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国際人権ひろば No.71(2007年01月発行号)
『裁判官検察官弁護士のための国連人権マニュアル-司法運営における人権-』を読む 6
「第9章 司法の運営における社会内処遇措置の利用」について
1. 日本における社会内処遇を考えていく上で、非常に参考になる。
現行法上、社会内処遇はほとんどない。保護観察、少年法における試験観察、仮釈放、恩赦(以上、上田寛『犯罪学講義』[成文堂、2004年] 158頁)程度であろうか。日本では、社会内処遇の発想は、極めて貧困であったといえる。
しかし、過剰収容問題や性的犯罪者を中心とした釈放後の情報管理の問題など、日本においても、社会内処遇をも含めた刑事政策を真剣に考えなければならない時がきていると思われる。
本マニュアルは、刑事政策を考えていく上で、非常に参考になる。
2. 現行法上、有罪である場合、微罪処分、起訴猶予、罰金、執行猶予、保護観察付執行猶予、禁固、懲役という順に重くなると考えることができるであろう。
ここで、考えなければならないのは、「社会内処遇」に含めることができる「罰金」や「(保護観察付)執行猶予」と「施設内処遇」となる「懲役(禁固)」との間に大きな格差があるということである。「執行猶予」は制裁がないに等しい(人質司法の中で不当に長い身柄拘束を受けていることはここではおく)。語弊を恐れずに言えば、再犯に対する抑止力がその主たるものである。他方、「懲役(禁固)」という実刑は制裁として相当重い。
この中間に、社会奉仕命令などの社会内処遇を、制度として設けることを積極的に検討すべき時期にきていると考える。
3. 社会内処遇を創設した方がよいと考える理由のひとつは、自由刑における弊害を取り除くことができる点である。マニュアルも指摘するように、「仕事、勉学および家族生活を続けることもできる」のであり、「刑務所帰り」などというラベリングをも避けることができる。
また二つ目には、自由刑を科すことによっては更生が困難と思われる類型の犯罪者について、社会内処遇を適用することが考えられる。筆者が典型例として考えるのは、自己使用の薬物事犯である。彼らは、薬物の依存症である。刑務所という薬物から物理的に隔離されている環境では、薬物依存からの脱却は困難とされている。自ら薬物に手を染めることができる環境において、自己の選択として、薬物に手を出さないようになることが重要なのである。治療を受けることを条件に社会内処遇とすることなどが考えられる。マニュアルも、社会内処遇について適切と思われる対象者について、「再犯の可能性が低い者、微罪で有罪判決を受けた者および医療上、精神医療上または社会上の援助を必要とする者」と指摘する。アメリカの一部の州で行われているドラッグコートの制度などは大いに参考になる。
第三に、過剰収容対策となる。短期自由刑の弊害が指摘されて久しい。短期自由刑に相当するような犯罪者の多くを、社会内で処遇できるとなれば、過剰収容の緩和につながる。マニュアルが指摘する「刑期の一部を地域社会で過ごせるようにする措置や、収監期間を短くし、それに代えて何らかの形態の監督を行う措置」は現行制度でもできることである。仮釈放の要件を緩和したり、保護観察の内容を充実させたりすることなどが考えられる。
4. マニュアルは、条件違反者について、「社会内処遇措置が失敗しても、自動的に施設収容措置が課されるべきではない」と、重要な指摘をする。
更生への道は平坦ではないことを指摘しており、一度の失敗で全てを奪うのは、かえって更生から遠ざけるという趣旨であろう。社会内処遇制度を考えていく上で、必要不可欠な視点といえる。
5. マニュアルは、刑罰としてではなく、刑罰を科すかどうかを検討する段階において、社会内処遇を利用できることを指摘する。現行法では、少年法における「試験観察」がそれである。
これを成人についても、設けることが検討されて良い。例えば、自己使用の薬物事犯においては、治療プログラムへの参加を試みた場合には、そのプログラムへの参加態度などを考慮して、判決を出すなどということが考えられる。
6. マニュアルが、対象者の同意が必要不可欠であり、「成功のための重要な前提条件」であると指摘するのは示唆に富む。社会内処遇が更生に資するという効果を発揮するためには、本人の同意が必要不可欠であることを示している。
7. また、マニュアルが「対象者とその家族には、自分たちに関する個人情報が公にされず、かつ社会的再統合の可能性を妨げるために用いられないことを知る権利がある」と指摘するのも、現在、日本の法務省と警察庁が取り組んでいる、性的犯罪者を中心とする釈放者の情報管理について、そのあり方に警笛を鳴らすものといえよう。例えば、アメリカの一部で行われているメーガン法などは、国際人権法上、違法である疑いがある。対象者の再統合を妨げるような政策を行ってはならないのである。
マニュアルは、「社会内処遇措置の目的は、犯罪者の責任感を強化し、社会への再統合をも援助することによって、犯罪者が犯罪に逆戻りしないようにするのを援助するところにある」と指摘している。