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国際人権ひろば No.52(2003年11月発行号)
現代国際人権考
「住」の国際人権の推進
高橋 叡子 (たかはし えいこ) 大阪国際文化協会理事長・ヒューライツ大阪理事
大阪府の「在日外国人施策に関する指針」
今年の4月に大阪府は「在日外国人施策に関する指針」を策定した。韓国・朝鮮の15.5万人を含め、146ケ国21.2万人、府民の40人に1人が外国人という実情を前に、共生社会への施策展開に乗り出した。国に対しても「外国人登録法の改正」や「雇用差別をなくす法整備」という国策の根幹に関わるものから、医療や年金など生活面の基本的人権の保障を要請し、管理的要素の強い国の法律をあぶりだす結果となっている。
都道府県では初めてということだが、すでに人権尊重や多文化共生を基本理念とする国際化施策基本方針を策定している市町村も持つ大阪府である。福祉のまちづくり条例の時と同様、地方自治体から国の施策を誘導するべく先駆的な行動を期待する。
留学生の増加と住居の課題
「指針」において「住宅入居」という項目が立てられたのは、定住外国人だけでなく、留学生や移住労働者など中長期在留の外国人にも光が当てられたことと評価したい。「留学生受け入れ10万人構想」が実現した現在、学位修得など大学制度の改革を始め、奨学金やアルバイトの改善で留・就学生の生活は大幅に向上した。20年余リサイクルを中心に途上国学生の生活援助をしてきたわが大阪国際文化協会も彼等の生活が激変してきたことを感じている。リサイクル品の質へのこだわり、必要品以外のものには目もくれないという、日本の若者と同じ傾向が顕著になっている。留学生の「衣」「食」生活はもう日本の標準に達したといえる。
残る「住」が問題である。世界でも悪名高かったウサギ小屋から脱し、数量は需要を満たしたとされる日本の住宅事情だが、大都市ではまだ老朽木賃住宅が残存していて、そこに住宅弱者である高齢者、外国人労働者、私費留学生などが住みつく現実がある。
「保証金及賃貸料」「保証人の獲得」「外国人偏見のため入居物件の限定」などがネックとなり、5割近くの留学生が日本学生の居住水準からは程遠い状態で勉学している。阪神・淡路大震災でも劣悪な住環境の犠牲になった留学生の痛ましい最後は今も私たちの心に深い影を落している。
気候風土や歴史的な価値観から、日本人の「住」関心度は欧米先進国に比べ高くないという伝統に土地事情が重なり、経済成長した現在においても住環境は豊穣な「衣」「食」に比べて見劣りがし、住のグローバルスタンダードは遅れている。安全性やバリアフリーの確立された住まいは、国際人権規約及び人種差別撤廃条約で保障された権利であるという認識がもう少し必要ではないだろうか。とすると、「指針」のいう「啓発の強化」だけでは少々物足りない。東京都の数区のように住宅条例にまで踏み込んで欲しかった。危険性の高い劣化住宅では、地震災害が多発する日本で、経済的弱者となる留学生や、外国からの移住労働者の生命は守れないのである。
住宅所有者の私権規制が難しい現状では、公的住宅の役割が問われるのは当然だろう。現在各種公的住宅は外国人に開放されてはいる。しかし、その情報は必要者に届いているとは言えないし、運用面も外国人のニーズに充分応じているようには思えない。公的住宅の外国人への対応はまだこれからと言えよう。
公的住宅のルームシェアリングで留学生の住居保障の一歩を
そこで当協会は上記「指針」の策定を契機に、外国人の住居問題の打開として「公的賃貸住宅を留学生にも!」の推進に挑むことにした。公的住宅は家族向けのものが多く、賃貸料は日本と物価格差の激しいアジアなどの私費留学生の生活収入からはとても手が届かない。
一つの解決策として、日本ではまだ一般的でないルームシェアリング型賃貸方式の導入を都市基盤整備公団に提言し、推進支援を申し出た。一所帯向きの住戸を2~3人で分かち合い、各人の経済的負担を軽減しようというものである。ルームシェアリングという欧米の個人主義的居住形態が果たしてアジア人の間で定着するだろうかという危惧、公団法の問題、昨今の外国人犯罪が起こしている住民の否定的態度などの予測に逡巡していた公団だが、市民の情熱に押されたのかやっと前向きに検討し始めた。
公的集合住宅のコミュニティに多くの外国人が住まうこと自体が、「指針」がめざす共生への意識づくりである。留学生の公的住宅居住の実現は、今後さまざまな外国人に対し生活基盤の要である「住」の「基本的人権」を保障していく突破口になると確信する。外国人との共生を現実のものにしたいという市民の意思と実行力が問われている。