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国際人権ひろば No.67(2006年05月発行号)

現代国際人権考

国連人権理事会の創設

白石 理 (しらいし おさむ) ヒューライツ大阪所長

  2006年3月15日、国連総会は、人権理事会創設のための決議を採択した。総会決議60/251である[1]
  これに先立つ05年3月、国連事務総長は人権委員会に代わる人権理事会を提案し[2]、9月にニューヨークで開かれた世界首脳会議で人権理事会の創設が決まっていたのであるが[3]、人権理事会にどのような機能を持たせ、メンバー選出をどのようにするかについては、国連加盟国間で非公式協議が続けられ、その積み重ねの結果がようやく06年2月23日、総会議長提案として発表された。この議長提出の決議案にはアメリカが反対を唱えたが、結果的にはそのままの形で採択された。エリアソン総会議長はこの採択を「人権にとって歴史的な快挙」と讃えた。
  アルブール人権高等弁務官は人権理事会の設立を「世界の人々の基本的自由の保護と促進をはかる絶好の機会」であり、「国際人権体制の核となる強い機構を作るという期待にこたえるものである」とした。[4]
  確かに、人権理事会は、これまでの人権委員会に多少手を加えて名前を変えただけというものではない。人権理事会は、人権委員会が多年にわたり作り上げてきた特別報告者制度や非政府組織の参加と幅広い貢献の実績は維持しつつ、新たに人権機構の強化策を採り込んでいる。次の点に注目したい。

人権理事会にいたる背景と特徴


 第一に、これまで経済社会理事会の機能委員会として位置づけられた人権委員会から、総会の下部機関としての理事会に格上げされたことである。これによって、人権理事会での審議、決定にこれまでより高い権威が付与されることになる。第二に、人権理事会は、地域ごとに定められた配分数[5]の合計47カ国で構成される。理事国の選出は、総会で立候補国ごとに無記名投票、国連加盟国の絶対過半数[6]による選出方式による[7]。理事国は引続き一度だけ再選されることができる。第三に、理事会はすべての国連加盟国の人権状況を定期的に審査することになるが、理事国に立候補する国は、特に人権の保護促進の公約を求められ、理事国となれば他の国連加盟国に先立って国内の人権状況審査を受けることになる。第四に、理事国が重大で組織的な人権侵害をした場合には、総会で票決に加わる国の三分の二の多数決で理事国の資格停止がありうる。第五に、人権理事会は、毎年少なくとも3回、合計10週間以上の会合を持つ。そのほかに緊急事態に対処するため特別会期も考えられている。
 近年、人権委員会が本来の機能を果たさず、信頼に足るものではなくなったとする批判の声[8]が次第に高まっていた。それは、人権委員会が、特定国の人権状況について、政治的配慮から非難決議を採択したり、またその反対に深刻な人権状況になんらの決議もしなかったりという、いわゆる、人権委員会の「政治化」と、対象国によって異なる判定基準を使う「二重基準(ダブル・スタンダード)の適用」に陥っているという批判であった。人権を公然と侵害してはばからない国が人権委員会のメンバーに選ばれていることが問題の根源であるともいわれた。人権理事会では、このような批判を受けて、理事国の数を減らし、選出方法を厳しくし、理事国になる資格として「人権保護、促進を公約し奉ずる」という条件を新たに設けることにした。
 ここに到るまでの過程で、人権理事会が政治的駆け引きを離れて、客観的にすべての国の人権状況を判定できるためには、これでは不十分であるとする意見と、完全ではないにしても人権機構の飛躍的前進であるとする意見のせめぎあいがあったことはニュースでも伝えられたとおりである。

求められる対話と協力


 ただ、忘れてはならないのは、人権委員会がそうであったように、人権理事会も多様な国益と外交戦略を持つ様々な主権国家が集まって、討議し、妥協を探り、合意をする国際政治の現場であるということである。いかに精緻な制度を設けようとも、政治的配慮に影響されずに人権状況を客観的、公平に審議し、判定することは難しい。人権高等弁務官が期待するように、各国がそれぞれの利害を超えて、何よりも人権を護るということを第一にするという政治的決意を貫くことによってのみ、この新しい人権機構は効果的に機能するようになるのであろう[9]。これは容易なことではあるまい。
 総会決議60/251によれば、人権理事会は、人権侵害状況を審議するに際して、当事国を弾劾非難することよりも人権問題に対処するための対話と協力を強調するという。対話と協力が功を奏するためには、人権を護ることがどの当事者にとっても長期的にはそれぞれの利益につながるという共通の認識、非難・強制ではなく理解と説得を促す信頼関係の樹立などが前提となる。人権問題対処のための考え方、アプローチ、方法論の転換ができるかどうかが鍵となる。
 5月9日には人権理事会のメンバーが選出された。6月19日からの開催が予定されている人権理事会第1会期など今後の展開を見守りたい。

(筆者は、05年8月まで国連人権高等弁務官事務所に勤務、06年5月より現職)

(注)
1. 決議文参照。
2. "In larger freedom: towards development, security and human rights for all":Report of the Secretary-General (A/59/2005, 2005年3月21日) 181-183節。さらに、"Human Rights Council: Explanatory note by the Secretary-General", note by the Secretary-General"(A/59/2005/Add.1,2005年5月23日)に、提案の詳しい説明がある。
3. 総会決議60/1(05年9月16日採択)(document A/RES/60/1、05年10月24日)
4. 3月15日付声明
5. アフリカ13、アジア13、東ヨーロッパ6、ラテンアメリカ-カリブ海諸国8、西ヨーロッパ-その他の諸国7。人権委員会では、アフリカ15、アジア12、東ヨーロッパ5、ラテンアメリカ-カリブ海諸国11、西ヨーロッパ-その他の諸国10の合計53カ国であった。
6. 06年1月の時点で加盟国数191である。したがって96票の賛成が必要となる。
7. 人権委員会のメンバー選出は、経済社会理事会による地域単位ごとの公開投票、単純多数決の方式であった。
8. 前註2参照。たとえば、A/59/2005, 182節。
9. 前註4参照。