特集・アジアと大阪の教育者が対話した「人権教育国際会議2006」 Part1
ヒューライツ大阪と「人権教育国際会議実行委員会」は2006年11月18日、大阪市内で「人権教育国際会議2006-大阪とアジアとの対話」を開催した(ゲスト、プログラムは、「当日のプログラム」参照)。全体会、分科会を通じて150名が参加した。会議の目的は、アジアの12名のゲストと大阪をはじめとする地域の教育者が人権教育の推進という同じ目標のもとに、現場からの経験を持ち寄り、成果を共有するとともに、問題点を出し合い解決に向けた方策を見出していこうというものであった。
全体会では、まず友永健三さんが、「人権教育のための国連10年」に関わる日本の取り組みを紹介し、2005年からスタートした「人権教育世界プログラム」の趣旨に沿って、本会議が学校教育における人権教育の推進に寄与する内容となるよう期待を述べた。
記念講演をするジョン・パチェさん(撮影:金井宏司)
次にジョン・パチェさんが、「人権教育の国際的課題-武力紛争後の人権教育の取り組み」と題する記念講演を行った。パチェさんは、国連システム全体の業務において人権のメインストリーム(主流)化が重視されることにより、人権教育が事業の前面に出ることになった経過を説明した。また国連のプログラムを通じて、カンボジアやイラクなど紛争が続いた、あるいは続いている地域における人権教育の経験の中で、人権教育が紛争後・紛争下の社会でいかに重要であるかを実感したという報告を行った。
記念講演を受けて、白石所長のコーディネートによるパネルディスカッションが行われた。
最初は、平沢安政さんが、日本における人権教育の発展の歴史を60年代後半の同和教育の取り組みから簡潔に整理した。取り組みの成果が、文部科学省による「人権教育の指導方法等の在り方について」〔第二次とりまとめ〕などの人権教育に関わる文書にも一定程度反映されていると評価をする一方、日本の人権教育にはグローバルな視点が弱いといった課題も指摘した。
アウラングゼーブ・レフマンさんは、パキスタンの人権教育国内行動計画の策定において全国的な取り組みがあったという報告をした。行動計画のめざすところやガイドライン、教材開発について、教育省や関係省庁のみならずNGOや地域コミュニティなどを巻き込んで事業を進めたという。また学校における人権教育カリキュラムを開発し、8,000人の教員研修も行った。
チャム・ヘン・ケンさんとクァク・スッキさんの報告は、グローバリゼーションがもたらす競争社会における教育の課題に関するもので、日本の状況との共通点が多々浮き彫りになった。
糀秀章さんが教育委員会の立場から報告を行った。いじめによる自殺という悲惨な事件が起こる中で、子どもたちの声をきちんと受け止め、この課題を克服しなければならないという決意が語られた。そして、大阪における人権教育の2つの大きな目標である「すべての児童生徒が安心して生活できる学校」「すべての児童・生徒の自己実現の支援」について具体的な内容と取り組みについて紹介があった。
午後の分科会は、「人権教育をどの科目でどう教えるか-授業・課外・地域社会での経験」「人権教育のよき教材について考える」「人権を教える側が学ぶべきこと-教員研修のあり方について」「学校と地域社会とのパートナーシップ-生きた人権教育の場を創る」の4つに分かれて、各ファシリテーターがテーマに沿ってたてた企画に基づいて、海外ゲストを含む参加者による活発な対話が行われた。
全体会・分科会ともに、アジアのゲストとの出会いも初めての参加者が多く、また国内でも異なるセクターの人たちとの間では、教育事情や背景の違いがあることから、とまどいや意見のすれ違いもみられた。とはいえ、参加者のアンケートでは、「日本の教育の課題との共通を発見した」、「普段は聞けない国際的な状況を学んだ」などと会議を積極的に評価する感想が寄せられた。
今回の「人権教育国際会議2006」の討議内容の詳細については、報告書を参照していただきたい(2007年3月完成予定)。
11月18日のメイン・プログラムの他に、17日には海外ゲストが3グループに分かれて大阪府内の学校や教育研修機関の訪問交流を行った。19日は、海外ゲストとヒューライツ大阪職員が参加して、人権教育のこれまでの取り組みの振り返りと今後のプロジェクトの可能性について会議を行った。一連のプログラムの開催にあたり、ご支援・ご協力をいただいた関係者のみなさまには深く感謝を申しあげたい。
対話を通じて築いたネットワークや情報の蓄積を財産として、会議を通して明らかになった課題やニーズについて、今後どうつなぐのか、そのプログラム作りがヒューライツ大阪の次の仕事である。
<まとめの集い>