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国際人権ひろば No.65(2006年01月発行号)

特集 アジアの子どもの人権 Part4

東北アジアにおける子どもの権利(前編)

イ・ヤンヒ (Yanghee Lee) 国連子どもの権利委員会委員・成均館大学(韓国)教授

■東北アジア4カ国の政府報告の審議


  東北アジアの国々には共通する点がいくつもある。特に韓国、北朝鮮、中国と日本の4カ国は現在国際舞台で多くの注目を集めている。その注目を取り巻く政治的および経済的影響は本稿の主題ではない。ただ、この地域には政治的に微妙な問題が多くあるということを理解しておかなければならない。しかし、本稿の目的はそれら微妙な問題を扱うことではなく、人権、特に子どもの権利に人間という観点を取り戻すことにあり、この地域における子どもの地位とその権利について簡単な見解を述べていきたい。
  これら4カ国はすべてこの2年の間に国連子どもの権利委員会に提出する子どもの権利条約の実施に関する第2回政府報告の審議を行っている。子どもの権利条約はほぼ普遍的に(ソマリアと米国を除いて)批准されている唯一の条約であり、子どもを前面に出し、その権利を促進し、保障し保護する責任をすべてのステークホルダーに課す条約である。
  4カ国には多くの共通点があるが、それぞれの国に内在的な経済的、社会的な事情があることを強調しておかなければならない。一方、各国はその歴史、宗教、伝統、および文化について共有するところが多いことから、信仰、価値観および日常生活が似ているとしても驚くに及ばない。
  人権は長年重要な、しかし西洋的概念として理解され、受け入れられてきた。西洋諸国でも条約を完全に実施することは困難である。それが西洋諸国には、条約に留保や宣言を付している国があることの理由であるかも知れない。子どもが親の財産とみなされる社会では条約を守ることに対して反感が大きいようである。
  本稿の趣旨は、(1)子どもの権利委員会による総括所見に関して基本的、一般的な見解を述べること、(2)共通のテーマについて述べること、(3)課題について述べることである。これらの見解は、この地域に限定されるものではないが、地域的、文化的な示唆を含み得る。それぞれの国における子どもの権利の状況の理解を深めるためにのみ特定の国について言及する。
  子どもは未来であると考えられている。ある社会では子どもは王様とまで言われている。しかし、その未来の指導者たちの生活は思ったほど立派なものではない。第1回報告の審議の際に比べて、子どもの権利を実現するための新しい立法や政策、指針などにより改善は見られる。しかし他の地域にも当てはまるように、この地域の国も子どもの生活をよりよくするためにまだできることは数多くある。条約を実施するための理想的な模範というものはないかも知れないが、条約にあげられる原則や規定は子どもにふさわしい世界をつくるための基本的な指針となるはずである。その理念は条約の実施と遵守だけではなく、子どもの権利が実現され得る実際の環境やプロセスにも関わるということは強調されすぎることはない。

■東北アジアの共通課題


  4カ国とも条約実施だけではなく、認められ、尊重され、保護される権利を持つ人の集団として子どもを認識する努力を実際に行っている。しかし、実施のための一般的措置の分野においてより注目すべきである。先ず、条約の留保や宣言を1993年の世界人権会議で採択されたウィーン宣言および行動計画に則って撤回すべきである。条約にあげられる原則および規定は国連の加盟国による合意によってつくられたものである。すべての条約に当てはまるように、条約はあらゆる宗教的、経済的および文化的観点の研究を含む長い起草過程を経てつくられた。したがって、加盟国が特に子どもの権利条約について留保を維持しなければならない理由はないと思われる。
  国内法が条約の原則や規定を十分に反映していない、あるいは十分遵守していないという懸念も共通する点である。このこともこの4カ国だけに特有な点ではない。もっとも懸念されるのは条約が裁判所において直接援用できないということであろう。このことは分権化のプロセスに伴いより大きな懸念を招くことになる。地方自治体により条例が異なり、それらが条約に適合しない場合、子どもが明らかに「みえていない」状況がつくりだされることになる。子どもの定義、少年司法、差別、障害をもつ子ども、子どもの虐待やネグレクト、体罰、性的および経済的搾取などすべて条約の遵守の問題に関わる。特定の子どもの集団に対する事実上の差別だけでなく、婚外子、マイノリティや民族的集団の子ども、障害をもつ子どもなどもっとも立場が弱い集団に対して法律上の差別もまだ残っている。
  親の許可なしに結婚できる年齢が女の子と男の子で違う場合、女の子を不利な立場に置くことになる。伝統は女の子が男の子よりも早く結婚することを要求する。締約国は国内の女性にジェンダーの平等を否定しているのである。このことは、朝鮮半島両国および日本などの市民社会がもっと注目すべき問題である。日本のように女の子の性交同意最低年齢を低く(13才)に設定することは、女の子の性的搾取の扉を大きく開くことになる。さらに、刑事責任の最低年齢引き下げは条約に照らして検討されなければならない。また一家族当たり登録できる子どもの数を一人とすることは女の子に深刻な不利をもたらす。
  少年司法は子どもの問題の中でもっとも見落とされているものであるかもしれない。すべての国において、この分野はもっとも厳しく対処されている。日本では、第1回報告と第2回報告審議の間に公判前の拘束期間が引き延ばされ、中国および北朝鮮では依然として司法手続きの欠如があるなどの例が見られた。実施された多くの改正において見られた、刑事手続きが行われない場合の自由の剥奪は条約の原則や規定の精神(子どもの権利委員会はこの問題について一般討議の日を設け、間もなく少年司法に関して一般的意見を採択する)、少年司法運営のための国連標準最低規則(北京規則)や少年非行の防止に関する国連指針(リヤド・ガイドライン)にそぐわないが、これら4国すべてにおいてこうした慣行がしばしば現実に存在する。

