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国際人権ひろば No.58(2004年11月発行号)
人権の潮流
第7回国内人権機関国際会議に参加して
私は、2004年9月14日から同月17日まで韓国ソウルで開催された「第7回国内人権機関国際会議」に、大阪弁護士会所属の武村二三夫弁護士とともに、日弁連の代表として、NGOのオブザーバー資格で参加した。本稿は、その会議の概要の報告とともに若干の感想を述べるものである。なお、この会議には、日本から私ども2名の他にヒューライツ大阪の野澤萌子氏と反差別国際運動(IMADR)の森原秀樹氏も、NGOのオブザーバー資格で参加している。
国内人権機関国際会議とは
国内人権機関国際会議(以下、「国際会議」という。)は、国内人権機関間の増大する協力の必要性から、1991年にパリで第1回会議が開催された。国際会議の目的は、(1)国内人権機関間の協力関係を発展強化すること、(2)参加者間の友好と連帯を創設し強化すること、(3)問題となっている事項を討議すること、(4)各国レベルでのフォローアップを確保すること、である。国内人権機関は、第1回のパリ会議以降原則として隔年毎に開催されており、今回のソウル会議は第7回になる。国際会議には全ての国内人権機関が招待されることになっているが、独立性等「パリ原則」の要件を満たしていない国内人権機関は正式には国内人権機関とは認定されず、国際会議での投票権は認められていない。この意味で、現在懸案になっている日本における国内人権機関も、「パリ原則」の要件を満たさない限り、国際会議に出席はできても投票権はないということになる。
会議の概要-紛争及び反テロ闘争下における人権擁護-
今回の国際会議は、韓国国家人権委員会により組織され、ソウルのロッテホテルで開催された。第7回国際会議の参加団体は、国内人権機関の国際調整委員会により正式に認定された国内人権機関39、国内人権機関オブザーバー20、国連人権高等弁務官事務所、アジア太平洋国内人権機関フォーラム、NGOオブザーバー16ヶ国28団体、その他7ヶ国8団体であった。
第7回国際会議のメインテーマは、「紛争及び反テロ闘争下における人権擁護」というものであり、このメインテーマの下で、国内人権機関としてどのようなことができるかということが、実質的な討議事項であった。国際的には最もホットな議題ではあったが、日本のNGOとしては経験も研究も不足したテーマであり、それだけに私個人としては極めて啓発的な経験であった。上記のメインテーマの下で5つのワーキンググループ(以下、「WG」という。)が、それぞれのサブテーマで9月15日に討議し、その討議を受けて9月16日に全体会が開催され、9月17日に「ソウル宣言」が採択された。WGのサブテーマは、WG1が「紛争と反テロ闘争:経済的・社会的・文化的権利」、WG2が「紛争と反テロ闘争:市民的・政治的権利と法の支配」、WG3が「紛争下における国内人権機関の役割」、WG4が「紛争とテロの下での移住者」、WG5が「紛争下での女性の権利」であった。
ソウル宣言の概要
第7回国際会議での討議は、会議の最終日に採択された「ソウル宣言」に集約されている。「ソウル宣言」の構成は、(1)前文、(2)一般原則(WG3のテーマ)、(3)経済的・社会的・文化的権利(WG1のテーマ)、(4)市民的・政治的権利と法の支配(WG2のテーマ)、(5)紛争とテロの下での移住者(WG4のテーマ)、(6)紛争下での女性の権利(WG5のテーマ)、(7)ソウル・コミットメント、となっている。
「ソウル宣言」における「テロリズムと人権」に関する基本的考え方は、その前文の以下の表現に集約されているとおり、テロ行為自体が重大な人権侵害であることを前提として、そのテロ行為に対抗する手段も、人権の尊重、基本的自由及び法の支配の枠組み内においてなされるべきであるということである。
「テロリズムはすべての人権、特に生命への権利及び身体の安全への権利に直接かつ破壊的な影響をもたらす。人権の尊重及び法の支配はテロリズムに対抗する最も重要な手段である。国家の安全と個人の権利の保障は相互に依存し関連するとみなすべきである。それ故に国家がテロリズムに対抗する手段は国際人権法、難民法及び人道法に合致しなければならない。」
そして、「ソウル宣言」の「一般原則」では、以下のような国内人権機関の役割が記載されている。即ち、セキュリティ立法を人権の側面から審査して意見を述べる、早期の警告メカニズムと関連する運営上のガイドラインを開発する、国家による権利の侵害を検証する、紛争当事者に対して人権と人道法に関するアドヴァイスをする、紛争の平和的かつ交渉による解決のための計画、戦略、メカニズムにおいて一定の役割を果たす、紛争の背景にも焦点をあて人権の関心事をより広範な社会的文脈におく、人権文化、平等、多元性を推進する重要な役割を担い、女性の公正かつ衡平な代表によってそれらの原則を示すこと等が、テロに関連して国内人権機関が担う役割として集約されている。
若干の感想
テロに関しては、既に10を越える条約が締結され、国連総会決議や安全保障理事会決議も存在するが、今回のような「テロと人権」というテーマについて日本では真剣な議論がなされていないように思う。そして、残念なことは、このような世界の関心事が討議される場に出席できる国内人権機関が日本にはいまだ存在していないということである。また、仮に近い将来日本において国内人権機関が設立されたとしても、それが果たして「パリ原則」を満たし、認定されうる(投票権のある)国内人権機関となるかどうかは重大な懸念事項である。今回のような国際会議で実のある討議に参加すること、これもテロという場面における日本の国際貢献ではないかと思うのだが...。
最後に、「ソウル宣言」の他、「テロと人権」に関する参考資料を紹介しておこう。まず重要と思われるのは、2004年8月28日に国際法曹委員会(ICJ/Internaitonal Commission of Jurists)が採択した「テロとの闘争における人権と法の支配の擁護に関するICJ宣言」
(注1)である。また、国連人権高等弁務官事務所作成の「テロとの闘争下おける人権擁護に関する国連と地域機関の法体系ダイジェスト」
(注2)と「アジア人権センター」(Asian Center for Human Rights)発行の「人権委員会と紛争」
(注3)も、「テロと人権」の観点からよくまとめられた資料である。いずれも世界の議論の水準がわかるものであり、「テロと人権」に関する基本資料であろう。
(注1) "The Berlin Declaration: the ICJ Declaration on Upholding Human Rights and the Rule of Law in Combating Terrorism"
(注2) "Digest of Jurisprudence of the UN and Regional Organization on the Protection on Human Rights While Countering Terrorism" [MS-Word文書/592KB]
(注3) "Commission and Conflicts" [PDF文書/258KB]
(編集注)
1.「パリ原則」とは、1993年の国連総会で採択された「国内機関(国内人権機関)の地位に関する原則」(決議48/134)の略称。
2.
「ソウル宣言」の日本語訳,
「ソウル宣言」英文(
国内人権機関フォーラムのホームページ)。