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国際人権ひろば No.62(2005年07月発行号)

国連ウオッチ Part1

国連・子どもの権利委員会、保護者のいない外国人の子どもに関する一般的意見6を採択

平野 裕二 (ひらの ゆうじ) ARC代表

  国連・子どもの権利委員会(以下「委員会」)は、その第39会期(2005年5月17日~6月3日)において、「出身国外にあって保護者のいない子どもおよび養育者から分離された子どもの取扱い」に関する一般的意見6を採択した(以下、[ ]内の数字は未編集版のパラグラフ番号)。
  「保護者のいない子どもおよび養育者から分離された子ども」(unaccompanied and separated children、以下「保護者のいない子ども等」)とは、何らかの事情で親をはじめとする保護者・養育者と離れ離れになった18歳未満の子どもを指す[7~9]。このような子どもが出身国、すなわち国籍国または常居所国[11]を離れて国外で保護を求める場合、保護者といっしょにいる場合よりもさらに弱い立場に置かれやすい。このことから、子どもの権利条約(以下「条約」)ならびに難民の地位に関する条約(1951年)・議定書(1967年)を中核とする国際難民法の原則・規定を踏まえ、このような子どもの取扱いに関する指針を示したのが今回の一般的意見である。
  一般的意見6は8部から構成されている。第1部~第3部は、それぞれ一般的意見の目的、構成・適用範囲ならびに用語の定義を明らかにしたものである。以下、第4部「適用される原則」、第5部「一般的および具体的な保護のニーズへの対応」、第6部「庇護手続きへのアクセス、法的保障および庇護に関する権利」、第7部「家族再統合、帰還およびその他の形態の恒久的解決策」、第8部「研修、データおよび統計」と続いている。

外国人の子どもの取扱い一般に関わる原則


  日本では保護者とともに入国・在留する子どもがほとんどであり、保護者のいない子ども等に焦点を当てた今回の一般的意見はあまり関係がないように思われるかもしれない。しかし、必ずしもそうとは言えない。
  その理由は、第1に、一般的意見6では外国人の子どもの取扱い一般に関わる原則がいくつか明らかにされているためである。
  差別の禁止の原則(条約2条)がこれに該当することは言うまでもなく、委員会は、「保護者がおらず、もしくは養育者から分離されており、または難民、庇護希望者もしくは移住者であるという子どもの地位を理由とする差別は禁じられる」ことを強調している[18]。外国人について異なる取扱いをすることを認めた社会権規約2条3項について、「条約から派生する義務の絶対的性質およびその特別法としての性格にかんがみ、[同項は]保護者のいない子どもおよび養育者から分離された子どもに関しては適用されない」[16]と断言しているのも興味深いところである。当然、教育・十分な生活水準・健康に対する権利も、すべての子どもに対して十全に保障されなければならない[41~49]。
  また、警察による取締りなど治安維持的な対応をとることが許容されるのは、「当該措置が法律にもとづいており、集団的評価ではなく個別の評価にもとづいてとられ、比例性の原則を遵守し、かつもっとも侵害度の小さい選択肢である場合のみである」とされていること[18]も、外国人の子ども全般について当てはまると言えよう。「差別の禁止に関する原則に違反しないためには、そのような措置を集団的に適用することはけっしてできない」[18]とも指摘されている。
  子どもの収容についても同様であって、「拘禁は、子どもが保護者のいないもしくは養育者から分離された状態にあること、ないしはその移住者としての資格もしくは在留資格またはその欠如のみを理由として、正当化することはできない」[61]。国際難民法の原則にしたがい、人身取引および搾取の被害を受けた子どもを含む保護者のいない子ども等が、「不法な入国または滞在のみを理由として犯罪者とされることがないことを確保する」ことも求められる[62]。収容が必要な場合でもそれは最後の手段として例外的に行われるべきであり、「拘禁」ではなく「ケア」を基調としたアプローチをとるべきである[63]。
  最後に、締約国の責任は「すでに保護者のいないまたは養育者から分離された子どもに対して保護および援助を提供することに限られるものではなく、分離を防止するための措置(避難の場合に保護措置を実施することも含まれる)も含む」[13]ことにも注意しなければならない。

ノン・ルフールマン原則の子どもへの適用


  一般的意見6が日本に無関係でない理由の第2は、これが国際難民法の諸原則、とくにノン・ルフールマンの原則(外国人をその生命や自由が脅かされる可能性のある国に送還してはならないという原則)を子どもに適用するさいの配慮事項を明らかにしているためである。このような配慮は子どもが保護者とともにいる場合でも行われなければならないものであって、保護者のいない子ども等については国の責任がより重くなるにすぎない。
  ノン・ルフールマンの原則について、委員会は、「子どもに回復不可能な危害が及ぶ現実の危険性があると考えるに足る相当の理由がある国に子どもを帰還させてはならない」[27]との解釈を明らかにしている。このような危害の典型例としてしばしば言及されているのは子どもの軍事的徴用[28・58・59]であるが、これには限られない。危害の評価は「年齢およびジェンダーに配慮した方法で」行われなければならず、たとえば子どもの難民認定との関連では、「子どもに特有の迫害の形態および表れの一部」として、「親族の迫害、法定年齢に満たない者の徴用、売買春目的の子どもの人身取引および性的搾取または女性性器切除の強要」が挙げられている[74]。
  また、「回復不可能な危害」には、「直接に意図された」権利侵害だけではなく「作為または不作為の間接的結果」も含まれる[27]点に注意が必要である。したがって、「たとえば食糧または保健サービスの供給が不十分であること」によって子どもに「とりわけ深刻な帰結」が生ずると思われる場合にも、ノン・ルフールマンの原則が適用される可能性がある[27]。これは、生命権の侵害や拷問・迫害のおそれをノン・ルフールマンの原則の要件とする通説的理解よりもさらに踏み込んだ見解であると評価できよう。
  したがって、「出身国における家族再統合は、そのような帰還が子どもの基本的人権の侵害につながる『合理的おそれ』があるときは子どもの最善の利益にかなうものではなく、したがって追求されるべきではない」[81]。出身国への帰還も、「原則として、そのような帰還が子どもの最善の利益にかなう場合にのみ行われなければならない」[84]。「一般的な出入国管理に関わる主張のような権利を基盤としない主張は、最善の利益の考慮に優位することはできない」[85]のであって、たとえ子どもが国際法上の「難民」に該当しない場合であっても、そのニーズに応じた補完的保護が提供されるべきである[77]。
  最後に、一般的意見6が日本と無関係でない第3の理由として、少数とはいえ現に保護者のいない状態で入国・滞在する子どもが存在することが挙げられる。その典型例は、人身取引によって日本に連れてこられた子どもである。委員会は、「人身取引と保護者のいない子どもおよび養育者から分離された子どもの状況との間にはしばしば関連があること」[23]に留意するとともに、このような子どもの取扱いについて次のように指摘している。
  「このような子どもは処罰されるべきではなく、重大な人権侵害の被害者として援助を受けられるべきである。......ふたたび人身取引の対象とされるおそれのある子どもは、帰還がその最善の利益にかない、かつ保護のための適切な措置がとられた場合でなければ出身国に帰還させられるべきではない。国は、帰還がその最善の利益にかなわないときは、人身取引の対象とされた子どもを保護するための補完的措置を検討するべきである」[53]。

◆一般的意見6の日本語訳は筆者のウェブサイトに掲載する予定。