MENU

ヒューライツ大阪は
国際人権情報の
交流ハブをめざします

  1. TOP
  2. 資料館
  3. 国際人権ひろば
  4. 国際人権ひろば No.52(2003年11月発行号)
  5. ユネスコ総会が「人種主義と闘う新総合戦略」を採択

国際人権ひろば サイト内検索

 

Powered by Google


国際人権ひろば Archives


国際人権ひろば No.52(2003年11月発行号)

コラム 世界の人権教育

ユネスコ総会が「人種主義と闘う新総合戦略」を採択

岡田 仁子 (おかだ きみこ) ヒューライツ大阪研究員

■ 戦略づくりの背景


 ユネスコの第32回総会が2003年9月26日から10月17日にかけて開催され、「ユネスコの人種主義、差別、外国人排斥および関連する不寛容と闘う新しい総合戦略」が採択された。ユネスコは設立当初より人種主義、人種差別に対する研究、宣言や条約採択などを積極的に行ってきたが、南アフリカのアパルトヘイト制度廃止を受け、反人種主義の分野の活動はかつてに比べて失速していた。
 しかし、01年8月31日~9月8日に開催された「国連反人種主義・差別撤廃世界会議」で採択された宣言・行動計画にユネスコの任務に言及する勧告も含まれていたことを受け、02年のユネスコの執行委員会は事務局長に対して「人種主義、差別、外国人排斥および関連する不寛容と闘う総合戦略」を策定することを求めていた。そして、世界の各地域で開催された研究者、活動家などの専門家会議、および03年6月の大阪でのユネスコ反人種主義教育国際会議※を経て、採択されたのが今回の戦略である。

■ 新戦略の趣旨・目的


 10月16日、総会で採択された戦略は、全般的な目標として、人種主義、差別などに対する闘いの再活性化、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)をはじめとする他の国連機関との協力の強化、大学などの教育機関、NGOなどの市民団体とのパートナーシップの構築・強化や啓発活動の拡大などを掲げ、現代の状況に照らしたユネスコとしての取り組みをめざしている。具体的には、奴隷制・植民地主義による過去の歴史に基づく差別に加え、グローバル化、科学技術の発展による新たな差別の形態も対象として、研究、啓発や協力を推進することとしている。
 新戦略はユネスコがもっとも力を発揮できる分野を考えてテーマを選出すること、各地域のそれぞれの特徴を考慮すること、実効的で革新的な行動をとることなどの必要性を挙げている。今日ではこの分野で活動する団体・機関などが数多くあるため、ユネスコは独自性を発揮することのできる分野・手法を探さなければならないことを意識しているのである。また、女性が特に人種主義・差別の複合的影響を受けるとして、この戦略のもとでとられるすべての行動の際にジェンダーの視点が考慮されることとしている。

■ 取りあげる分野・テーマ


 新戦略ではユネスコがとる行動について、具体的にいくつかの分野やテーマを挙げている。
  • 伝統的な偏見・差別、奴隷制や植民地の影響など人種主義の遺産、差別と女性の関係、多文化・多民族社会などにおけるアイデンティティーの構築と差別の関係、遺伝子など科学の進歩と差別の関係、HIV/AIDSと差別の関係や、グローバル化と排除の新たな形態の関係などに関する研究
  • 教育差別禁止条約などのユネスコの差別に対する基準文書の見直し・再活性化および国連人権高等弁務官事務所や人種主義、人種差別などに関する国連特別報告者など他の国連機関などとの協力強化
  • 比較研究や、トレーナー・教員トレーニングなどの活動に焦点を当てた教育的アプローチ、教材、統計指標の開発、インターネット上での人種主義に対する対話の場をつくること、HIV/AIDS感染者に対する差別など新たな分野の取り組み
  • オピニオン・リーダーなどを通して、市民の意識の向上を図るための、政策決定者(政府、自治体、議員など)に対する反人種主義・反差別措置の策定・実施の促進や、若者、アーティスト、スポーツ選手、ジャーナリスト、科学者、教員、宗教的指導者を含む人たちによる意識啓発キャンペーン
  • 多文化・多民族社会の多様性の維持に向けた研究
  • メディア関係者、特にインターネットにかかわる人の差別に対する取り組み強化や、新しい情報技術による人種主義宣伝に対抗するよう政策決定者を対象としたキャンペーンなどを通した、メディアやサイバースペースでの人種主義の宣伝への対処

■ 戦略の実施に向けた措置


 その他にも、犠牲者の能力開発、オピニオン・リーダーや政策決定者を巻き込んだり、一般的な意識啓発の促進などを行っていくことが予定されているが、その際、各国のユネスコ国内委員会、ユネスコ・クラブ、協同学校ネットワークなどの伝統的なパートナーはもとより、次のようなアクターと新たなパートナーシップを構築することが挙げられている。
  • 若者組織-交流や会合を行う。
  • 市議会-人種主義と排除に対抗して連帯する都市のネットワークを構築する。
  • 国際オリンピック委員会(IOC)や国際サッカー連盟(FIFA)などのスポーツ団体-反人種主義・反差別を謳うスポーツ・イベントを開催する。
  • アーティスト-人種主義を非難するアート・イベントを組織する。
  • 民間部門、特に国連のグローバル・コンパクトに参加する企業-差別撤廃措置の実施や反人種主義・反差別活動、キャンペーンのスポンサーを獲得する。
 この新たな総合戦略に基づいて、ユネスコの各部門がそれぞれ優先テーマ、活動などを設定し、相互に協力・調整を行いながら取り組みを実施していくことが予定されている。ユネスコの社会および人文科学セクターの人権・反差別部反人種主義・反人種差別セクションが各部門や各国の現地事務所、他の国連機関との調整ととりまとめを担う。

※「国際人権ひろば」(03年7月号No.50、「ユネスコ反人種主義教育国際会議~人種差別なき世界をめざした戦略づくり」参照)