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国際人権ひろば No.53(2004年01月発行号)

ヒューマンインタビュー

イシティアーク「希望を失わず、あきらめないように」 ナイーム「あなたの周囲の人たちのことを気にかけましょう」

ナイーム・ラシッドさん(Naeem Rashid) FM CO・CO・LO プログラム・スタッフ
イシティアーク・アーメドさん(Ishtiaq Ahmed) FM CO・CO・LO プログラム・スタッフ

プロフィール:
2人ともパキスタンのパンジャブ州出身。ナイームさんは大阪大学で、イシティアークさんは京都大学で、それぞれ博士号を取得したあと、現在は本業としてナイームさんは京都大学で生物工学の研究員、イシティアークさんも同大学でコンピューター情報ネットワーキングの研究員として働いている。担当のウルドゥ語番組「Dil Dil Pakistan」は、水曜日の深夜12時30分から2時まで(木曜日の早朝)と再放送で木曜日の深夜3時から4時30分(金曜日の早朝)に放送されている(76.5MHz)。「Dil」はパキスタンの国語であるウルドゥ語で「心」という意味。

聞き手:藤本伸樹(ヒューライツ大阪)


藤本:FM CO・CO・LOの多言語番組のDJの人にインタビューをさせていただくのは今回で11回目になるのですが、一度にお二人というのは初めての試みです。お二人とも来日のきっかけは留学のためだということですが、まずどうして日本の大学を選んだのかについてお聞かせください。

ナイーム:もともと英米の大学に留学するつもりだったのですが、たまたま1994年に1週間ほど日本を訪問したとき、大学の研究内容が優れていることを知りました。それに、何よりも日本の第一印象がとてもよかったので、気が変わったのです。そこで翌年からまず大阪大学の学生として日本での研究活動に入ったのです。

イシティアーク:私の場合は、博士号を取得するなら外国の大学でと決めていたのですが、経済的に自力では困難なので奨学金を考えました。奨学金の情報に関して最初に目に留まったのが日本の文部省によるものだったのです。応募したところ幸いにも10名の応募者中、私ひとりが選ばれたのです。1997年4月に京都にやってきました。

藤本:パキスタンは、正式国名がパキスタン・イスラム共和国と呼ばれ、イスラム教が国の宗教ですよね。イスラム社会とはほど遠いような、宗教色の薄い日本社会での生活で、最初不便に感じたことはありますか。

ナイーム:心配していたほどの不便さはなかったです。でも、食べ物に関しては苦労しました。

イシティアーク:私たちはよく肉を食べますが、来日間もない頃、ハラール食品をどこで買えばよいのかわからず、パンとヨーグルトだけで食事を済ますようなこともありました。それから、これはいまも続く不便さですが、イスラム教徒はポークを食べないのですが、日本で外食すればポークを使った料理や、見た目にはまったくわからないけれどポークのエキスが入ったメニューがとてもたくさんあります。だから、注文するときに店の人にわざわざ尋ねる必要があります。外食では、シーフード系か、和食に限定されてしまいます。

ナイーム:私は博士論文を書いていた当時、忙しくて自炊する時間がないため、大学の食堂で食事をとっていました。しかし、ポークが使われていないメニューはごく限られていたため、毎日のようにエビフライを食べていました。そのせいで、エビに飽きてしまい、最後にはきらいになってしまいました。あれから何年もたっているのに、いまでもエビだけは好きになれません。(笑)

藤本:日本の人々に対する印象はどうですか。

ナイーム:親切で正直、それに時間に正確な人たちが多いと思います。これはイスラムの教えにも近い行動なのです。

イシティアーク:イスラム教の教えでは、2つの大切な関係が存在しています。まず人と人、あるいは人と社会の関係を大切にすること、それから人と神様との関係が大切なのです。だから、たとえば私がだれかに悪いことをしたとき、相手が私を許さない限り、神様も私のことを許してはくれず、亡くなってから罰を受けることになります。だから、悪いことをしないよう心がけなければなりません。

