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国際人権ひろば No.57(2004年09月発行号)
Human Interview
柔軟な考え方を持ったふところの広い人間に憧れます
今井 由美(いまい ゆみ) さん FM CO・CO・LO パーソナリティー
プロフィール:
神戸市出身。FM CO・CO・LO(76.5MHz)の毎週日曜日の午前8:00~8:30放送の日本語番組「On the Move」を担当。フリーランスアナウンサー、通訳・翻訳者。最近、趣味でフラダンスを習い始めた。
聞き手:藤本伸樹(ヒューライツ大阪)
藤本:2002年5月号以来、「国際人権ひろば」ではFM CO・CO・LO で放送している各言語別の番組のプログラム・スタッフ(DJ)へのインタビューを毎回させていただき、04年7月号で14カ国のDJの方々に、それぞれの国の情報や日本での生活についてお話をうかがってきました。きょうは、残された第15番目の言語、すなわち日本語の番組のパーソナリティーにインタビューをさせていただくことにしました。そのおひとりで、毎回ゲストを招いてインタビューを中心に構成されている番組「On the Move」をご担当の今井さんにお願いすることにしました。まず、この番組の概要からお話しいただけないでしょうか。
今井:「On the Move」というのは、いま何かをしているとか、活動中とかいう意味ですが、NPO(非営利活動団体)を通じて、あるいは企業や個人のボランティアとして、自分を大事に思うのと同じように、周りの人たちにとっても少しでも住みやすくなるにはどうしたらいいのかなと考えながら何かの活動をしている人たちを対象にインタビューをしている番組です。それぞれの思いを持って、人のため、自分のため、あるいは地球のために何かをしているという意味をこめた、「ひとりひとりがかけがえのない地球人」というテーマの番組です。何か行動したいなと考えている人たちに聞いてもらい、ちょっとずつ輪が広がっていったらいいなあと思っています。
藤本:02年4月から始まって、04年7月25日の放送で121回目を迎えていますね。
今井:振り返ってみて、これだけいっぱいの人に会って、お話をうかがったのかと思うと感慨深いです。相手は、高校生から80歳近い方までいます。それに、日本だけでなく外国出身の方のインタビューもあります。
藤本:どんなタイプの人たちが多かったですか。
今井:特別なことをしているというのではなく、ほとんどがごく普通のことをしている人たちです。みなさんの考え方は似ているというか、たとえば身近に困っている人がいれば助けてあげようと思って活動を始めたところ、最初は自分が助けているのだと思っていたけれど、やっぱり自分も助けられているんや、お互い協力し合って生きているんや、という話に最後は落ち着くことがとても多いです。
藤本:これまでのインタビューを通じて、日本の市民活動に対してどんな印象をお持ちになっていますか。
今井:活動スタイルが自由になったという気がします。最初は自分一人で始めた活動でもつながりができて、気付いたらこんなに大きくなっていたと話す人もいれば、いろんなしがらみに縛られたくないから単独でも納得いく活動を続けていきたいという人もいます。そういう意味で、法人格を持ったNPOの活動であっても、個人のボランティア活動であっても、無理をせずに自由に何かを続けていこうという土壌ができてきているような気がします。
藤本:これまでに特に印象に残っているインタビューとして、どんな話がありましたか。
今井:それぞれに印象深いので、とても難しい質問ですね。・・・私は、インタビューをしているときに泣いたことはなかったのですが、ごく最近経験しました。7月11日に放送した難病の子どもたちの夢をかなえるお手伝いをしている団体「メイク・ア・ウイッシュ・オブ・ジャパン」のスタッフへのインタビューの最中に涙が出てしまい、しばらく言葉が出てきませんでした。子どもたちと一緒にみんなで夢を見て、なんともいえない達成感を得られるというお話を聞いたときです。
藤本:感極まっての涙ですね。
今井:そうですね。ほかに印象深かったといえば、沖縄にメンバーの平均年齢が70歳を越すおじいちゃん、おばあちゃんが参加している「白百合クラブ」というバンドがあるのですが、このグループの姿を追ったドキュメンタリー映画「白百合クラブ 東京へ行く」を撮った監督の中江裕司さんのインタビューでしょうか。03年9月に放送した番組です。
