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国際人権ひろば No.67(2006年05月発行号)
アジア・太平洋の窓 Part2
ASEANにおける人権教育の推進をめざして
ジェファーソン・R・プランティリア(Jefferson R. Plantilla) ヒューライツ大阪主任研究員
■ 地域的人権保障メカニズム構築の一環としての人権教育
東南アジア諸国連合(ASEAN)は、2004年11月にラオスで開催した第10回首脳会議においてASEAN共同体の実現に向けた「ビエンチャン行動計画」
[注1](2004-2010)を採択しているが、そのなかで人権に関わる取り組みとして「人権に関する教育と市民の意識」
[注2]を促進するという内容を盛り込んでいる。
05年7月1日、ASEAN首脳は「ASEAN人権保障メカニズムのためのワーキング・グループ」
[注3]に対して、同行動計画の実施を支援するよう求めた。それを受けて、この「ワーキング・グループ」は、「人権教育のためのアジア・太平洋地域資料センター」(ARRC)と協働して、06年3月23日~25日にタイのバンコクでASEANにおける人権教育の推進に関する会議を開催した。国内人権機関(人権委員会)、NGO、研究者、ユネスコ、国際労働機関(ILO)、人権高等弁務官事務所など国連機関が参加した。
会議では、(1)各国政府が主体的に関わること、およびそれぞれの課題などを考慮しながらASEANにおける人権教育プログラム・取り組みを検討し、(2)政府の戦略および政府との可能な関わりを確認するとともに、(3)ASEANにおける可能な人権教育の取り組みを推奨したのである。
■ 提案された主要なプログラム
各参加者は、東南アジアでの定型教育および非定型教育における人権教育のプログラムや活動を紹介した。また、人権に対する否定的な認識や政府が人権教育にあまりコミットしていないこと、否定的な官僚体質、資源不足、既存の人権教育プログラムのなかに統合性を欠いたものがあることなど、人権教育が直面している課題や困難についての意見が出された。
参加者は、ASEANにおける人権教育プログラムのために次のような目標を提案した。
- 「国連人権教育世界プログラム」などで述べられている人権教育の国際的基準の実施。
- 人権、および人権を基礎に据えたアプローチ、人権教育に関して、ASEANと国連、および他の関連機関とのあいだでの対話の強化。
- 「ASEAN地域人権教育研修・研究センター」の設立。
- 人権教育共同事業の企画と実施。
- 「ASEAN人権教育のための委員会」の創設。
■ ASEANレベルで人権教育を
提案された目標は、国レベルでは人権教育国内行動計画の策定支援、政府による人権教育政策の立案、行動計画や政策を実施するための資源の確保、既存の資源の集約(非定型教育プログラム、教材、専門家など)、政府担当者と市民社会の代表が定期的に対話する、未設置の国において国内人権機関を設立することなどである。
参加者はまた、人権教育の取り組みおよび資源のリストアップ、人権教育に関わる政府の中心的な担当者(教員、教員研修の講師、政府担当官など)と担当省庁を対象とした研修を行うこと、政府と市民社会の代表が合同して行う定期的な人権教育活動の見直しなどを提案したのである。
さらに、設立しようという提案が行われた「ASEAN地域人権教育研修・研究センター」は、人権教育のための人材育成を推進するとともに、人権教育に関して議論するために教育機関の関係者が会議を開いたりすることを主目的としている。
ASEANと市民社会の団体との共同事業として、教員、教員研修の講師、政府担当官などを対象にトレーニングを行ったり、調査・研究、人権教育のベスト・プラクティスや実践家を認証するシステムを確立することなどのアイデアが出た。
以上のような提案は、具体的な検討を求めてASEANに提出されることになっている。
注1:ビエンチャン行動計画(Vientiane Action Programme)の全文は、ASEANのホームページに
掲載されている。(英語)
注2:「ビエンチャン行動計画」の付表2の1.1.4.4
注3:ASEANにおいて加盟国間による地域的な人権保障メカニズムの構築を推進することを目的に、域内の研究者やNGO、国家人権委員会、一部の政府関係者が集まり結成された個人・団体による連合体。
ホームページ(英語)
(訳・藤本伸樹 ヒューライツ大阪)