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国際人権ひろば No.56(2004年07月発行号)
Human Interview
言葉は分からないけれど出演している人がいつも笑っているのが楽しいという番組に
シンディ さん (Cindy) FM CO・CO・LO プログラム・スタッフ
プロフィール:
フィリピンのマニラ出身。FM CO・CO・LO(76.5MHz)のプログラム・スタッフとして、毎週火曜日PM9:00~10:30(再放送:水曜日AM3:00~4:30)に放送されるフィリピン語放送「Tinig Pinoy(フィリピン人の声という意味)」のDJを担当している。大阪大学大学院工学研究科応用生物工学専攻の博士課程を修了。現在、同大学微生物研究所に在籍。
聞き手:岡田仁子(ヒューライツ大阪)
岡田:まず、ご自分の番組について教えてください。どのような人を対象にした番組ですか。
シンディ:日本にいるフィリピンの皆さんに聞いてもらいたいと思っています。また、日本も含めて他の国の人に、フィリピンの雰囲気や文化、音楽などを知ってもらいたいと考えています。フィリピンの音楽は英語の歌詞が多いと思われるかと思いますが、これは、英語が世界の共通言語であることから、全世界にメッセージが送れるというところからきています。さらに、これは世界と競争できるという我々の自負でもあります。紹介している音楽は主に、フィリピン歌手によるフィリピン・オリジナルソングです。時には日本で活動しているフィリピン人アーティストを特集して紹介しています。日本人リスナーにはもっと私たちの国のことを知ってもらおうと、フィリピンの観光省と協力してフィリピンを紹介するコーナーも用意していますし、大阪外国語大学のフィリピン語の先生の協力により、わかりやすいフィリピン語も教えています。また、日本の法律を紹介するコーナーも6月から再開しています。
岡田:それは日本在住のフィリピン人リスナーのためのコーナーですか。
シンディ:日本の人にも、外国人が日本の法律をどう考えているか聞いてもらって、自分たちの法律を考えてもらい、そこから対話が始まればいいと考えています。
また、フィリピンで何が起こっているかについて伝えるコーナーもあります。例えば、フィリピンで新しい法律ができた場合などです。フィリピン政府は最近、海外で働くフィリピン人の本国への帰国や投資を促進しようとして、帰国したフィリピン人の起業を支援するプログラムを導入していますが、そういったものの紹介もしています。
岡田:ということは結構まじめな番組ですね。
シンディ:まじめな部分もあります。だからバランスが非常に大事です。他にもフィリピン人の産婦人科のお医者さんとも協力した情報提供もしています。日本に住んでいるフィリピン人のなかには、自分の健康についてどこで相談すればいいのか、また自分たちの症状をうまく説明できないで困っている人が多くいます。そういう人たちに情報を提供することで支援したいと考えています。
岡田:いろいろな人が参加される番組ですね。
シンディ:できるだけ、それぞれの分野で活躍されている人に協力していただこうと思っています。例えば、6月に始めた法律紹介のコーナーですが、以前、行政書士の方にお願いして、主に入管に関連する法律を中心に紹介していました。でも、今回からは、入管に関するものだけではなく、日常生活にかかわるものも紹介していきたいと考えております。日本に住んでいる人にとって、あることすら知らない法律が他にもいっぱいありますし、自分たちが正しいと思ってしていることも、実は、法律に違反しているという例もありますよね?
