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国際人権ひろば No.51(2003年09月発行号)

特集 カンボジア人権問題フィールドワーク Part3

カンボジアのトンレサップ湖の水上学校で考えたこと

松野 麻耶 (まつの まや) 一ツ橋大学大学院修士課程

■ 水上学校のコミュニティ


 私は大学院の修士課程で途上国における開発と人権の関係について学んでいるが、実際に開発現場に足を踏み入れたことがなかったこと、カンボジアにおける人権問題の調査という今回のツアーの目的が自分の関心にぴったり合致していると感じたため、このツアーに参加した。本稿では特に、ツアーで訪れた水上生活者の子どもたちが通う小学校(水上学校)及び水上生活者の様子について感じたことを報告したい。
 私たちがトンレサップ湖の水上学校を訪れたのは、8月4日の午前中だった。プノンペンから飛行機で北西に40分のところに、シェムリアップというアンコール・ワットなどで有名な観光都市がある。高級ホテルやレストランが軒を並べるシェムリアップから、バスで40分ほどトンレサップ湖方面に向かうと、異なる風景が見えてきた。今にも崩れそうな、木で出来た簡易な高床式の家が建ち並び、中の様子も外からはまる見えである。道端にいた少女と目が合うと、お金を要求して手を差し出しながら、どこまでもバスを追いかけてきた。バスを降りると、同じような子どもたちが群がってくる。私たちは、子どもたちを掻き分けるようにして、水上学校へ入っていった。
 校長先生と教頭先生をはじめ何人かの先生から話をうかがった。この学校には、トンレサップ湖の水上で生活している生徒と、近くの土地で定住している生徒の両方が通ってきているという。
 カンボジアの少数民族であるベトナム系住民が大半の水上生活者は、湖の水量が雨期と乾期とではかなり異なるため、水かさにあわせて移動する。この学校も、湖に浮いているため、少なくとも年に1~2回は移動する。移動には費用もかかり、台風の被害と共に、この学校が抱える問題のひとつになっている。
 カンボジアでは、学校に通う子どもの割合が少ないという問題がある。ポル・ポト時代に教育が破壊され、そのことが現在にまで大きな問題となっており、教育復興が政府をはじめ、国際機関や国内外のNGOによって進められ、多くの学校が建てられている。

■ 高いドロップ・アウト率~就学率とジェンダー


 カンボジアの義務教育は小学校の6年間となっていて、無償で受けることができ、今回訪れた水上学校もこれにあたる。現在、生徒数は合計452人で、そのうち女子が196人である。しかし、学年別の内訳を見ると、1年生が174人(うち女子63人)、2年生が95人(同52人)、3年生が85人(同39人)、4年生が44人(同20人)、5年生が32人(同16人)、6年生が22人(同6人)と、学年を追うごとに生徒の数は減っている。
 実際に教室を見学した際も、1年生の教室には教室いっぱいに生徒が座っていたのに、6年生の教室では同じ大きさの教室にぽつぽつと生徒が座っているという印象を受けた。更に、中学校に進むとなると、中学校が10km以上離れたシェムリアップ市にしかないということもあり、数は一気に半減するという。女子は10%程度であるということだ。
 なぜこうした事態が生じるかというと、子どもが低学年の時は働き手として十分ではないため親も学校に行かせるが、大きくなってくると男の子は稼ぎ手として、女の子は家の手伝いとして役立つため、ドロップ・アウトしてしまう。ジェンダーの問題もあり、学校へ通える子どもが家族内で限られている場合には男の子が優先されてしまう。
 また、漁業や農業などを稼業とする家が多いが、忙しい時期には学校に来られなくなり、授業の内容についていけずに留年してしまうことも多いようである。
 こうした問題について、学校側としても家庭や地域に対して子どもの通学を働きかけるなどの試みを行っており、徐々にではあるが成果が出てきていると校長先生は言っていた。地域によっては、コミュニティの中心的役割を担うお坊さんが各家庭に働きかけるといった努力がなされているということであった。
 後日プノンペンで教育省を訪れた際に話をうかがったナス・ブンロエン教員養成局長によれば、3年前は40%であったドロップ・アウトの割合は現在では5.8%に減っているそうである。プノンペンで訪問したノロドム小学校の校長先生も、今はドロップ・アウトする子はほとんどいないと言っていた。
 しかし、首都であるプノンペンは他の地方とはかなり異なっている。ノロドム小学校は、お金持ちや頭のいい子どもが多く通う小学校であるということなので、一般的な地方の学校とは事情が異なるであろうし、教育省で聞いた数値も、どれほど正確に実態を表しているかという点では疑問が残る。少なくとも、今回訪れた水上学校では、まだまだ問題は解決されていないように思えた。親たちの間にも子どもは学校にいった方がよいという理解は広まっているであろうが、貧困という状況がそれを妨げるのである。

