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国際人権ひろば No.52(2003年11月発行号)

国連ウオッチ

国連女性差別撤廃委員会による日本政府に対する勧告 -選択議定書の早期批准を!

田中 恭子 (たなか きょうこ) 国際女性の地位協会

日本レポート審議とNGOの取り組み


 2003年7月にニューヨーク国連本部で開催された第29会期の女性差別撤廃委員会(以下、「委員会」)において、女性差別撤廃条約(以下、「条約」)の実施状況に関する日本のレポートが審議された。前回、委員会で日本レポートが審議されたのは1994年1月だったため、約9年半ぶりのことである。
 これを受けて、02年12月、日本のNGOが効果的にロビー活動を行うため、国際女性の地位協会の呼びかけにより、日本女性差別撤廃条約NGOネットワーク(以下、「JNNC」)を結成した。JNNCは、日本政府に対して、NGOの見解・要望をまとめて、申し入れを行ったり、委員会には、会期前作業部会でのNGOブリーフィングに参加して意見を述べたり、また、委員会から政府に対して出された質問事項へのNGO回答を作成して、NGOレポートとともに委員会へ送るなど、日本レポート審議に向けて活動を展開した。
 7月には、日本レポート審議を傍聴するために16のNGOから57名がニューヨークへ出かけた。審議前日の7月7日には、国連施設内で委員を招いてランチタイム・ブリーフィングをJNNCが独自に開催して、各団体から意見を発表したり、夕方の委員会のNGOブリーフィングではJNNCとして10分間で発言するなど、積極的なロビー活動を繰り広げた。委員に直接NGOから発言できるこれらの場では、各団体の主張を尊重しながら、同時にJNNCとして論点を分担し、限られた時間を有効に使った統一行動を取ることによって、ネットワークならではの効果的な働きかけを行うことができた。
 このようにして迎えた7月8日に、多くのNGOが見守る中で、午前と午後、合計5時間半に渡って、委員会における日本レポートが審議された。

委員会から日本政府への勧告


 日本レポート審議の結果、8月上旬に委員会から日本政府に出された最終コメントでは、男女共同参画社会基本法の策定や、さまざまな法改正などに対する肯定的な側面についての評価に6パラグラフが当てられ、続いて、懸念と勧告が22パラグラフに渡って示された。多くの分野における懸念事項の指摘とそれに対する勧告がセットになった最終コメントには、JNNCが訴えた論点や意見がしっかりと反映されたものとなっている。特に、JNNCとして、多くの論点の中で、裁判の原告など当事者の声を尊重して取り上げた、アイヌや部落の女性などのマイノリティ女性、婚外子差別、雇用における間接差別の問題が勧告に含まれたことは、私たちNGOの活動の大きな成果である。

1)固定化された男女役割分担
 委員会の勧告は、日本社会に根強く残っている固定化された男女の役割分担意識の撤廃のための意識改革を積極的に推進することを、日本政府に要請している。例えば「男は仕事、女は家庭」というような、性別による役割分担意識に基づいた態度が、労働市場における女性の現状や、教育上の選択、政治的・公的分野における女性の低い参画率の要因になっていることに対する懸念も示されている。これは、第5条に掲げられた条約の基本理念(役割に基づく偏見等の撤廃)に関する重要な勧告である。
 委員会の審議の中で、委員から、「日本政府は社会的コンセンサスを重視しすぎる」と指摘され、日本政府が条約の実施を加速させることで、日本社会を変えるためのリーダーシップを取るべきだという意見が出された。これに対して、日本政府は、「私たち自身も、なぜもっとスピードをもってこの男女共同参画を進めることができないのだろうか、と我ながらとても不甲斐なく思うときがあります。しかし、日本は日本なのです。コンセンサスを作り上げながら、少しずつ少しずつ少しずつ、男女共同参画に向けて進んできています」、と率直に応じていたのは印象的だった。
 国連開発計画のジェンダー・エンパワメント指数(GEM)による日本の位置づけが、02年の32位から、03年は44位に落ち込んだことは、女性差別撤廃に向けた日本社会の変化が遅く、世界の中で取り残されつつあることを示している。この結果は、条約の実施(第2条の実施義務)に関する政府の解釈と無関係ではないと思われる。
 JNNCから条約の実施についての政府への質問に対して、政府(外務省)は、「どのような具体的な措置を採るかということについては、それぞれの締約国が自国の国情に応じて適当と判断する措置を採ってこの条約の実施を確保していくこととされている」と回答している。それに対して、委員会の審議の中で、委員は、「第2条は、法律上及び事実上の男女平等の原則の実現と差別撤廃を『遅滞なく』実施することを規定」していることを強調し、政府に再認識を促した。

2)選択議定書の批准
 国際女性の地位協会をはじめ、多くのNGOが強く要請し、訴えてきた選択議定書の批准が、委員会からの最終コメントで勧告されたことは重要である。選択議定書は、現在の国家報告制度に加えて、条約に、個人通報制度と調査制度という2つの新たなプロセスを追加するもので、その批准は、女性差別撤廃の実効性の強化を意味する。03年9月現在、条約の締約国174カ国中、75カ国が選択議定書に署名し、そのうち56カ国が選択議定書を批准しているが、日本はまだ署名も批准もしていない。
 日本政府は、選択議定書の批准に対して慎重な姿勢を示していて、その理由として、選択議定書が定める個人通報制度が司法権の独立との関連で問題が生じる恐れがあることをあげている。
 日本レポート審議では、冒頭の日本政府のスピーチでは、選択議定書の批准についての言及がなかった一方で、それに続く議長の言葉では選択議定書の批准の要請があり、さらに、多くの委員から、選択議定書の批准に関する発言・指摘が相次いだ。また、議長は、審議の最後にも、選択議定書の批准に対する要請で会議を締めくくった。
 委員会からは、委員会は司法機関ではないため、司法の独立を侵すということはなく、また、独立した司法が存在する多くの国がすでに選択議定書を批准していること、また、それらの国では、裁判所が国際人権条約の条項を国内訴訟において活用することができるという点で司法の独立性が強化されていること、さらに、選択議定書は女性差別について司法による理解を促すものとして、むしろ日本の司法権の独立を支援するものであることなどが、指摘された。

3)勧告の周知と実施モニター
 JNNCは、NGOが主張した多くのポイントが、委員会の最終コメントに指摘や勧告として盛り込まれたことを、歓迎する。今回の日本レポート審議に関して築かれた、日本政府とNGOの間の適度な緊張と協力の関係を維持しながら、最終コメントに示された多くの勧告を、政府が迅速に確実に実行するようモニターすることが重要となる。特に、日本政府が一日も早く選択議定書を批准するよう、NGOが政府に働きかけを続けるとともに、政府のよきパートナーとなって、条約や選択議定書を広く知らせるための活動を展開することが必要である。

【参考文献】
・「やさしく学ぼう女性の権利-女性差別撤廃条約と選択議定書-」 国際女性の地位協会編(尚学社、 2003年、500円)
・「国際女性No.16」 国際女性の地位協会発行(尚学社、2002年、3,000円+税)
・(仮題)「女性差別撤廃条約とNGO」 日本女性差別撤廃条約NGOネットワーク (明石書店、2003年12月、予価2,000円)

【参考サイト】
・http://www.jaiwr.org/index.html 国際女性の地位協会:出版物紹介、NGOレポートなどを掲載
・http://www.jaiwr.org/jnnc/
日本女性差別撤廃条約NGOネットワーク(JNNC):最終コメント日本語版(JNNC訳)、NGOサマリーレポート、NGO回答などを掲載