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国際人権ひろば No.55(2004年05月発行号)
国連ウオッチ
カタールで開かれたふたつの国連ワークショップ
Jefferson R. Plantilla (ジェファーソン・プランティリア) 藤本 伸樹(ふじもと のぶき)
ヒューライツ大阪
■ 湾岸地域の学校における人権教育に関するワークショップ
2004年2月から3月にかけて、カタール政府の協力のもと、首都ドーハにおいて、国連人権高等弁務官事務所のイニシアチブにより2つの人権に関する国際会議(ワークショップ)が開催された。
最初の会議は、2月15日から19日かけて同事務所とユニセフ、ユネスコなどの共催により「湾岸地域の学校システムにおける人権教育に関する小地域ワークショップ」。湾岸諸国評議会(GCC)に加盟するバーレーン、クウェート、オマーン、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、カタールの6カ国に加えてイエメンの教育省関係者とともに、アラブ人権研究所やアムネスティ・インターナショナル・ベイルート事務所などのNGOが参加した。
また助言者・報告者として、国連女性差別撤廃委員会や、モロッコ、チュニジア、ヨルダンの教育省、ヒューライツ大阪(ジェファーソン・プランティリア)などが招かれた。
このワークショップでは、世界各地域の学校における人権教育の現状が報告されるとともに、湾岸諸国における人権教育の現状と今後の推進に向けての議論が行われたのである。
幾人かの参加者は、湾岸諸国において人権教育を実施するうえで有利な点として、たとえば各国の憲法に権利条項が盛り込まれていること、政府は人権課題を学校カリキュラムに統合しようとしていること、子どもの権利に関する活動が行われていることなどをあげた。
一方、人権教育を行う際の共通した阻害要因として、人権教育の国内計画が策定されていないこと、教育関係機関および市民社会で人権文化に対する関心が低いことなどがあげられた。
そうしたことから、各参加者は非差別、平等、人権の不可分性と相互性(とりわけ人権とイスラム文化との関連において)の原則を強調する必要性や、人権教育は人々の態度や行為を変革する手段であることを認識するとともに、教員のトレーニングの必要性を確認しあった。
ワークショップの最後には、参加者によって12項目にわたる勧告が採択された。その主な内容は、湾岸諸国ではいずれも「子どもの権利条約」を除いて多くの国際人権条約が未批准であることから、それらの批准とともに、国際人権基準に基づく教育政策を研究すること、人権教育の原則と目標を導入するために湾岸諸国会議内の関連機関を強化することなどである。
これまで「人権教育に関する小地域ワークショップ」として、99年に韓国のソウルで「東北アジア・ワークショップ」が開かれている。その時は、教育関係者だけでなく外交官も多く参加していたことから、会議の論点が拡散しがちであった。しかし、今回のワークショップの参加者の大半が学校教育の関係者であったことから、人権教育の実施や強化に向けて具体的な議論ができたと評価できよう。
■ 第12回アジア・太平洋地域における人権の伸長と保護のための地域協力ワークショップ
国連人権高等弁務官事務所は3月2日から4日まで、同じくドーハで「アジア・太平洋地域における人権の伸長と保護のための地域協力ワークショップ」を開催した。このワークショップは、アジア・太平洋の人権促進と、地域的人権保障のメカニズムの構築に向けた域内諸国間の協力を進めるために、90年のフィリピン・マニラを皮切りに開催地をかえながら開かれている国連と各国政府による年次会合である。
第12回目となる今回は、日本を含む35カ国とパレスチナ自治区、16の国内人権機関(人権委員会)、およびアジア・太平洋国内人権機関フォーラム事務局などが参加した。また、オブザーバーとして、ヒューライツ大阪(藤本伸樹)を含む7つの非政府組織(NGO)が参加した。
ワークショップに先立つ3月1日、国連と国内人権機関、NGOによる会合が開かれた。そこでは、最近のアジア地域における人権状況、および人権委員会やNGOの取り組みが各参加者より報告されたが、幾人かは、人権が守られることを確保したうえで「反テロ対策」が講じられることの重要性を強調した。
「NGO会合」の参加者は、全体会の後、(1)国内人権行動計画、(2)国内人権機関、(3)人権教育、(4)発展の権利、という4つのテーマの分科会に分かれた。この4テーマは、98年にイランのテヘランでの第6回ワークショップにおいて、地域的技術協力のための枠組みとして採択され主要な柱に位置づけられたものだ。以来、毎年のワークショップでは、この枠組みを軸に議論されている。そうしたことから、「NGO会合」でもこれらに沿って話し合われ、翌日からの政府代表者によるワークショップへの提言をまとめたのである。
提言の内容は多岐に渡るが、たとえば人権教育に関しては、04年が最終年である「人権教育のための国連10年」に関して、05年から第2次10年を支持するよう参加国政府に求めた(その後の国連人権委員会において「第2次10年」の決議は行われなかった。本誌P20参照。)
2日から4日までのワークショップは、この4つの柱に沿って会議が進んだが、地域協力を話し合うというよりは、各国政府や機関によるそれぞれの人権施策に関する報告会という趣きであった。
国連の集計によると、国内人権行動計画に関しては、全世界で17カ国しか策定されておらず、そのうちアジア・太平洋地域はオーストラリア、インドネシア、モンゴル、フィリピン、タイの5カ国のみで、ネパールやニュージーランド、マレーシア、パレスチナ自治区が作成過程にあるという。また、アジアで「人権教育のための国連10年」に呼応して国内行動計画を策定しているのは、日本、フィリピン、タイ、パキスタン、インドのみであるという報告があった。
人権政策が行動計画として具体的に結実しないなか、国内人権機関はアジアで毎年のように新たに設立されており、「成長産業」だと表現され、人権伸長の原動力になり得ると多くの参加者が期待を表明した。
ワークショップの終わりには、4つの柱に即した51のパラグラフにおよぶ結論と、04年から06年までの3年間のアジア・太平洋地域における行動計画が採択された。
(詳しくはヒューライツ大阪の
英文ニュースレター'FOCUS',
March 2004 Vol. 35を参照してください。)