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国際人権ひろば No.72(2007年03月発行号)
特集アジアにおける人権保障システム整備の動向 Part2
第2回アジア人権フォーラムに参加して
岡田 仁子 (おかだ きみこ) ヒューライツ大阪研究員
07年2月5日、韓国のアジア人権センター、国際NGOの国際反奴隷協会などが主催する「第2回アジア人権フォーラム」がソウルの高麗大学で開催された。第1回は06年2月に開催されている
[1]。
第2回フォーラムのテーマは「アジアにおける子どもの商業的性的搾取に取り組むための地域的人権協力」で、アジア人権センター所長ホ・マンホ慶北大学教授の開会、国際反奴隷協会のマッケード所長の歓迎の言葉で始まった。基調講演には国連人権高等弁務官事務所のホマユーン・アリザデ東南アジア地域代表が、アセアン地域人権メカニズムの設立を支援する国連人権高等弁務官事務所の役割と題して、アセアンで検討されている人権の地域的枠組みをつくろうとする取組みについて述べた。アリザデ代表は、人権高等弁務官事務所がこの取組みの進展を歓迎し、今後も域内国内人権機関や関係者を招いたワークショップ開催などにより支援を続けていくと話した
[2]。
■セックス・ツーリズムに対する取組み
パク・キョンソ韓国人権大使が司会を務めた、子ども対象のセックス・ツーリズムに関する第1セッションでは、エクパット韓国のキム・キョンエ同徳女子大学教授が「フィリピンとタイにおける韓国人によるセックス・ツーリズムについて」、オーストラリア連邦警察香港事務所のワイルドマンさんが「海外での子ども買春に対するオーストラリア政府、特に警察の取組みについて」、そしてフィリピン観光基準庁のジャスミンさんは「アセアンが域内の観光業について取り組んでいるキャンペーンについて」それぞれ報告し、日本のNGOヒューラマンライツ・ナウの伊藤和子弁護士がコメントをした。
各報告から、地域内を含めて、子どものセックス・ツーリズムの買い手の出身国と被害者の居住国は必ずしも固定的ではなく、時とともに状況に応じて変化しており、取組みもそれに対応していかなければならないことが伺えた。パク大使とキム教授は、以前は買春ツアーの被害国であった韓国から現在ではフィリピン、タイをはじめ海外に出て買春を行う人がいると述べた。また他の報告者はセックス・ツーリズムが、取り締りを強化した国から、まだ十分な取り締りが行われていない国へと目的地を変えて拡大していることを指摘した。キム教授の報告によると、韓国の経済状況が向上し、海外への旅行者の増加とともに買春に関わる韓国人も増加している。韓国の性売買禁止法によって国内の取り締りが厳しくなったことも要因としてあげられた。ワイルドマンさんは具体的な事例をもとに、海外で子どもを買春した人を国外犯として起訴するために警察が取り組むにあたり、各国当局との連携や協力が不可欠であることや、警察の取組みだけでは十分ではないと述べた。ジャスミンさんは、アセアン加盟国の観光当局が開始した啓発キャンペーンを紹介した。そのキャンペーンでは、域内国の観光地のホテルや旅行会社の啓発や、通報を受けるホットラインの設置などが行われている。また、伊藤弁護士は、日本の児童買春・児童ポルノ禁止法の制定を経緯から説明し、法律により一定の効果が見られたことを紹介した。
■サイバースペースにおける搾取
インターネット上のポルノに関する第2セッションは、シン・ヘス国連女性差別撤廃委員が司会を務めた。エクパット・インターナショナルのマドリニャンさんは、サイバースペースでの子どもの搾取について報告し、技術の進展とともに、サイバースペースを子どもの権利が守られる空間にしていかなければならないと主張した。報告によると、地域内では、子どもポルノを定義し、取り締る法規定をおいている国はまだ少なく、子どもポルノが流通する技術や子どもと接触する手段はますます発展している。マドリニャンさんは、法整備とともに業界に対する働きかけが必要であると述べ、その取組みに子どもや若者の関与が必要であることも強調した。