岡田:リスナーはフィリピン人だけではないとおっしゃいましたが。
シンディ:そうです。日本や他の国の人もこの番組でかかる音楽が好きとか、言葉は分からないけれど出演している人がいつも笑っているので楽しい、といって聞いてくれているようです。
岡田:日本に住んでいるフィリピンの人について伺います。大きなコミュニティがあると伺いましたが。
シンディ:はい。かなり大きなコミュニティが各地にあります。特に関西にはいくつもありますし、日本の人との交流が活発なコミュニティもあります。6月12日には、フィリピンの独立記念日として、のど自慢や美人コンテストなどのいろいろなイベントが行われました。
過去に一度、日本人によるフィリピン語のスピーチ・コンテストの審査員をしたことがありましたが、フィリピン人と共有できるジョークやユーモアのセンスを持った方がいて本当に驚きました。これには、驚きだけではなく、文化が共有できたような気がして非常に嬉しく感じました。
岡田:最近フィリピンで選挙がありましたが、在外投票制度があって、日本でも投票されていましたね。
シンディ:はい。最初はいろいろな法律や手続きが面倒そうだったのですが、実際始まってみると、みんなこの制度の考え方を歓迎していたようです。正確な数字を知ることは難しいですが、日本を始め海外には何百万人ものフィリピン人がいます。日本在住のフィリピン人も増えていますし、研究者も増えています。
岡田:大学の同僚の皆さんも投票に行かれましたか。
シンディ:そのようです。みんな選挙に参加したいと思っていましたから。国の外にいると、フィリピンの中にいるときに見えなかったことが見えることもあるからです。また、フィリピン人は実はみんな政治が大好きです。これは教育がアメリカの制度に基づいているからかも知れません。
岡田:番組では選挙について、登録の案内のようなことはされたのですか。
シンディ:はい。総領事館から支援の要請があり、選挙の前に副領事がどのように投票するのか、投票用紙をどうするのか、ということを番組で説明しました。今回、制度が実施された初めての投票だったこともありますから。
それでも今回の選挙はスムーズにいったほうではないでしょうか。日本では郵便制度が効率的であることから、登録・投票用紙が滞りなく配達されたようですが、他の国でも日本同様にスムーズに選挙が行われたかどうかはわかりません。けど、そういうトラブルがあったとは聞いていませんので、順調に行ったんではないでしょうか。
岡田:日本の場合、投票率の面では非常に低いという問題があります。
シンディ:ええ。そのことを知ったときは驚きました。ですから、この違いについて番組で話してくれる日本の人がいないかと考えています。今の政治の状況について、どう考える、と日本の人に聞いても、「はあ?」というような顔をされます。外国の人の方がよく知っていますよ。学校での教え方にも原因があるのではないでしょうか。フィリピンでは、社会科で最近のできごと、この国で何が起きているかについて学ぶ機会があります。
岡田:シンディさんご自身について伺います。何を研究されていらっしゃるのですか。
シンディ:私は、最初生化学を専攻していました。本当は医者になろうと思っていたのですが、生化学を学ぶことは、人の体の新陳代謝や酵素について学ぶことであり、それはとりもなおさず医学そのものであるとわかり、大学院は生化学を専攻しました。フィリピン大学応用生物学・微生物学研究所で勤務しているとき、大阪大学の先生に日本で博士課程に入って研究しないかと誘われ、来日しました。そこで酵素工学に関する研究を始めましたが、途中で進化に関する研究に移行し、昨年免疫学に転向しました。
岡田:変わられたのはどうしてですか。
シンディ:元々、人の体がどうして病気になるのか、どのように病気を防ぐかという医学的疑問、つまり、人の免疫系のメカニズムに強い興味を持っていたからです。免疫学は、歴史の古い学問ですが、最近の新技術の進歩により、これまで以上に深い解析ができることにより、より深い理解につながると思ったからです。
岡田:女の子が自然科学を敬遠する、ということについてはいかがですか。
シンディ:フィリピンではあまりそういうことはありません。驚かれるかも知れませんが、フィリピンの研究所では約80%は女性です。日本では、自然科学で研究を続けようという女性は、男性の2 - 3倍がんばらなければなりません。専門の研究ができる、というだけでなく、家庭のこともこなせなければなりません。特に結婚したり子どもがいたりすると、家事をどうするのか、子どもの面倒をどうするのか、と聞かれます。それは、女性にはできない、というまわりの先入観からくるようです。このような先入観から、その人の能力にあった機会を与えられないことが多々ありますし、研究の機会さえ与えられないこともあります。これは、女性の研究者にとって、不幸であると同時に、日本の女性の研究者が、ただ家庭を持っているというだけで、自分自身の能力を示す機会に恵まれずに埋もれてしまうことを残念に思います。