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国際人権ひろば No.50(2003年07月発行号)

国際化と人権

-「難民保護」に向けて- 韓国とニュージーランドの現状から、日本の保護のあり方を考える

黒木 彩子(くろき あやこ) 特定非営利活動法人 難民支援協会・専門調査員

はじめに


 中国・瀋陽の日本総領事館において北朝鮮の亡命希望者による駆け込み事件が起きたのは2002年5月のことである。日本の難民政策のあり方が大きく問われる契機となった事件から1年余りが経ち、この間、政府、NGO、弁護士、学識経験者やメディアなどによって、従来の難民政策の見直しが議論されてきた。
 今国会には「出入国管理及び難民認定法」(以下、難民認定法)の改正案が提出され、難民認定の申請期限を60日以内と定める現行のいわゆる「60日ルール」の撤廃や、申請者に対する「仮滞在」制度の設置などが議論されている。日本が1981年に「難民の地位に関する条約」(以下、難民条約)に加入し、「難民認定法」が制定されてから初めての改正案である。
 このように日本の難民政策が大きな転機を迎えている最中、韓国およびニュージーランドから難民保護に取り組む専門家を招いた国際シンポジウム「韓国・ニュージーランド・日本における難民保護のあり方を考える」が、5月17日、特定非営利活動法人難民支援協会と全国難民弁護団連絡会議の共催により東京都内で開催された。
 韓国からは「民主社会のための弁護士の会(Minbyun)」国際コーディネーターのキム・ギヨンさんおよび弁護士のパク・チャンウンさんが、ニュージーランドからは「難民・移民サービス(Refugee and Migrant Service:RMS)」(以下、RMS)代表のピーター・コットンさんが招かれ、国内の難民支援関係者、さらには当事者である難民も交え、難民保護のあり方について活発な議論が行われた。

改革に向けて動きだした韓国


 午前の部では、日本よりも約10年遅れて92年に難民条約・議定書に加入していながら、近年目覚ましい速さで難民認定制度の改革が行われている韓国の事例を中心に、難民認定機関の独立性や難民認定手続きの適正化、透明化の確保の問題などが議論された。
 韓国における難民認定に関わる法律は日本の「難民認定法」をモデルに策定されている。その結果、難民認定制度も、制度が抱える課題も共通点が多い。非正規滞在者の取り締まりを任務とする法務省が、もう一方でしばしば非正規滞在者である庇護希望者の人権を保護する役目を負うという難しさや、不服申立機関が第一次審査機関と同一であるという非独立性の問題などは、韓国においても制度の課題として指摘されている。
 一方、韓国では02年から03年度にかけて大きな改革が行われ、難民認定制度に改善がもたらされている。第一に、法改正により難民認定の申請期限が入国後60日から1年に延長された。様々な事情から60日以内に申請できなかった庇護希望者を難民と認めないという制度の運用は、難民条約の精神にそぐわないものである。この点において「60日ルール」の撤廃は大きな前進と言える。
 第二に、難民認定のプロセスに民間の専門家が関わる仕組みができた点が挙げられる。韓国では法務大臣の諮問機関である「難民認定評議会」(以下、評議会)が難民認定審査の最終的な決定を下す。評議会の12名の構成メンバーはこれまで全て政府関係者であったのが、02年6月からは韓国弁護士会、国際法協会、NGOからそれぞれ1名が加わるようになった。その結果、94年に難民認定制度が始動して以来、02年までに難民認定を受けたのがたった2名であったのが、今年に入ってからは既に7名が難民として認定されている。
 韓国がこの改革の中で実現しようとしている難民認定機関の独立性および構成メンバーの専門性の確保は、公正かつ迅速な難民認定を行う上で欠かせない要件である。
 この点、ニュージーランドでは労働局の中にある「難民地位課(Refugee Status Branch)」が第一次審査を行い、不服申立は内閣の権限下にある「難民の地位控訴局(Refugee Status Appeal Authority)」に対して行うという先進的な仕組みが構築されている。このような要件が満たされることによって初めて、適正で透明性の高い難民認定制度が実現されると言える。

