする多くのNGOと連携をとりながら、決議の内容を注視することにした。
 12以上の委員国代表が集まり、草案に関する委員国間協議が少なくとも三度は行われ、筆者とともに人権教育と取り組むNGOのひとつ「教育への権利と教育の自由のための国際組織」のトロクメ代表も参加し、発言も行った。本年2月28日に発表された、人権高等弁務官報告「1995-2004年人権教育のための国連10年フォローアップに関する調査」1 には、こういったNGOだけでなく各国政府や他の機関などからも寄せられた情報や意見が基礎となっている。
 コスタリカ政府代表のグイレルメ氏、および人権高等弁務官事務所で「国連10年」プログラムを担当するイッポリティ氏とともにNGO対象の協議会も共催し、人権委員会では、コスタリカ政府決議案を支持するNGOによる共同声明の発言を行った。

■ 決議案協議と決議の評価


 NGOから、何度かに分けて提示した「国連10年」の草案内容の具体例をコスタリカは積極的に反映するよう対応し、4月7日ごろの「草案」には、人権委員会は「人権条約監視委員会の議長年次会合が必要な勧告を行う」、「人権教育のための自発基金設置」案、「人権教育のための第二次国連10年」設定案などが含まれていた。
 委員国間協議では、決議案採択の日が迫るにつれ、オーストリア、イギリス、ドイツ、日本などが自発基金に対し消極的な姿勢を示し始めた。人権教育推進の国際的公約と、基金ができれば自国政府としても負担すべきという道義的義務感との狭間に立たされた姿勢であろう。
 一方、人権教育が国家の義務といえるかという疑問を提示する政府もあったが、促進(promotion)の義務があることは明白で、本年の決議では、その旨を明示する国連総会決議から引用された文言、ならびに人権条約に批准している場合は「人権教育の分野の締約国の義務」と明記されている2
 「第二次国連10年」については、コスタリカ政府代表は、「一部の政府を除いて、たいていの委員国は特に反対の姿勢はとっていない」と語る。その一部とは、例えばキューバが、「国連10年」そのものに消極姿勢で、「人権教育は、教育への権利の一部だ」という主張をとっている。
 他方で、現在の「国連10年」の提案国でもあるオーストラリアは「第二次国連10年を決める前にするべきことがある」という主張を行ったのだが、それが結果的に4月25日の採択段階で、この「第二次国連10年」という文言の削除をもたらしたのである。
 しかし、そのことがまったくの悲観的な結果だとはいえない。オーストラリア政府代表は、「第二次国連10年の可能性を全面的に否定するつもりはないが、現在のところ、既存の国連10年の現状や成果をさらに深く分析し、正確に評価し、必要で且つ可能な枠組みを見極めたい。NGOや他の政府、政府間機関のあらゆる提案、意見を聞いていきたいと思っている」と説明する。この決議をニューヨークの国連総会で担当するのがオーストラリア政府であることから、着実にフォローアップを行うことを念頭に置き、コスタリカ政府もNGOも、今後の発展に向けて努力を継続することになった。
 以上のようないきさつで、例年通り、「国連10年」に関する決議はコンセンサスによる採択をみたのだが、草案段階でとりわけ関心を集めた三項目について次のようにまとめてみた。

(1) 自発基金(第19段落)
 「人権高等弁務官事務所に...『人権教育のための自発基金』の設立に関して、すべての加盟国と協議を行う...」となっている。冷静に見つめると、「協議を行い」というに過ぎず後退してしまっていた昨年までの段階を元の足場に戻しただけというべきだろう。とはいえ、NGOがしっかりと国連制度と国際法を理解して活動し続けなければ、すでに得たものや得ることが可能なものも失われるということがよくわかる3

(2) モニター機能(第15段落)
 「人権条約監視機関が締約国の報告書を審査する際、人権教育分野における加盟国の義務を強調し、それを総括所見において反映させることを要請する」となっている。ほとんど昨年の決議と同様であるが、昨年は「奨励する」に修正(トーンダウン)されていたのが、本年は「要請」のまま採択された。

(3) 第二次国連10年案(第21段落)
 「さらに、人権高等弁務官事務所に、『10年』の中間評価に関する報告(A/55/360)※においてすでに指摘されている国際社会による見解、および『人権教育のための国連10年』(1995/2004)の枠内で取り組まれた最近の活動に関する1995-2004年人権教育のための国連10年に関するフォローアップ(E/CN.4/2003/101)についての人権高等弁務官の調査を考慮したうえで、成果と不十分な点に関して、ユネスコと共同で、すべての加盟国と協議するとともに次回の人権委員会に報告することを要請する」という形になった。
 「第二次国連10年」の文言は消えたが、人権高等弁務官による「国連10年フォローアップに関する調査」報告で、「第二次国連10年」設定の必要性はすでに明確に述べられている4。その内容となるべき具体的事項は「中間評価報告」とともに両報告書で詳細に述べられている。

■ 今後についての考察


 上述の三項目の実現の必要性は、前述の「国連10年フォローアップに関する調査」で指摘されている。今後について個人的な考察を述べておきたい。

○ 国内NGOが政府当局と、意見および情報交換を行う。
○ 国連制度における議論と決定や決議をよく把握し政府当局も同様に把握していけるよう協力する。
○ 既存の「国連10年」ならびに「第二次10年」の可能性について、国際レベルでNGOの動向を理解し、国際世論形成に努める。
 既存の「国連10年」が終了するまで一年半以上ある。来年の人権委員会でまた「第二次国連10年」案を協議の場に据えることはできる。オーストラリア代表の説明からもそう解釈できる。それまで、「国連10年フォローアップ」に関する人権高等弁務官報告書の内容を基礎に様々な場で市民社会と政府当局の両者に対し意識啓発を進め、来年度の会期で人権委員会の各委員国が適切な考慮を払うようにする必要がある。
 財源負担に関して一言いうならば、人権教育は、多少高くつくと思うかもしれないが、人権に関する無知こそが、結局、国家全体にとってはるかに高くつくのではないだろうか。

1.UN Doc. E/CN.4/2003/101.
2.UN Doc. 2003/70, pre.p.15 and op.14.
3.例えば、UN General Assembly resolution A/RES/49/184 (23 December 1994) para. 9; Commission on Human Rights resolution Proclamation of a decade for human rights education 1994/51 (4 March 1994), op. 2; UN Doc. A/51/506 (16 October 1996) para.8及びA/51/506/Add.1 (12 December 1996) para. 51では、人権教育のための「自発基金」設置可能性について含まれていたが、少なくとも2000年度から2002年度にかけての人権委員会の当該各決議では、全く触れられなかった。2002年度には、自発基金が受け入れられないとされていたことが委員国間協議の現場で感じられた。
4.Supra, N.1, paras.8-10, A second decade for human rights education.

※ 「国連10年」の中間評価の報告は、ヒューライツ大阪のウエブに全文訳を掲載しています。 (https://www.hurights.or.jp/archives/promotion-of-education/101995-2004.html