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国際人権ひろば No.53(2004年01月発行号)
コラム世界の人権教育
これからの人権教育の課題や戦略を話し合ったワークショップ -「第2次国連10 年」に向けて
ジェファーソン・R・プランティリア (Jefferson R.Plantilla) ヒューライツ大阪主任研究員
2003年11月10日-12日、タイのバンコクに42のNGO、国連2機関、(国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)と国連教育科学文化機関(UNESCO))、韓国人権委員会からの代表など60人の教育関係者が集まり、アジア・太平洋地域における人権教育の状況について話し合った。
「アジア・太平洋における人権教育:課題と戦略を明らかにする」と題されたこのワークショップは、韓国のアジア・太平洋国際理解教育センター(APCEIU)、アジア地域人権教育資料センター(ARRC)、ヒューライツ大阪との協力で以下のような目的で開催された。
(1)地域内の人権教育の及ぶ範囲を形式(学校内、学校外、その他)、分野、問題や地理的範囲などについて確認する。(2)人権教育プログラムの拡大および発展の利点・弱点を議論する。(3)「人権教育のための国連10年」(1995-2004)の趣旨に照らして人権教育プログラムを一層発展させる戦略を検討する。
ワークショップでは、(1)女性、(2)子ども、若者、(3)先住民族、難民および民族的マイノリティ、(4)移住労働者、(5)プランテーション労働者、農民、都市貧困層など様々な問題や分野に関する報告が行われた。グループ討論では、地域の人権教育の取り組みやその利点・弱点、地域の人権教育促進に向けた課題などについて検討が行われた。ワークショップの最後に、3日間の議論のまとめが提示された。
■ ワークショップをふりかえって
この会合は「国連10年」の最終年を迎えるにあたって開催され、地域の人権教育関係者から人権教育の発展を一層促進する課題や戦略を引き出そうとするものであった。会合の参加者は「地域として人権教育のための第2次10年を呼びかける」ことに合意した。さらに、参加者は次のような行動を提案した。
a. 人権教育関係者の業績を見直し、考察する方法をみつけ、より戦略的に考える必要がある。
この考え方は、先ずとるべき行動が自らの、そして制度的レベルにおける行動であることを思い起こさせるため重要であると考える。今までの成功や限界すべての中で、一旦立ち止まり再考する必要がある。教育関係者自身が人権教育の最善の推進者である。その人たちが自分たちの業務を改善する方法を考えることができれば、人権教育もさらに改善されるだろうと思う。
b. 基本的人権原則を再度強調する必要がある。
取りあげられる問題や権利によって人権教育の観点が異なることが見られる。人権教育は人権の普遍性、不可分性や相互依存性などの基本原則と、特定の集団や問題にだけ該当するのではなく、すべての人の該当する権利を見落としてはならない。この考え方によって、教育関係者は自分の利益や関心事を越えて、人権がすべての人に該当する総合的なものであると気付くであろう。
c. 社会のより多くの人に手をさしのべる必要がある。
上記の考え方のように、人権教育を「力のない人、抑圧された人、不利な立場にある人や周縁に追いやられた人」に限定するのではなく、社会の主流にいる人にも及ぼさなければならない。
以上の3つの考え方は1993年のウィーン会議のスローガンであった「すべての人にすべての人権を」に通じる。
■ 政府に対する提案
a. 政府を戦略的パートナーとする必要がある。
ここで重要なのは「戦略的パートナー」の考え方である。私の考えでは、このことは同等の立場で、透明なプロセスによるお互いを尊重した協力を意味する。政府は単独で人権教育に関するコミットメントを果たすことができず、NGOと協力しなければならないという事実を認識しなければならない。
b. 政府関係者、公務員にトレーニングを提供する必要がある。
政府関係者や公務員が関与する人権侵害が数多く起こっている。またそういう人たちが人権の実現を支援する権限や力をもっていることも事実である。適切に人権を指向することで政府関係者・公務員は人権教育プログラムが発展し、適切に実施されるよう支援することができる。
■ ワークショップでの合意事項
ワークショップの成果のまとめとして、参加者は2方向に向けて行動を見直す必要があると考える。
- 内向き - 達成できたこと、失敗の両方を評価し、人権教育の新たな道筋を付けること。
- 外向き - 市民社会、一般の人、政府、地域および国際機関のより多くの人に働きかけること。
