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国際人権ひろば No.64(2005年11月発行号)

特集 真の友情を築く市民交流のための韓国スタディツアー Part1

ソウルの街は暑く、市民も熱かった

朴 君愛 (パク クネ) ヒューライツ大阪主任研究員

  2005年は日韓国交正常化40年、日本の戦後(朝鮮半島の解放)60年にあたり、「日韓友情年」が設定されて多様な取り組みが進められている。最近は韓流ブームもあって日韓往来も400万人時代となった。その一方、2005年になって領土問題、歴史教科書問題、靖国参拝等をめぐり日韓の対立が深まっている。
  ヒューライツ大阪では、2005年のスタディツアー訪問地を韓国に決め、NPO法人コリアNGOセンターとの共催で、8月11日から16日の日程で、韓国スタディツアーを企画した。
  日本からの22名の参加者は、韓国の若者、NGO、歴史の証言者と直接の交流の場を持ち、パワーあふれる市民活動と出会い、また韓国の地から日本の近現代史を見つめる機会となった。プログラムの中から、「日韓市民社会の交流と協力のための日韓市民フォーラム」(共催:ヒューライツ大阪、コリアNGOセンター、参与連帯平和軍縮センター)の内容を中心に報告する。
  「参与連帯」は1994年に結成された韓国のNGOで、市民の参加による民主的政治の実現と公正な社会システムを築くべく幅広い活動をしている。2000年には参与連帯が中心になって腐敗政治家を当選させない「落選運動」を展開した。今回は、参与連帯の組織の一つで2003年設立の平和軍縮センターが「市民フォーラム」開催を共に担った。

「日韓市民社会の交流と協力のための日韓市民フォーラム」


  8月13日、ソウル市鍾路区の参与連帯事務所の講堂で「市民フォーラム」を開催した。企画段階で「日韓の市民の信頼関係を築くため、率直な思いを向き合って聴くこと、日本の参加者が、市民社会が大きく発展している今の韓国を理解すること」をねらいとした。参与連帯平和軍縮センターからは、未来を展望するには、過去の清算と現在東北アジアに起こっている軍事化の問題をはずせないという意見が出された。
  まず開会のあいさつが、初瀬龍平さん(ヒューライツ大阪企画運営委員長、京都女子大教授)とパク・スンソンさん(東国大学教授、参与連帯平和軍縮センター所長)からなされた。進行は、郭辰雄さん(コリアNGOセンター運営委員長)とイ・テフンさん(参与連帯協同議長)が担当した。

<第1部>「東北アジア軍事化と日韓関係」


発題(1):東北アジアの戦後秩序の再編と日韓・日朝関係
報告:鄭甲寿さん(ワンコリア・フェスティバル実行委員長、コリアNGOセンター理事)
 戦後60年の東北アジアを3つの時代区分にわけて分析してみた。冷戦時代・冷戦末期・そして冷戦後である。東北アジア地域は冷戦中に、ナショナリズムを強めた。その後韓国は民主化を果たし、過去の軍事政権下での人権侵害など自国内の歴史を見つめる作業を行っている。日本の歴史認識の問題に韓国の市民が声をあげたのはこの延長線上にある。
 一方、冷戦時代に日本はアジアとの歴史問題にあまり向きあって来なかった。そして冷戦後は日本がナショナリズムを強めている。日本の市民運動が活発だった70年代は歴史問題について日韓の市民はあまり連帯できなかった。今、南北コリアの関係も韓国の努力に負うところが多く劇的に変化している。これは再び戦争があってはならないという決意である。金大中前大統領からは早くから東アジア共同体構想が提唱された。日韓の市民が連帯し、東アジアの平和、歴史認識やナショナリズムを克服していくべきであり、私はそれが可能だと思う。

