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国際人権ひろば No.68(2006年07月発行号)

国連ウオッチ

国連人権理事会第一会期 (6月19日~6月30日)

白石 理 (しらいし おさむ) ヒューライツ大阪所長

  2006年3月、国連総会は決議60/251を採択し、人権理事会の設立とその組織と機能の詳細を決めた。これを受けて、人権理事会第1会期が6月19日から6月30日まで開かれた[1]。国連総会議長、事務総長、人権高等弁務官をはじめ、各国代表は、それぞれの演説の中で、人権委員会に代わる人権理事会が、人権委員会の欠陥を正して、より効果的、公正に人権問題に対処する新たな国連機関として、国連加盟国すべての人権状況の審査を行い、対話と協力を通して世界の人権問題の解決と国際人権基準の実効的実現を目指すとの期待を表明した。

  人権委員会当時の慣例であった各国高官の演説が続いた4日間を含めて、人権理事会は2週間の期間中に、5つの決議、7つの決定を採択し、2つの議長声明を出した。

  第1会期では、なによりもまず総会決議60/251で求められていることに応える必要があった。人権委員会のもとで作られた任務や制度の見直しに関しては、以下のことが決まった。
  1. 経済的、社会的および文化的権利に関する国際規約の選択議定書についての作業部会の2年延長(決議2006/3)。
  2. 開発(発展)の権利に関する作業部会の1年延長(決議2006/4)。
  3. 人権委員会のすべての特別手続の任務とその担当者(特別報告者と作業部会会員)、人権小委員会の任務とその担当者(特別報告者、作業部会)および経済社会理事会決議1503によって作られた通報手続の1年延長(決定2006/102)。これについては、非理事国、他の国連機関、NGOなど関係組織も参加できる政府間作業部会をつくり、そこで、すべての関係者を巻き込む形で、見直しと合理化のための具体的勧告を作成することにした(決定2006/104)。
  4. 人種主義、人種差別、外国人異民族嫌悪およびそれに関連する不寛容に関するダーバン宣言および行動計画の効果的実施に関する作業部会の3年延長(決議2006/5)。
  5. 加盟国すべての人権状況審査の進め方を検討するため非理事国、他の国連機関、NGOなど関係組織も参加できる政府間作業部会の設立(決定2006/103)。
  そのほか、人権理事会は、人種主義、人種差別、外国人異民族嫌悪およびそれに関連する不寛容と闘うために作られている国際文書相互間に存在する齟齬を調べるために5人の専門家を任命することを人権高等弁務官に要請した(決議2006/5)。また、人権理事会は、信教の自由に関する特別報告者、人種主義、人種差別、外国人異民族嫌悪およびそれに関連した不寛容に関する特別報告者および人権高等弁務官に対して、この現象についてのレポートを次の会期に提出するように求めた(決定2006/107)。

  人権理事会は、人権委員会のもとで設置された5つの作業部会から出されたレポートを審議したが、そのうち2つの作業部会からのレポートについては「強制失踪からのあらゆる人の保護に関する条約」案(決議2006/1)と「先住民族の権利に関する宣言」案(決議2006/2)を採択し、総会に送付することを決議した。

  特定の人権問題に関しては、人権理事会は、パレスチナおよびその他のアラブ被占領地域における人権状況を討議し、次の会期でこの問題に関連する特別報告者にレポートを提出するように求めた(決定2006/106)。

  議長声明は2つ出されたが、一つは、拷問等禁止条約の選択議定書の2006年6月22日付発効を歓迎するもの(2006/PRST.1)、そしてもう一つは人質を取る行為を非難するもの(2006/PRST.2)であった。

  会期中に採択された決議と決定は、表決を取らない、理事国の総意としての採択(コンセンサス採択)が目指されたが、「先住民族の権利に関する宣言」案を採択した決議2006/2、パレスチナおよびその他のアラブ被占領地域に関する決定2006/106、そして人種的および宗教的憎悪の煽動と寛容の促進に関する決定2006/107については、人権理事会は合意に達することが出来ず、表決で採択が決まった。