白百合クラブは、終戦の翌年に沖縄に住む若者たちが集まって結成されました。周囲の人をたくさん亡くして、みんながしんどいときに、励まし合いたいという気持ちから始めたそうです。何にもないときだから、マンドリンは瓢箪で作り、バイオリンの弦は墜落した戦闘機のワイヤーを張ったり、女性メンバーのスカートはパラシュートの布を使うなど手作りでまかなったそうです。途中、活動を中断した時期もあるけれど、いまは皆さん集まっています。そして、たとえば老人施設とかを訪問して、自分たちとほとんど同じ年代の人たちを前に、歌ったり踊ったりしています。そんな活動を50年以上にもわたって続けているんです。
ボランティアをしているというよりも、みんなが幸せな時間を過ごすということが何よりも楽しいという感覚で活動されています。メンバーのなかには、もう亡くなった方もあり、思い出すと辛くなるそうですが、それでも活動を続けておられるのですね。この映画を見ていると、生きるってことはものすごいことなんだと胸がいっぱいになります。そんな映画を作った中江監督もすごい方ですよね。
藤本:ところで、いま放送されている日曜日の朝8時といえば、目を覚ましてゆっくりと何かを始めようか、どうしようかという時間帯ですよね。
今井:布団の中ででもいいし、何かをしながらでも聞いてもらえて、そのなかで何か会話のひとつでもふたつでも心に残るような番組であればいいと思います。ラジオ番組は書いたものと違って、どんどん流れていってしまいますからね。
藤本:お仕事として、英語の通訳者もされていると伺っていますが。
今井:はい、通訳や翻訳の仕事もしています。それに関連して海外との渉外業務も入ってきます。たとえば、海外から日本にゲストを招聘したり、日本から海外に誰かが行って何かの催しを行う場合の調整などに携わっています。
サッカーの日韓ワールドカップのときも、アフガニスタンと日本の子どものサッカー交流をする活動に関連してアフガニスタンのサッカー連盟の人を招待するお手伝いをしました。当時のアフガンは、電話、ファックス、Eメールなど通信事情が悪く、マレーシア・韓国・イギリス・スイスなどの関連団体の皆さんに助けてもらいながら話をつなぎ、ようやく招待することができたという経験もしました。
藤本:いまのお仕事をするきっかけは何なのですか。
今井:英語が好きだったので、まず英語講師と同時に通訳・翻訳の仕事を始めました。もちろん英語の力量が必要なのは当然ですが、続けているうちに、日本語も大事なのではないかということに気付いたのです。他の人にとってわかりやく、すっと耳に入ってくるような日本語を話せるようになりたい、と思うようになったのです。そうすると、発声から勉強しなければということで、アナウンス・スクールに入ったんです。もともと話をすることや、言葉そのものが大好きだったので、こういう話をする仕事にスーと乗り移ったんです。スクールに通っているとき、日本語も英語もできるのであれば、こんな仕事があるよということで、少しずつラジオやテレビの番組の仕事をするようになりました。
藤本:「On the Move」に関して、今後の抱負をお聞かせください。
今井:とにかくインタビューし続けてゆきたいです。ひとつのテーマついて、20分
注というこんな長く話が聞ける番組はめったにありません。個性の異なる人たちの柔軟な考え方を知るたびに、なんでそんなにおおらかにできるんやろうかとつくづく思います。私も番組といっしょに成長して、ふところの広い人間になっていきたいです。
(注)「On the Move」の番組全体は30分だが、イベント情報も提供されているので、ゲストのインタビューコーナーに限れば約20分間。過去のインタビューについてはすべて
FM CO・CO・LOのホームページで聞くことができます。
FM CO・CO・LO (76.5MHz)
1995年10月に大阪で開局された日本で初めての多言語(現在14言語)によるFMラジオ局。生活情報などを届ける国別番組や語学講座などの番組が、ほとんど毎日24時間放送されている。国別番組の制作には、プログラム・スタッフと呼ばれる外国人スタッフが、日本人スタッフと共同で内容構成や収録、DJなどマルチな役割を担っている。