発題(2):日米軍事同盟と平和憲法の改定
報告:イ・キョンジュさん(仁荷大学教授、参与連帯軍縮平和センター会員)
 韓国にとって今年は解放60年であると同時に南北分断60年でもある。在日コリアン社会も分断されてきた。だから南北間の和解と協力が大事になっている。
 現在、日本では平和憲法改定の動きがあるが、これを日米韓が軍事的な同盟を強化しているという面から説明をしたい。米国は世界戦略の中心を欧州からアジアへ移している。韓米は軍事条約がある。日米も軍事的条約を結んでいるが、憲法9条によって自衛隊は戦闘行為ができないので、双務条約ではなく片務条約である。それで日本は軽武装から重武装の対米従属的な平和主義に変化しようとしている。2000年に憲法調査会が国会に設置され、その報告書では、憲法規定と現実とが乖離しているので憲法を改正すべきだということであった。新聞の世論調査では、日本人の多くは、改正に賛成でも9条改定に賛成しているわけではない。9条の改定にはいくつか課題がある。
 その一つが日本国内の護憲運動の動きであり、もう一つは東アジアで高い関心が寄せられていることだ。その理由は次のとおりである。東アジアで軍備競争が強まっていること。朝鮮半島での平和軍縮運動が後退しかねないこと。日本の平和憲法は、戦争の加害国が被害国に対する歴史的約束という理解がされていること。
 そこで日本の平和憲法の改悪に対し東アジア共同で対処する必要がある。まず平和憲法の成果と限界を認識する作業が必須である。憲法9条が提示している非武装・平和主義は東アジアの平和共同体になることができる。

<第2部>「過去の歴史の清算と共同の歴史理解」


発題(1):歴史の清算と日・韓・『在日』市民の未来
報告:丹羽雅雄さん(弁護士、「すべての外国人労働者とその家族の人権を守る関西ネットワーク(RINK)代表」)
 日本において、首相の靖国参拝、歴史教科書問題、植民地政策を評価するような政治家の『妄言』等にみられる歴史認識と清算をめぐる状況は、憲法9条の平和主義の改変と結びついている。被害者個人に対する戦後補償運動は長い間存在しなかったが、朝鮮半島、中国、フィリピンの被害者などによって約80件の裁判が起こされ、それに関わる日本の弁護士ものべ1,000人を超えた。しかし日本政府は、在日韓国人の戦後補償は、日韓請求権協定で解決済として国家の法的責任を認めていない。「歴史認識と清算」を阻害する要因であるが、米国の占領政策、冷戦構造下の日米安保体制、日本の市民が加害意識を持ち得なかった等々が挙げられる。日本・韓国・在日の市民が、真に和解し信頼しあう友人となるための提案をしたい。侵略と植民地支配の歴史の事実を認識することが必要である。被害者個人に対する戦後補償を実現し、また日韓の谷間の存在になった在日コリアンの人権保障のために、特別立法が必要である。
 さらにアジア地域には人権機構が存在しない。国際人権基準を広める市民・学者の努力が必要である。日本の憲法改定問題は、アジアの平和と人権保障、「歴史の清算」に関わる重要な問題である。

発題(2):日本の歴史教科書問題と日韓市民社会の連帯
報告:カン・ヘジョンさん(「アジアの平和と歴史教科書問題と日韓市民社会の連帯」国際協力委員長)
 私が所属している団体は、2001年の日本の歴史教科書問題に関連して結成された。日本の歴史教科書のモニタリングをしたり、日本・韓国・中国で共同して歴史研究をしている。3年半の共同研究によって、『未来を開く歴史』という近現代史の歴史教科書が発刊できた。2005年は今後4年間の日本の公立学校で使用する歴史教科書を地域で選定される重要な年であり、日本の市民団体と連携して活動している。7月中旬から8月末まで韓国の市民の募金で、日本の新聞に意見広告を載せた。1982年にも豊臣秀吉の「侵略」か「進出」かをめぐって歴史教科書問題が起きた。当時、韓国は軍事独裁政権下にあり、歴史問題は「反日」問題であり、政権がそれを国民統合に利用した。2000年以降の韓国は以前とは違う。
 韓国では独裁政治に対する自らの歴史の見直しが始まった。その延長として日本の歴史問題を問う声が出ている。反日運動ではなく、東アジアの平和を阻害すると見ているのだ。日本は右傾化し、以前より平和勢力の力がなくなっている。韓国は問題を抱えてはいるが、10年20年の単位では人権が伸長してきた。私たちはアジアでの自分たちの位置を自覚し、共通の課題解決に向けて役割を果たすべきだ。

 スタディツアーでは、この他に、「自主平和統一のための815民族大祝典」への参加、環境、女性、外国人労働者をテーマにしたNGO訪問、元日本軍「慰安婦」のハルモニがくらす「ナヌムの家」訪問、ハンシン大学の学生との交流等々のプログラムを進めた。