■ 教員不足の解消に向けて


 また、教員不足も大きな問題である。教員は知識人としてポル・ポト時代に虐殺の対象となったため、カンボジアでは現在かなりの数の教員が不足している。水上学校では、生徒452人に対して教員の数は13人である。学校は二部制をとっているが、教員数が足りないため、午前・午後共に同じ先生が教えているという。話をうかがった中には若い女性の先生が何人かいたが、一般的に教員という職業は人気がないそうだ。というのも国の予算が少なく、教員の給料はとても安いため(月給25米ドル)、社会的地位も低いからであるという。
 政府も国際機関も、教員不足の問題に対しては積極的に活動する姿勢を見せているが、数を増やしても給料が払えないため、なかなか先に進まない。教育省によれば、現在小学校の教員は5万5千人であり、3万人を増やす計画で毎年3千人ずつ増えているそうだ。そのため、現在は質の向上に努力しており、勉強会やワークショップが開催されているという。

■ 子どもたちの笑顔の奥


 校長先生の話をうかがった後、実際に授業をしている教室を見学させてもらった。生徒たちはとても礼儀正しく対応してくれた。6年生の教室で好きな教科(小学校は国語・算数・社会・理科の4教科)を聞いたところ、社会・国語に人気があった。次に、将来なりたいものについて尋ねると、デザイナーやジャーナリスト、学者、画家などといった答えが出てきて、問題ばかりが取りざたされる中で、子どもたちの、そしてカンボジアの将来が明るく、頼もしいものに思えた。
 この中で意外だったのは、女の子で先生になりたいという子が多く、教員は人気がないと聞いていたため違和感を覚えたが、子どもたちにとって家族以外の1番身近な大人は学校の先生であるため、子どものうちはそうした答えが出てくるが、成長するにつれ大学では経済学部に入り、外国企業に就職するコースに人気が集まるのだという。
 そして、学校の中で強く感じたもう一つのことは、出会う子どもたちはみな礼儀正しく、人懐っこい印象で、こちらの質問にも笑いながら答えてくれたことだ。日本にいる時によく耳にした、「忘れられない子どもたちの笑顔」、「輝く瞳」などはこういうことかと感じた。しかし、一歩外に出れば、観光客や外国人と見ればどこまでもついて来てつたない英語や日本語でお金をせがむ子どもがそこら中に溢れているのである。
 今回のツアーでどこまでカンボジアの現状や問題点が見えたかはわからないが、感じ取ったことは大きいと思う。シェムリアップのアンコール遺跡を訪れただけでは知ることの出来ない様々なカンボジアに少しは近づけたように思う。私自身、カンボジアの今後のために何が出来るかを今後も考えていきたい。


カンボジア・スタディツアーのプログラム

 スタディツアーは、現地関係者の協力を得ながら、フィールドワークを通して、カンボジアの人権問題と人権教育の現状について視察や交流を深めました。

行動内容(テーマ)訪問先
8/2(土)出発バンコク経由でシエムレアプ着
8/3(日)世界遺産を見学アンコール・トム、タプロム寺院、アンコール・ワット
8/4(月)水上生活者・農村の教育事情トンレサップ湖の水上生活者の小学校訪問
障害(盲)者の現状シエムレアプ盲学校(NGO)
シルク復興の現状クメールシルク織物センター(NGO)
夕方、プノンペンに移動
8/5(火)カンボジアの教育事情のフィールドワーク
・全般事情
SVAプノンペン事務所
・幼稚園教員養成事情ACC&TCC(国立幼稚園教員養成学校)
・都市近郊スラムの教育事情近郊スラム移動図書館プロジェクト
・小・中学校の教育事情ノロドム小学校、バントラマイ小学校、教育省教員養成局長
8/6(水)法整備支援の事情司法省法的支援プロジェクト
弁護士養成の現状カンボジア弁護士養成校
ストリートチルドレン事情FRIENDS(フレンズ)
8/7(木)帰国プノンペンを出発→バンコク経由で