■求められるモニタリングと影響評価


  独立したモニタリングのための仕組みが欠如しているのはこの地域の一般的状況のようだ。この仕組みは省庁間の政策モニタリングの仕組みと間違われているようである。委員会は、子どもに影響を与える政策について政府の関係機関の間で連絡することを可能にする省庁間調整メカニズムを作るよう締約国に対して繰り返し求めてきた。この仕組みはさまざまな政策、法律、条例などの影響をモニタリングする制度も有すべきである。また、この機関が期限付きの子どもに対する影響アセスメント調査を行うことも勧告されてきた。
  委員会はさらに、子どもの権利の促進と保護における独立した国内人権機関の役割について一般的意見2(CRC/GC/2002/2)を採択した。これは省庁間のモニタリングの仕組みとはまた異なるものである。条約の第4条は締約国に権利の実施のためにあらゆる立法、行政および他の措置をとることを義務づける。この仕組み、または機関は子どもに配慮した方法で子どもからの苦情を受け、権利の侵害に対して救済を提供する機能を備え、1993年総会で採択された人権の促進と保護に関する国内機関の地位に関する「パリ原則」に則っていなければならない。
  体罰は、コフィ・アナン国連事務総長が子どもに対するあらゆる暴力の形態に関する調査(子どもに対する暴力に関する国連調査)を呼びかける程地球的規模を有する暴力の問題である。西洋では、「ムチを惜しむと子どもがダメになる」ということわざが広く受け入れられてきたが、東洋にも「愛のムチ」(韓国)と似たような言い方がある。子どもを愛しているならば、ムチを使ってしつけることに躊躇しないという意味である。我々の社会で見落とされているのは、これが子どもに対する明らかな暴力の一形態であるということである。子どもを罰する以外の目的はない(だとしても、この罰としての形態は肯定的な効果はなく、道徳的に間違っている!)。子どもを単に罰することではなく、その向上と学習過程に懸念を有しているのならば他の形態のしつけを検討し、実施しなければならない。条約に従い、体罰は学校および他の施設ではほぼ禁止され、一部の国では家庭においても禁止されている。しかし、この4カ国では学校、施設やほとんどの家庭でまだこの慣行が行われていることが報告されている。
  もう1点あげなければならない分野はデータ収集と予算配分である。この2つは密接に関連した問題である。条約は18才までのすべての子どもに関するデータを要求している。4カ国すべてにおいて18歳未満のすべての子どもを含むようデータ収集制度に改善の余地がある。それぞれの法律において対象となる子どもの年齢が異なるため、どれだけの予算が配分され、そのプログラムや政策が効率的であったかどうかを正確に評価することがほとんど不可能になってしまっている。なんらかの理由で、もっとも弱い立場にある住民、つまり子どものデータが十分にないようである。締約国がすべての集団の子どもの数の内訳や予算配分を正確に把握していない限り、適切な行動計画を策定し、子どもへの影響アセスメント調査を行うことはできない。(次号に続く)

(訳・岡田仁子 ヒューライツ大阪)