これらの報告は、国および自治体が人権教育を推進するために、同じ2方向アプローチをとるよう促すものである。
上記の考え方を見ると、人権教育関係者の今後の課題の輪郭が浮かび上がる。ワークショップの参加者の「第2次国連10年」の呼びかけに応じ、人権教育関係者はそれに向けたキャンペーンをこれらの課題に対応するきっかけとすることができる。
■ 合意された内容
ワークショップの議論の中でいくつもの懸念事項、問題や戦略が挙げられた。それぞれ重要な事項であったが、いくつかの点が優先的に考慮すべき課題として取りあげられた。
<人権教育の全般的趣旨>
- すべての人の人権を保障する手段として人権教育をより実効的に活用すること。
- 人権教育関係者のコミュニティおよび人権教育の対象者を拡大する持続的戦略を採用すること。
- 人権教育がまだ未対応のままになっているニーズに対応し、まだ届いていない人々に届くことを確保すること。
I. NGO/市民団体/個人のための人権教育の開発
- 人権教育関係者が自分たちの経験を振り返り、考察し、思い起こし、戦略的に自分たちを評価し、作業を見直す場/道筋を提供する。
- 人権教育の及ぶ範囲と普及の拡大のための方法論を開発する。(例えば、若者、学生への普及。)
- 知識形成に寄与できるような人権教育の実効的方法論に焦点を当てる。また人権教育関係者が社会的・経済的・政治的文脈の中で人権に関する懸念事項を位置付けることのできる方法論も検討する。
- 人権原則/概念に関する国際的コンセンサスや人権教育アプローチ/教授法における進歩に基づき、共通の人権内容を中核とする制度的な地域的人権教育トレーニング・コース/プログラムを開発する。
- 人権教育プログラム、アプローチおよび教授法について、周縁化および排除された集団に及ぶことを目的とした研究を行う。
- ローカル、国内および地域レベルでのNGO、草の根組織、社会活動グループの実効的ネットワーク化および協力を強化する。
- 人権教育の増殖効果、および課題中心ではなく、人を中心にした人権教育を確保する。
- 人権教育の総合的アプローチのために学際的に、分野(例えば移住者や女性の人身売買など)を越えて資源を活用する。
- ローカル、国内および地域レベルにおいて人権教育促進のための実効的戦略を検討する。
- 人権教育関係者および他の「変化のための媒介人」の能力を強化する。
- 人権教育関係者の層を拡大する。
- 人権教育促進のためにメディアを一層実効的に活用する。
- 人権教育のために人気のある、緊急性の高い、そして分野・課題を横断する人権問題を活用することを確保し、それらの課題に関わる人権活動家と協力を図る。
- アジアにおける外国人排斥および不寛容の現実を認識するとともに、理解し人権教育がそれに対応するよう戦略を図る。
II. 政府を巻き込む
- 人権教育の戦略的パートナーとして政府関係者を巻き込む。
- 経済政策決定者、法執行関係者などの政府関係機関に人権教育を提供し、人権教育促進に向けた政府の意思の欠如の問題に対応する。
- 国内人権委員会における人権教育プログラムの強化を支援し、これらの委員会の価値を認識する。
- カリキュラムに人権教育を含めることに加え、学校において人権教育に優しい(恐怖からの自由)環境を促進するよう教育省に働きかけ、巻き込む。
III. 地域フォーラム/会合を活用する
- 東南アジア諸国連合(ASEAN)、アセアン議員連合(AIPO)、南アジア地域協力連合(SAARC)、太平洋諸島フォーラム(PIF)など地域機関と戦略的パートナーシップを推進し、その道筋を活用する。
- 地域組織(例えばARRC)などを人権教育関係者が人権教育に関する参考書、リソース・パーソン、カリキュラムなどを集中、モニター、発信、確認し、それらについて照会できる拠点とする。
IV. 国連システムを使う
- 「人権教育のための国連10年」(1995-2004)を政府に働きかけるツールとして活用する。
- 地域として「人権教育のための第2次10年」を呼びかける。
- 地域の国連報告者や人権条約機関の専門家を、人権状況および対応すべき問題について経験共有するための助言者として招く。
- 様々な国連機関の利用できる資源および機会を活用する。
- 政府に人権保障義務を果たすよう圧力をかけることのできる国連人権機関に対してフィード・バックを行うためにシャドー・レポートのメカニズムを活用する。
- 政府に対し、「国連10年」の最終年にコミットメントを思い起こさせるよう働きかけを強化する。
- 「国連人権擁護活動家宣言」を活用し、人権侵害を防止する文化を促進する。
- 国連機関を人権教育促進のためのメカニズム評価に巻き込み、同時に国連人権教育プログラムを評価する。
- 政府に国連の人権条約を批准するよう働きかけるために人権教育を活用する。
(訳:岡田仁子・ヒューライツ大阪研究員)