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国際人権ひろば No.69(2006年09月発行号)
人権の潮流
「アジア・太平洋国内人権機関フォーラム」 第11回年次会合に参加して
■はじめに
私は、2006年7月31日からフィジー共和国の首都スバで開催された「アジア・太平洋国内人権機関フォーラム」(以下、APF)第11回年次会合に日本弁護士連合会の代表としてオブザーバー参加したのでその会合の概要をご紹介したい。
このAPFは、1996年に創設され、パリ原則
[1]に従ってアジア・太平洋地域に設立された独立した国内人権機関により構成され、地域の人権の監視を強化し、人権保護を進めようとするものである。現在アフガニスタン、オーストラリア、フィジー、インド、インドネシア、ヨルダン、マレーシア、モンゴル、ネパール、ニュージーランド、パレスチナ、フィリピン、カタール、韓国、スリランカ、タイ及び東ティモールの国内人権機関が参加している。そのほか、各国の政府、国際労働機関(ILO)・ユネスコ・世界保健機関(WHO)などの国連機関、国際・地域及び国内NGOがオブザーバーとして参加を認められている。
今回の会合は、フィジー人権委員会と国連人権高等弁務官事務所の共催で、8月3日まで4日間にわたって開催され、上記17の各国内人権機関のほか、オブザーバーとしてモルディブ及びサウジアラビアの国内人権機関、57のNGO、11カ国の政府、EU、太平洋諸島フォーラム及び台湾、6の国連機関が参加した。ちなみにこの会合に日本政府は参加せず、今回日本からの参加は日弁連だけであった。
■プログラム
会合の初日は、メンバーの国内人権機関による実務会議で非公開だった。プログラムによれば、APFの活動報告、活動方針、第11回会合内容及び最終声明の討議、法律家諮問評議会の報告、アジア・太平洋地域における国内人権機関の活動についての国連人権高等弁務官事務所の報告、国際調整委員会への派遣委員の選任並びにAPF加入申請などがあげられている。
二日目は、各国内人権機関、政府代表、NGOによる各国の国際人権基準の実施状況の報告と質疑がなされた。
三日目は、労働がテーマであり、ILO及び国際労働基準について概括的な説明があったあと、労働組合と使用者の協調、国際労働基準の国内法化、移民・人身売買などの項目が取り上げられた。NGOから韓国で団結の権利が保障されていないとの提起があり、韓国国家人権委員会があわてて答弁するという一幕もあった。そのあと全参加者がパシフィック・ハーバーにバスで移動し、伝統美術や芸能を鑑賞し、会食した。
四日目は、まず人権擁護者としての国内人権機関とNGOの役割がとりあげられた。特にNGOについてはその活動ゆえに迫害にあうことがあり、人権擁護者としてのNGOの擁護も重大な課題となっている。近時フィリピンで左翼活動家だけでなく報道関係者や人権活動家が殺害されていることが想起された。また教育の権利や、法律家諮問評議会の拷問、テロリズム、人身売買、死刑、子どもポルノに関する勧告について、各国内人権機関及びNGOから報告と討議がなされた。そして同日最終声明が採択
[2]され、来年の第12回年次会合はオーストラリアで開催されることが決まった。
■アジア地域人権機構としての機能
現在、欧州、アフリカ及びアメリカに地域人権機構がある一方、アジアにはまだできていない。この設立を目指して国連も努力しているが、アジアでは人種、宗教、言語、経済発展段階、政治体制などが極めて多様であり、当面地域人権機構の設立は期待できないようである。そのような中で、APFが、このアジア地域人権機構としての機能を補完しようとしている。上記のように、国際人権基準の各国での実施状況を各国の国内人権機関や政府代表が報告し、NGOも加わって討議している。国連人権高等弁務官事務所もこの機能を十分意識しながら、指導、関与しているようである。アジア・太平洋地域での地域人権条約の締結という方向性は示されていないようだが、この地域で相互の人権状況を監視し、討議し、また援助するという機能をこのAPFは果たしているのである。
日本はアジア地域において平和や人権において大きな役割を果たすことが期待されている。しかし独立した国内人権機関が設置されてないため、日本はAPFにメンバーを派遣することが出来ず、また日本政府代表はオブザーバーとしても参加していない。日本はこのアジア・太平洋地域における地域的な人権擁護活動に参加できず、地域の人権擁護活動に貢献できないという大きな問題点をかかえているのである。
■日本における政府から独立した国内人権機関の設立をめざして
日弁連がオブザーバーとして参加したのは、日本国内でパリ原則に従った政府から独立した国内人権機関の設立をめざすという観点から、国内人権機関未設置国の設置を援助するAPFにおいて有益な情報などを求めることにあった。今回未設置国の国内人権機関創設問題は、すくなくとも公開セッションでは討議されなかった。しかし、メンバーである国内人権機関がパリ原則に合致して独立性が確保されているかどうかについては、APFは相当神経を使っているようである。
今回モルディブとサウジアラビアの国内人権機関は正式なメンバーとされておらず、いずれもオブザーバー参加であった。モルディブは3年前の第8回から、サウジアラビアは昨年の第10回からオブザーバー参加している。パリ原則の要件を満たさない国内人権機関はメンバーとは認められない。APFの上部団体とでもいうべき国内人権機関国際調整委員会(ICC)は、国内人権機関認定小委員会を置いており、2006年10月再認定基準の決定を予定している。APFはこのICCの認定規準強化を歓迎し、APFの評議員会はICCの決定を受けてAPFの加入認定手続を見直すよう勧告し、この見直しが決定するまでサウジアラビアの国内人権機関の加入申請を先送りすることを決定した。またモルディブについては「パリ原則に準拠するように組織を強化していることを歓迎」すると最終声明で記述されるにとどまった。
日本の人権擁護法案による人権委員会はパリ原則が求める独立性を欠くのではないか、との懸念がかねてから指摘されている。現在採用されている、あるいは強化されようとしているAPFの基準からみてどうなのか、関心のあるところである。2002年国連人権高等弁務官特別顧問として来日したブライアン・バーデキン氏は、その直後特別顧問を辞任したが、今回の年次会合で再会することができた。同氏は、スウェーデンのルンド大学の客員教授として各国の国内人権機関のパリ原則の適合性について研究をしており、モンゴルなども独立性の確保の観点からAPFに加入するまで長期間を要したということであった。同氏の研究成果も参照しながら、存在する各国内人権機関を対照比較しつつ、日本においてあるべき国内人権機関の内容をさらに検討する必要があるだろう。
2006年2月、韓国国家人権委員会のイー・ヘハク委員、パク・チャンウン人権政策本部長が日弁連を訪問し、日本で不十分な国内人権機関ができると、アジアで悪い先例になるばかりか、現在機能している韓国国家人権委員会にも悪い影響がでかねない、と叱咤激励されたばかりである。イー・へハク委員は、賀川豊彦の影響を受け牧師として韓国で貧困層の運動にかかわり、国家保安法違反で投獄された経験の持ち主である。このように人権活動の最前線の活動経験を持つ人が、日本においても委員に選任されるような政府から独立した国内人権機関の設立を是非実現させたいものである。
1. 国内人権機関の地位に関する原則
2. 翻訳は、
https://www.hurights.or.jp/archives/institutions/11.html に掲載されている。