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国際人権ひろば No.67(2006年05月発行号)

特集 米国における人身売買と性的虐待に対する取り組み Part1

人身売買のサバイバーにシェルターを提供する

イメルダ・ブンキャブ (Imelda Buncab)
奴隷と人身売買を廃止する連合(CAST)全国プログラム部長

■ 奴隷と人身売買を廃止する連合


  米国国務省によると、毎年14,500人から17,500人の人が米国に人身売買され、ロサンゼルスは米国で三番目の受け入れ先である。多くの人がこの都市に売買され、家事、性産業、低賃金で長時間労働、建設業や飲食店業での隷属的労働などで搾取される。
  奴隷と人身売買を廃止する連合(Coalition to Abolish Slavery & Trafficking、以下CAST)は人身売買のサバイバー(人身売買、レイプなど過酷な状況を生き延びた人)に社会的および法的サービスを提供することによりそのような人々を支援するほか、アドボカシーやトレーニングも行うロサンゼルスの非政府組織である。CASTは人身売買のサバイバーにとって文化的、言語的に適切で、サバイバーに特有のニーズに応じたサービスを提供する。CASTの目的は強制労働や奴隷労働のような状況に陥った人々を支援し、そのような人権侵害の撲滅に向けて取り組むことである。

■ 人身売買サバイバーのためのシェルター


  人身売買のサバイバーに包括的なサービスを提供することは集中的に取り組まなければならない作業である。人身売買被害者が発見された時点で最も緊急で重要なニーズはシェルターである。CASTは包括的な社会サービス・プログラムの一環としてサバイバーのためのシェルターを運営している。CASTのシェルターには、緊急および一時的施設として女性の利用者が18カ月まで滞在することができる。シェルターには1日24時間、シフト制でマネージャーが常駐し、一人ひとりの安全を確保している。シェルターは一人ひとりに個別的なサポートを提供し、ホリスティックなアプローチで利用者の精神衛生状態の治癒に向けた治療的活動を提供する。
  また、自己決定と自己エンパワメントへの道のりの手助けをするワークショップを設け、シェルターに滞在する人だけではなく、利用者全員がシェルターを訪れ、ワークショップにアクセスできるようにしている。このようなワークショップには第二言語としての英語教室、消費者の権利に関するワークショップ、リーガル・クリニックや生活上および職業上のスキルを学ぶワークショップなどがある。さらに、CASTは医療および精神医療ケア、法的および通訳サービスを提供するさまざまな組織とパートナーシップを結んでおり、また住居に関しても独自のシェルター以外にも他のオプションもある。
  多様なシェルターを含むネットワークを活用することは、利用者に複数の選択肢を提供することになる。CASTはドメスティック・バイオレンス(DV)被害者のシェルター、ホームレスの人の一時的居住プログラムやアパートを他の選択肢として利用している。人身売買のサバイバーのシェルターのニーズはそれぞれの個別の状況や人身売買の事例に応じてこれらのいくつかのオプションを通して満たしていくことができる。DVシェルターが人身売買のサバイバーを受け入れる場合は次の点を考慮する必要がある。

1. 利用者の安全
  人身売買の状態から逃れるということは、もしサバイバーが加害者に見つかった場合危険に陥るということを意味する。利用者が滞在する場所の安全を審査することおよび安全計画は人身売買だけでなく、DVのサバイバーの安全を確保するためにも不可欠である。DVシェルターの所在地は重要であり、人身売買のサバイバーにとって一番安全である場合もあるが、そうでない場合もある。安全計画をたてることはサバイバーの安全を確保する手段になるが、そのプログラムには利用者のための自衛教室や潜在的に危険な状況を評価することを学ぶことなども含み得る。

2. スタッフ/組織の安全
  加害者がスタッフを探して脅す恐れもあるので、サービス提供者のための安全も課題となる。シェルターの所在地の安全を審査し、秘密にしておくことはスタッフと利用者にとって一定の安全を確保することになる。また、組織の方針として事務所の電話番号やスタッフ全員の情報のアクセスを制限することもできる。

3. スタッフ・トレーニング
  人身売買サバイバーのニーズは集中的であるのと同様、複雑でもある。シェルターで働くスタッフは、利用者がサービスを受ける力や意志に影響を及ぼす文化的および言語的側面をよりよく理解するために、人身売買の背景や性質、文化的に適切に対応することなどについて十分トレーニングされている必要がある。

4. シェルターのモデル
  DVシェルターは人間関係の中で起こる暴力のサバイバーに対応するようつくられ、滞在者に健全な関係をつくる心理的教育を提供し促進するグループ・セラピーに参加するよう働きかける。このアプローチは人身売買サバイバーには必ずしも有効とは限らない。自分が搾取されたことを恥じて、経験を話すことができない場合や、あるいは話すことにより、他の滞在者が宣誓証書をとられたり、召喚されたり、または機密保持違反に問われる恐れがあるなど刑事および民事手続の捜査に悪影響を及ぼす可能性があるからである。また、DVシェルターでは利用者が共通の経験を共有できずに、孤立感が増すこともある。DVと人身売買には重なる点もいくつかあるが、同じ問題ではないのである。

5. 文化的感受性に応じた環境
  人身売買サバイバーのためのシェルターは、文化的および言語的に適切でなければならない。サバイバーの多くは受け入れ先の国の言語をほとんどまたは全く話さない。シェルターは世界各地からの、さまざまな言語を話す人の集まる場所となる。利用者の出身民族の食事を買って食べることができること、宗教的、精神的な教示へのアクセスがあること、さまざまな治療方法、例えば精神的、西洋および東洋医療などへのアクセスがあることなど文化的に感受性の高い環境がつくられることが重要である。また利用者が年齢差別や他の滞在者の言語の違いなどの問題に対応するために文化的適応(competency)トレーニングを受けることも重要である。

  人身売買サバイバーのためのシェルター・サービスがあるコミュニティは少ないかも知れない。そのためにも既存の資源を活用し、この支援を受けることの少ない、隠れた被害者の集団を助けることは重要である。人身売買のサバイバーは世界の各地から来て、集団としてのニーズの他にも個人的なニーズもある。包括的で文化的にも言語的にも適切なサービスを協力パートナーを通して提供することは、サバイバーが尊厳のある自立した生活を十分に達成することの支援につながるのである。