  人権理事会は、特別手続調整委員会議長[2]を務めるムンタボーン特別報告者、条約履行委員会会議議長シャネー委員そして人権小委員会第57会期副議長サラマ委員を囲んで対話を試みた。特別報告者や人権条約の下で設けられた委員会がいかにして加盟国の人権状況審査に貢献できるか、人権理事会が専門的助言をいかにして確保すべきかなどについて意見が交わされた。

  人権理事会の最終日に議長が、パレスチナとその他のアラブ被占領地域の人権状況に関する特別会期召集の要請があったことを明らかにした。総会決議60/251,10項にしたがい1理事国(チュニジア)が発案し20理事国の支持があったため、7月5日に特別会期が開かれた。会期では1967年以来イスラエルに占領されているパレスチナ地域の人権状況に関する特別報告者が状況報告をした。討議の後、7月6日に「被占領パレスチナ地域における人権状況」と題する決議S-1/Res.1が賛成29,反対11,棄権5で採択された。

  採択された決議で、人権理事会は、イスラエルが被占領パレスチナ地域での軍事行動をやめ、パレスチナ自治政府の閣僚とパレスチナ立法議会議員を釈放することを求め、すべての関係勢力が、国際人道法を尊重し、民間人に対する暴力を制し、いかなる状況においても捕虜となった交戦要員および民間人をジュネーブ条約に則り処遇するように求め、さらに、「被占領パレスチナ地域における人権状況」に関する特別報告者を団長とする緊急現地調査団を派遣することを決めた。

  人権理事会第1会期は、事務総長が期待したような「過去との決別」とはならず、会議の運営は、概ね人権委員会を踏襲したものであった。とくに、特に被占領パレスチナ地域における人権状況に関しての討議とその後の決定採択に至る過程は、理事国の主張の対立が前面に現れたため、人権委員会の再現ともいえるものとなった。人権理事会は、これから1年をかけて、作業部会で、各国の人権状況の審査の進め方を検討し、特別手続や専門的助言制度、人権侵害通報制度など、人権委員会のもとで積み上げられてきたものの合理化を目指して再検討することになっており、人権理事会の実際を見てそのあり方を是非するにはもうしばらく時間が必要である。

  なお、今後の人権理事会の予定は、第2会期が、9月18日から10月6日まで3週間、第3会期が、11月27日から12月8日まで2週間、第4会期が、2007年3月12日から4月6日まで4週間と決められた(決定2006/105)。

1. 人権理事会のメンバーは47カ国で、アフリカ地域から13カ国、アジア地域から13カ国、東欧から6カ国、カリブ諸国を含む中南米から8カ国、西欧その他諸国から7カ国と地域配分が決められている。アジアからは、バーレーン、バングラデシュ、中国、インド、インドネシア、日本、ヨルダン、マレーシア、パキスタン、フィリピン、韓国、サウジアラビア、スリランカの13カ国。理事国のメンバーは3年の任期を連続2期まで務めることができるが、今回に限り、くじで任期1年、2年、3年の国を決めたが、日本は2年の任期となった。

2. 特別手続調整委員会は、人権委員会が特定の国、またはテーマの人権に対応するために設置する 特別報告者、独立専門家、作業部会などの特別手続がそれぞれの任務、作業を調整し、人権高等弁務官事務所や他の国連機関、市民社会などとの関係強化するために勧告を行う、特別手続の代表5名からなる機関。年1回開催される。

【付記】
この記事は、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)の公式ウェブサイトからの情報をまとめたものである。以下のウェブサイトファイル(英文)を参照されたい。
1. 理事会決議、決定議長声明について
2. 特別会期について
3. その他、http://www.ohchr.org/english/bodies/hrcouncil/のプレス・レリース

また、「強制失踪からのあらゆる人の保護に関する条約」案(決議2006/1)と「先住民族の権利に関する宣言」案(決議2006/2)の概要については、ヒューライツ大阪のウェブサイト、https://www.hurights.or.jp/news/0606/b15.html を見られたい。