ニュージーランドにおける政府 ・NGO ・市民社会の協働


 午後のセッションは、まず難民申請者に対するセーフティーネットの構築、政府とNGOの連携、市民社会を巻き込んだ形での難民支援ということが既に定着しているニュージーランドの事例を中心に議論された。続いて、難民および難民申請者への生活支援について討論が行われた。
 まず、最低限確認されなければならないのは、難民申請手続きと生活支援の不可分性である。コットンさんが述べているように、「あるシステム(難民認定のプロセス)の中に難民を置いたならば、政府はそのシステムの出口まで彼(女)らの生活を保障する義務を負う」。難民に対する生活保障は難民条約にも明示されており、条約の加盟国は難民に対して一定の生活水準や社会保障を難民の権利として実現しなければならない。また、難民申請者に対しても手続というトンネルの外に出るまでは最低限の生活を保障する責任が生じる。
 ニュージーランドではこの生活支援が、市民社会を巻き込んだ市民参加型で行われている。コットンさんが代表を勤めるRMSでは、訓練を受けた地域ボランティアが、それぞれの難民のニーズに応じた支援を行っている。ボランティア希望者はまず6週間のトレーニングプログラムを受け、その後6ヶ月に渡り実際に難民に対し生活支援を行う。難民が抱える様々なニーズに対応し、支援内容は、住居に関する情報の提供、就労に関する相談、語学教育についてなど多様である。毎年400名程が参加し、常時約500名のボランティアが難民支援に関わっている。このような市民参加型の支援を実現することが、難民支援を市民に、ひいては社会全体に根付かせることに繋がっていくのである。
 また、ニュージーランドでは難民支援が政府とNGOの連携により進められている。RMSの予算の約70%が政府からの拠出金であることからも判るように、難民保護に関し、政府がNGOに対しかなりの権限を委譲し、そして予算を割り当てている。言うまでもなく、この前提には政府・NGO間の信頼関係がある。これにはまず政府およびNGOが、それぞれの立場の違いから生じる「現実感」の相違を認識し、各々与えられた責任を果たしていくことが重要である。

真の難民保護に向けて-日本の課題


 まず、このシンポジウム開催の意義は、難民保護を難民認定手続きおよび社会保障、さらには市民社会のあり方という面から総合的に捉えられた点であることを強調したい。「難民保護」の実現には、適正かつ公平な難民認定制度の確立が必要であるだけでなく、認定を待つまでの間、難民申請者の生活を最低限保障する社会保障制度の構築が不可欠である。
 また、「制度に変革を求めるならば、まず私たち自身の姿勢が変わる必要がある」というコットンさんの指摘にあるように、市民社会が難民保護への理解を深め、支援に積極的に関与していくことも重大な課題であると言える。
 改革へ向け動きだしているとはいえ、いずれの面においても大きな課題を抱える日本が、韓国における制度改革やニュージーランドの取り組みから学ぶべきことはあまりにも多い。
 一方、シンポジウムの中でも指摘されたように、難民保護は行政技術をいかにうまく改革するかということではなく、根本的には難民の人権をいかに保護していくかという問題である。常にこの原点を振り返りながら、よりよい難民認定制度の実現に向け、政府、NGOおよび市民社会の協働の推進が必要である。今回の改正議論をまず一歩ととらえ、総合的な難民保護が確立されることが望まれる。
 最後に、シンポジウムで印象的であったコットンさんの言葉を紹介したい。今回が始めての来日となったコットンさんは、駅のホームにある視覚障害者のための誘導線を見て感銘を受けたそうである。「日本には視覚を失った人に対して、このようにスタートからゴールまできちんとガイドしてくれる素晴らしいシステムがある。全てを失った難民も、彼(女)らが独立して社会に貢献できるところまでガイドしていってあげてはいかがでしょうか?」
(難民支援協会 http://www.refugee.or.jp/)