国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)ジェンダーと開発課のジョーンズさんは、子どもの商業的性的搾取に関するESCAPの取組みについて報告し、モンゴルのエクパット・ネットワークのオユンビレグさんがコメントした。会場からの、インターネットの規制と表現の自由との関係に関する質問に対し、マドリニャンさんは、分野や媒体によってはアルコール飲料摂取の年齢制限や、特定の映画に関する年齢制限のように民主的な手続きによる制限が認められており、インターネットについても表現の自由に反しない制限は可能であると述べた。
■子どもの商業的性的搾取に取り組む地域的枠組み
子どもの商業的性的搾取防止の地域枠組みに関する第3セッションはヴィティット・ムンタボーン・チュラロンコン大学教授が司会と報告者の両方を務めた。教授は、この問題について、子どもの権利条約をはじめとする国際的な枠組みが既にあり、96年のストックホルム、01年の横浜での子どもの商業的性的搾取に反対する会議でより詳しい内容が決められていることをあげ、今後は国際的、国内的実施が重要であると述べた。また、子どもの商業的性的搾取を子ども買春、子どもポルノ、子どもの人身売買にわけ、これまでに達成できたこと、まだ必要な措置や今後の課題などをあげた。教授は、横浜の会議で採択された東アジア・太平洋地域計画によると、域内の国に国内行動計画などを策定することになっているが、今のところ、計画をたてたのはオーストラリア、インドネシア、日本、モンゴル、ニュージーランド、フィリピンとタイだけであり、法律の策定や執行が十分ではないと指摘した。一方、ヴィティット教授はこれら国際的、地域的な課題や取組みに目を奪われて、子どもの商業的性的搾取が国内で、身の回りで起こっていることを見落としてはならないことにも注意を促した。
このセッションでは他に、韓国国家青少年委員会のヒ・ジョンヒョク委員長、台湾の柯検察官、モンゴルの子どもの問題に関する副首相顧問のジャヴザンクーさんがそれぞれの国での取組みについて話した。
■高校生、大学生の参加
06年2月に開催された第1回と同様、この第2回フォーラムも若者が多く参加していた。参加した200名以上の約半分が大学生や高校生であった。アジア人権センターのユン・ヒョン理事長によると、特に、今回は主催者が地元の高校に参加者を推薦するよう呼びかけたため、会場には高校生も含め、熱心に報告を聞きながらうなずいていたり、積極的に質問や感想を述べる若い人たちが見られた。日本からはヒューマンライツ・ナウの関係者や大学生なども参加していた。
第3セッションのヴィティット教授は本題に入る前、自分が昔被害者の支援を募るためにチャリティー・ジョギングをした経験を話し、子どもの商業的性的搾取の多数の文書を勉強することは重要であるが、まず自分が何をできるか考え、小さな行動でも自分から始めようと特に若い参加者に促した。また、閉会の挨拶に立った国際反奴隷協会のケイさんは、この場で示された関心を行動に移すよう参加者に呼びかけ、高校生、大学生などの参加者に積極的に働きかけるフォーラムとなった。
学生参加者の一部はその後引き続いて開催された2日間の若手人権活動家のためのワークショップに参加し、国際人権やアドボカシーについて議論した。第3回となるワークショップは、将来国際人権の分野に進みたい学生などにとって海外からの研究者や国際機関やNGO で活躍する人と直接話し合う機会を提供するまたとない機会となっている。
1. 朴君愛、
「アジアに人権の灯を燃やせ-ソウルで『第1回アジア人権フォーラム-アジアにおける児童労働と人身売買』開催」 国際人権ひろば第66号(2006年3月)
2. アリザデ代表の基調講演、報告について
参考:アジア人権センター(韓国語)