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国際人権ひろば No.61(2005年05月発行号)

世界の人権教育

人権教育推進のための「東南アジア・ワークショップ」を開催して

ジェファーソン・R・プランティリア Jefferson R.Plantilla ヒューライツ大阪主任研究員

  ヒューライツ大阪は、ユネスコ・バンコク事務所と国連人権高等弁務官事務所の資金助成を受けて、フィリピン教育省の協力のもと、2005年4月5日から7日にかけてマニラにおいて、「人権教育レッスンプランのオリエンテーション&トレーニング・ワークショップ」を開催した。
  インドネシア、マレーシア、タイ、カンボジア、ベトナム、ラオス、東ティモール、それにフィリピンの8カ国から教員研修担当者、教育研究者、教育省の担当者など20人(助言者と事務局員を除く)が参加した。

■ 東南アジアの学校向けに制作された「レッスンプラン」(指導事例集)


  今回のワークショップは、2001年にマニラで開催した「人権教育レッスンプランに関する東南アジア・ライトショップ」がきっかけとなった。この取り組みは人権教育レッスンプランを実際に書いていく(作っていく)ことを目的としていたことから「ライトショップ」(writeshop)と名付けていたのである。6ヵ国からの参加者は、レッスンプランを考案したあと、マニラの小学校と高等学校においてそのうちのいくつかを試験的に使った授業を行ったのである。
  2002年、6カ国の教育関係者で構成された「検討チーム」が、検討会を行いレッスンプラン集の出版をめざして選定と改訂を行った。その後、タイのバンコクで2度の検討会と数ヵ月間におよぶEメールによる意見交換を経て、レッスンプランは2003年中頃に確定されたのである。同年11月、英語版の" Human Rights Lesson Plans for Southeast Asian Schools"(東南アジアの学校のための人権レッスンプラン)が刊行された。
  2004年から2005年初頭にかけて、同書はインドネシア語、クメール語、ベトナム語に翻訳・出版され、それぞれの国の教育機関や学校に配布されたのである。さらに、同書の事例集部分は中国語と日本語、ペルシャ語にも訳されている。タイ国家人権委員会は、まもなくタイ語版の翻訳・出版に着手する計画だという。また、東南アジアの他の言語にも翻訳される可能性が高い。

■ ワークショップの開会式


  フィリピン教育省のホセ・ルイス・マーチン・ガスコン次官は歓迎あいさつのなかで、「フィリピンではすでに独自に人権教育実践集を制作しているものの、まだやるべき課題は多くある。そうした課題のなかでも、人権教育は優先的に位置づけなければならないと認識しているが、教材制作等には多額の資金を要することから、多くの教員の手元にはまだ実践集が届いていない。したがって、人権教育に活用できるような資料は何でも最大限活用することが必要である」と語った。
  また、「レッスンプランは教員研修の教材として活用されるとともに、他の言語にも引き続き翻訳されることを期待している」というヒューライツ大阪の川島慶雄所長のメッセージが代読された。
  「レッスンプラン」の編集と印刷の費用を助成したフリードリッヒ・ナウマン財団のマニラ事務所のアレキサンドラ・クエグケンさんは、人権教育に対する継続した関心と支援の意志を表明した。
  「検討チーム」を代表してマレーシア人権委員会のチアム・ヘン・ケン委員は、チームのメンバーは内容の検討や、出版の実現に向けて内容の改善に力を注いだことを述懐した。とりわけ、バンコクでの長時間にわたる検討作業が、東南アジアにおける異なった社会的背景や人権状況を反映したうえでの「レッスンプラン」の発刊となったことを報告した。また、同委員は、同書の内容は完璧ではないが、活用するに値する優れたものであると述べた。
  フィリピン教育省のフェ・ヒダルゴ次官は、子どもが直面している問題を考慮すれば人権教育は緊急課題だと強調した。
  「検討チーム」のメンバーによって、カンボジア、インドネシア、フィリピン、ベトナムからの参加者に、「レッスンプラン」の翻訳書が手渡されるという儀式が行われた。
  開会式の最後は、高校生によるダンスで締めくくられた。学生ダンサーたちは、家族の生活を支えるためにフィリピンから海外に出て行く移住労働者の苦しみを表現した。移住労働者の人権問題は、「レッスンプラン」に盛り込まれている課題のひとつである。