藤本:イスラムに対する否定的なイメージにつながるようなステレオタイプの表現をよく耳にすることがあります。たとえば「イスラム教徒は戦闘的だ」といったような話です。

イシティアーク:いまお話ししたように、イスラム教では、人間と人間の関係を大切にすることが重要です。もし戦闘的に振舞えばその教えに反することになります。なぜならば、イスラムの目的は、平和の実現なのです。
 私は、マス・メディアがイスラムに関して報道する際、戦闘的だとかテロリストだといった紹介の仕方を繰り返し行っていると思います。だから、多くの人が、イスラムのイメージをそういう風に固定させてしまっているのでしょう。
 国際的な正義とは何かを確認し、それを実現することが大切です。正義がもたらされれば平和を達成することができます。そうすることでイスラム教の目的につながっていくのです。
 でも世界には正義を理解し、実現しようとする人たちや国ばかりではないです。そこで教育の課題が出てきます。実際、イスラム教に関する人々の理解度はまちまちです。少ししか知らなかったり、まったく知らない人たちにとって、マス・メディアがたとえばテロを強調して報道すれば、イスラム教徒はテロリストだとみられるようになってしまう。でも、世界を見渡すとテロリストはなにもイスラム教徒に限ったことではないでしょう。メディアをコントロールする国や人が、イスラムを悪く言っていると思います。そのことに、イスラム諸国に豊富に存在する石油や天然ガスなど資源の利害が絡んで事態が複雑になっているのではないでしょうか。

ナイーム:そうですね。もし誰かが私に悪いことを言ったり、仕掛けてこなければ、私は相手に何もしません。それは相手にとって同じで、もし理にかなわないことをされたら、相手も報復することでしょう。

藤本:奥の深い難しい話ですね。そうしたイスラム教の理解を図るために、お二人は日本でいろいろ活動されているようですが。

ナイーム:たとえば、私たちの「Dil Dil Pakistan」の番組PRの一環として、2003年のラマダンの最中の11月9日に「体験!ラマダンパーティー」というイベントを企画しました。ラマダンすなわち断食月という言葉はけっこう知られていると思いますが、その期間、イスラム教徒たちが実際、どのように過ごしているかを紹介しようと思って開催しました。これは、ラマダン中、夜毎に開かれるパーティを再現したもので、特別ディナーを通してパキスタンに親しんでもらい、番組のファンになってもらおうという目的もありました。
 また、「京都ムスリム・アソシエーション」というイスラム教徒の留学生が中心となって組織している団体が、過去数年間ラマダンパーティーを行っています。同様の催しは、東京や北海道などでも開かれています。京都の場合は、今年120人の定員に対して、それ以上の来場者がありました。そうした活動を通じて、日本人に対するイスラム教への理解を図っています。

藤本:京都ムスリム・アソシエーションは、ふだんはどんな活動をしていますか。

イシティアーク:神戸などには昔からモスクがあるのですが、京都にはまだないので、場所を借りて、毎週金曜日に礼拝のために集まっています。

藤本:パキスタンに住む人たちにとって、日本に対するイメージはどうなのでしょうか。

イシティアーク:電気製品や車など日本製品の人気はとても高いです。そんなこともあり、日本に一度は来てみたいと思うパキスタンの人たちは多いです。

藤本:お二人の将来の抱負をお聞かせください。

イシティアーク:実は私はこの2月にパキスタンに帰国します。イスラマバード市の大学で、コンピューター・ネットワークに関して講座をもつことがほぼ決まっています。

ナイーム:実は、私も7月に帰国し、ラホール市にある大学で教え始める計画です。

藤本:日本を間もなく去るにあたり、日本の人たちに何かメッセージはありますか。

イシティアーク:いま不景気で会社の業績がよくない話をそこらじゅうで聞きます。でも、苦労している普通の人々に対して、「希望を失わず、あきらめずに元気でがんばってください」と私は言いたいです。

ナイーム:家族をはじめ職場、友人、住んでいる地域などであなたの周囲にいる人たちのことをいつも気にかけて暮らしてほしいです。これがイスラムの精神なのです。

ハラール食品とは、イスラムの聖典に従って処理された食品のこと。