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国際人権ひろば No.57(2004年09月発行号)

特集2 インド・スタディツアー Part2

SEWA(女性自営者協会)の挑戦

菊地 由紀子 (きくち ゆきこ) 筑波大学第二学群生物資源学類4年

  「貧困であっても、社会的に虐げられることが多い女性であっても、彼女達に適した制度と人間らしく生きるために必要な権利を与えれば、それまで弱く、自分の意見を発言できなかった彼女達は、生き生きとした、実に頼もしい経済主体となることができるのである」。この力強いメッセージに惹かれ、私は女性の組織化を通じて女性の権利向上とエンパワメントに取り組んでいるSEWA(Self Employed Women,s Association 女性自営者協会)に大変興味を持ち、インド・スタディツアーに参加した。
  SEWAは1972年の設立以来、インド西部のグジャラート州アーメダバード市を中心に、女性が抱える職業上の問題の解決や労働環境の向上、酪農や手工芸品などの各種共同組合、トレーニング・教育機関などのサービスを通じて、このメッセージを経験的に実証してきた。今や会員数70万人強を誇る、一大女性支援組織である。
  SEWAにおける女性のエンパワメントを考える上で重要な役割を果たしてきたのは、SEWAの支援組織として1974年に設立されたSEWA銀行である。SEWA銀行は、行商や煙草巻きなどの零細自営業を営む女性達が、約4,000人の仲間から一人当たり10インドルピーの出資を呼びかけて設立した、まさに「女性による女性のための銀行」である。SEWA銀行では、これまで一般銀行が敬遠してきた貧困女性に対する金融サービスを行っているにも関わらず、貧困者への融資は高い返済率を上げ、預金動員による財務自立を達成している。貧困女性の経済的なエンパワメントを可能にしたSEWA銀行の金融サービスとは如何なるものか、及び金融サービスを利用している女性の実態について、スタディツアーでの訪問と、その後も個人的に滞在延長し、ヒアリングを行って感じたことを報告する。

■ 貧困者にも利用可能な制度


  貧困女性にとって、従来銀行は縁遠い存在であった。銀行の利用に際して、女性は仕事の関係で銀行の営業時間内に間に合わない、複雑な手続きが理解できない、さらには非識字の女性は書類の書き方がわからないなどの困難を抱えていたが、銀行職員は非協力的であるため銀行のサービスが利用できず、事業の元手となる材料や商品に必要なお金を仲買人や高利貸しから不利な条件で借り入れたり、預金場所がないために知らないうちにお金を使ってしまうなどの状況にあった。そこで設立されたSEWA銀行は、貧困女性が今まで抱えていた問題に以下のように対処している。
  まず、労働集約的な仕事であることが多い自営女性の時間的な制約への対応として、銀行は業務時間外でも対応するほか、銀行以外での集金業務(預金、融資返済、新規口座)を行っている。2台の小型バンで毎日アーメダバード市内を循環するモバイルバンクや、市内3ヶ所に設置されたコレクションセンターがこれに該当する。だが、モバイルバンクでは指定された曜日の指定された時間にしか集金できないため、日払いの収入を集金日までに使い込んでしまう組合員が多かったり、コレクションセンターからもSEWA銀行からも遠い地域に住む組合員にとってはあまり効果がないなど、不完全なものであった。そのため、これに加えてハンドホルダーとバンクサティー(Bank Saathi, Saathiは"友人"の意味)制度が発案された。ハンドホルダーはアーメダバード市内を13人のSEWA銀行職員が日中循環し、400~500人の組合員の集金やカウンセリングなどを行う制度で、バンクサティーは組合員の中から選出されたSEWA銀行の契約社員で、自分の居住地域のSEWA銀行利用者から集金したり、居住地域の女性に対してSEWA銀行のサービスに対する説明会を開催したりして勧誘する。一人のハンドホルダーが4~5人のバンクサティーを管理し、バンクサティーは集金額や勧誘人数の出来高に応じた給料を受け取る。これによって、組合員は預金や融資の返済を自分の収入スケジュールに合わせて行ったり、毎日貯蓄することが可能になった。今回のヒアリング調査においても、毎月給料日に集金に来てもらえるように依頼している者や、バンクサティーの勧誘でSEWA銀行を利用し始めた組合員も多数おり、その効果が伺える。
  融資においても、貧困者が利用しやすい条件を掲げている。SEWA銀行で融資を受けるために必要な条件は、預金額に関わらず一年間定期的な預金を積むことと、処分可能な担保である。預金額を考慮せずに融資を与えることは低収入の女性であっても融資を受ける見込みがあることを意味する。また職員がカウンセリングにのった上で組合員自身が無理のない返済スケジュールを決定できる。担保については、多くの女性が自らの預金口座を担保に融資を受けていた。組合員は一年間の預金期間中、事業の内容や生活状況などを詳しく審査され、その上で返済可能と認められた者が融資を受けることができる。初回融資額は大体5,000~10,000インドルピー(約13,000~26,000円)である。初回の融資には事業目的であることが条件付けられているが、二回目以降は特に指定されていない。家の改築、子どもの教育費、結婚資金など様々な目的のために融資を利用している。
  また貧困や返済不能に陥る大きな要因である不慮の自然災害や家族、本人の死に対する危機管理として、保険会社と連携した保険サービスを供給している。ヒアリング調査においても、保険に加入している組合員が多数見受けられ、手術時や災害時に保険を適用していた。
  教育を受けていない非識字の組合員に対しても、指紋と写真で本人確認をしたり、SEWAの教育機関であるSEWA Academyにおいて識字教育を行うなどして対処している。その他、女性達が理解できるまで繰り返し業務の内容を口頭で説明したり、貯蓄の必要性や効率的な消費行動を身に付けさせるためのトレーニングを行うなどの教育にも熱心である。