■ ワークショップで得た数々のヒント


  ワークショップは、(1)「東南アジアの学校のための人権レッスンプラン」の紹介、(2)教員研修のために同書に盛り込まれた考え方を活用するために研修する、という目的で開かれた。
  そうした目的を達成するために、ワークショップのプログラムは主に次の内容からできている。(1)基本的人権の原理の議論、(2)人権のカリキュラムとレッスンプランの内容に関する議論、(3)異なった国において教員の研修教材として同書をいかに使用するかを議論すること、であった。
  レッスンプランは、教育へのアクセス、児童労働、開発、環境などの課題を取り上げているが、東南アジアの国々における異なった状況をブレンドして完成させたものであり、指導事例の参考となることを意識して作成していることから、ワークショップでは近い将来これが教員研修教材として使われることが助言者によって奨励された。もちろん、教員がこのレッスンプラン、とりわけ自国語への翻訳版ができている国においては、教室で実際に使われてよいとも語られた。
  ワークショップの最中、助言者は人権教育の実践において数々の重要な課題を指摘するとともに、レッスンプランの異なった内容に関して解説を行った。人権文書、宣言、プログラムなど、人権教育を国際的に支える根拠の提示も行った。たとえば、1993年9月にクアラルンプールで開かれたアセアン国会議員連盟(AIPO)の総会で「人権に関するクアラルンプール宣言」を通して人権教育に対する支援が表明されている。
  世界人権宣言と子どもの権利条約に含まれている人権の基本的原理が繰り返し強調された。この2つの文書は、「レッスンプラン」に多く掲載されているからだ。
  他の助言者は、人権を教えること、およびそのカリキュラム、レッスンプランの枠組み、具体的な人権などを統合し実践していくというアプローチを論じた。また、レッスンプランで解説されているそれぞれの権利が、子どもの権利条約の第何条に該当するかをチェックさせることを通じて、特定の権利に対するより深い理解を図るためのアクティビティを行う助言者もいた。
  どんなワークショップでもいえることだが、経験交流は重要な要素である。タイにおいて、国家人権委員会が調整し異なった政府機関やNGO、研究者たちが協力して人権教育プログラムを開発しているといった話に参加者は耳を傾けていた。また、フィリピンでの人権教育の普及の経験と、同時に困難さに関して知ることもできた。
  タイでは、子どもの権利に関する理解をさらに深める全国的なプログラムとして、同国のすべての県における不利な状況に置かれているコミュニティにある学校をターゲットにした「ラブスクール・プロジェクト」(実験学校プロジェクト)が行われているという。マレーシアでは、既存の公民教育を人権教育の時間にあてることも考えられるし、インドネシアでは人権の視点を加味しながら、道徳教育を人権教育にあてることも可能であると語られた。

■ ワークショップへの参加者たち


  ラオスと東ティモールからは、ヒューライツ大阪が1998年に東南アジアを対象に活動を開始して以来、初めての参加であった。今回、両国からは教育省の担当者が2人ずつ来ていた。ラオスからの2人は、学校教育において人権教育を開発することに強い興味を示していた。ラオスではすでに子どもや女性の権利に関する事業が展開されているが、今回のようなワークショップは新鮮だったという。
  東ティモールからの2人は、これまでテーマじたいに馴染みがなかったことから、どちらかといえば聞く側に回っていた。とはいえ、彼らは東ティモールにおける教員研修システムに関する報告を行った。
  いくつかの国の参加者は、それぞれの国でレッスンプランを教員研修だけでなく、教室でも使用してみたいと異口同音に語っていた。

■ サブ地域ワークショップ


  東南アジア・ワークショップは、2005年にヒューライツ大阪が組織する2つのサブ地域ワークショップのひとつである。7月下旬にはインドのデリーで南アジア・ワークショップを開く予定だ。これは、インド、バングラデシュ、パキスタン、ネパール、スリランカの教育関係者を対象に、学校のカリキュラム開発に焦点をあてて行うものだ。現在ヒューライツ大阪が進めているインド、スリランカ、フィリピン、日本の4カ国における人権教育に関する調査プロジェクトを資料として提示する予定である。この調査は、教育政策と高校生の人権意識に焦点をあてたものである。

(訳・ヒューライツ大阪 藤本伸樹)