■ 実態調査からうかがえるSEWA銀行


  以上のような、貧困女性のニーズに即す工夫を凝らしたSEWA銀行であるが、実際に利用している組合員の実態と、そこからうかがえるSEWA銀行の課題について説明したい。
  ツアー終了後個人的にSEWA銀行を訪問し、2日間で34名の組合員に対し、簡単なアンケートによるヒアリング調査を行った。回答者は全て既婚者であり、SEWA銀行利用年数1~3年の女性が中心である。職業は煙草巻きや裁縫といった家内業が最も多く、次いで衣類販売などの商業、清掃や家事手伝いなどの労働提供の順である。
  教育年数については、全く教育を受けていない女性が7名、内非識字が5名、2名は識字教室に通っている。入会経緯を見てみると、半数弱が家族、親戚、友人からの口コミによるものであり、SEWA銀行が彼女達の信頼を得ていることを示している。融資回数を見てみると、利用年数の関係から初回申請者が多いが、継続して融資を受けている者も多数みられる。返済不履行に陥った組合員はほとんどおらず、周りでも見聞きしないとの回答を多く得たが、この要因として予め返済不履行に陥りそうな組合員が厳重な審査によって除かれていることがあげられる。定期的な預金さえ積めば融資を受けられるという条件は一見魅力的だが、不慮の事態に陥った際の救済措置がない。
  組合員の証言によると、保険を適用するには一定期間の積み立てが必要だが、期間を満たしていても保険制度に関する情報が不足していたり、人によって保険金が下りたり下りなかったりと、不平等がみられるようである。所感として今回調査を行った組合員の中に、本当に貧困状態にあると思われる組合員は少数で、厳しい審査の中で最貧困層がどの程度はじかれているのか興味がある。
  今回の実態調査で、SEWA銀行が女性のエンパワメントに重要な役割を果たしてきたことは大半の組合員の明るい笑顔からも明らかであるが、少数ではあったがSEWA銀行に対し不信感を抱いている者、貧困状況から抜け出す術を持たず喘いでいる者が見られたのも事実である。貧困の根は深い。だがSEWAが30年かけて行ってきた女性のエンパワメントは、宗教的、文化的に制約の多いインドにおいても着実に効果を示してきた。SEWAの活動を根底から力強く支える女性の可能性を信じ、彼女達がいつか堂々と、自信に満ち溢れる姿を望みながら、SEWAの活動から多くのことを学び、共有していきたい。