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国際人権ひろば No.72(2007年03月発行号)
人権教育の新潮流 Part2
遺伝子組み換え作物からESDを考える
岸上 知三 (きしがみ ともみ) ESDかいづかネットワーク; 岸和田市立産業高校定時制教諭
■「遺伝子組み換え作物からESD[1]を考える」ワークショップ
2007年2月3日?4日の2日間、大阪国際交流センターで「ワンワールドフェスティバル」が行われ、のべ12,000人余りが参加した。この1日目の3日午前に企画された「ESDを知るためのワークショップ?環境開発人権をつなぐ?」の中で「遺伝子組み換え作物からESDを考える」を担当し、遺伝子組み換え作物について私たちが少しふれることになった。これはその報告である。といっても、私は遺伝子の専門家でもなく、勉強会に参加しているわけでもない。雑誌や新聞等をこつこつ集め、自分なりにあれこれと思案しているだけである。この機会に私だけだった狭い空間が少しでも広がればと思い参加させてもらった。
DNAの発見は20世紀最大の発見とも言われ、この単語は科学の領域を越え、茶の間でも使える言葉となって広く流布している。"生命の設計図"とも考えられているDNAを人が操作することは、人間の英知のすばらしさか、それとも神への冒涜なのか。遺伝子研究に膨大な投資がなされているところを見ると、これは単に私個人の興味にとどまらず、時代の大きな潮流だろう。原子の発見がDDTやPCB、ダイオキシンと言った汚染を招いたように、DNA操作が何をもたらすのか! とにかく私は教員として"遺伝子時代"を生き抜く市民を育てねばと思ってしまった。
1996年に日本が遺伝子組み換え作物の輸入を始めた<図1>
[準備中]。その次の年から、高校の理科の授業で「遺伝子組み換え作物」をテーマに授業を試みた。今は高校2年の後半でメンデルの法則からバイオ野菜まで、3年前半で遺伝子組み換え作物の安全性やそれにまつわる環境問題・社会問題を扱っている。ワンワールドフェスティバルではその内容をポイントだけ話してみた。当日始まる前、ボランティアの方が熱心に会場作りをしてくれていてすごく嬉しかった。これまで遺伝子組み換え作物といってもこんなに熱心に協力をしてくれたことがない。当初はパラパラしかいなかった人が、ワークショップが始まるにつれ急激に増え、新たに席を用意しなければならないくらいになってうれしい悲鳴の連続だった。
■遺伝子組み換え作物の診断キットを使って実験
日本が輸入を始めた品目を下に挙げた<図2>
[準備中]。ジャガイモを除いて、今もこれらが遺伝子組み換え作物の主力である。遺伝子を組み込む目的は除草剤耐性か、害虫抵抗性である<図3・4>
[準備中]。いずれも、生産の省力化を目指すもので、消費者にとって有り難いというわけではない。それどころか、除草剤耐性は、これまでかければ枯れてしまった除草剤を直接作物にかけることが出来るようにする技術だ。そのため残留農薬が増えてしまうのだ。害虫抵抗性は虫が食べると死んでしまう毒素を遺伝子で作ったものだ。人もこの毒素を食べることになる。こんな事を大多数の消費者は望まないだろう。しかも、大企業がその利益目的のために生命をターゲットにしたのだ。この表から遺伝子組み換え作物の現実が様々に読み取れる。
ここで、ちょっとした実験をしてもらった。この実験では組み込んだ遺伝子が作るタンパク質を検出するキットを用いた
[2]。対象にしたのは、この3種類。
(1)遺伝子組み換えでない大豆
(2)遺伝子組み換え大豆
(3)スーパーで買った大豆もやし(中国産の種子から作ったとの表示)【非組換え】の表示がある。
この検査キットは、0.1%の混入率でも検出できるという。日本では、5%の混入率でも非組み換えの表示が出来るから、これは価値がある。ただし、大豆加工品では検出出来ない。大豆なら潰して水を入れたもの、もやしなら潰したときに出る液に試験紙を浸しておくと、10分くらいで検出できる。遺伝子組み換えのものは試験紙に線が2本になるが、通常のものは線が1本しかでない。今回のワークショップでは、用意した遺伝子組み換え大豆などで試験紙に2本線が表示された。
■遺伝子組み換え作物の問題点
日本が輸入を始めるに当たって、安全性のチェックをしている。と言っても、その資料は開発企業のものだから、客観性に疑問があると私は思う。まず気になる毒性であるが、これは導入遺伝子が作るタンパク質を動物に食べさせて異常がでるかというものである。この実験で、動物に異常が見つからなかった。だから毒性はないというのが政府の考えだ。
しかしそれは急性毒性を調べただけだろうという意見が強くあった。妊婦が食べても大丈夫なのか? 消化力のない人はどうなのか? 20年、30年と食べ続けても大丈夫なのか? 大豆から作る味噌・醤油は日常的に長期にわたって、様々な人が食べるので、個々の状況にあった安全性のチェックが必要なのに、あまりに簡単なチェックですましていると私は感じる。
さらに根本的なのは、遺伝子を組み込めば、その組み込んだ遺伝子が作るタンパク質が単に増えるだけだろうか? これに答えるような実験報告がイギリスでなされている。遺伝子が作る毒素タンパクをジャガイモに注入した餌では異常が起こらなかったが、遺伝子組み換えジャガイモそのものを食べさせたラットには異常が起きたのだ。これは遺伝子を組み込めば、単純な足し算になるのではなく、作物全体が変化してしまうという遺伝子組み換え技術そのものの問題に関わる問題である。遺伝子組み換え作物にはこれまで人間が経験したことのないタンパク質が含まれるのでアレルギーが出るのではという心配があった。事実、スターリンクと呼ばれる遺伝子組み換えトウモロコシが栽培されなくなった一つの原因は、アレルギーを起こすからだと思っている。ところがその安全性のチェックは、従来から分かっているアレルゲンと比較してその化学構造が似ていないから大丈夫だろうというものであった。ところが大部分のアレルゲンは特定されておらず、ごく少数のアレルゲンと比較して安全だとしてもあまり意味がないと考えられる。
日本政府は様々な問題があるにもかかわらず、'実質的同等'概念を持ち込んだ。つまり遺伝子組み換え作物もそうでないものも同等に扱おうというもので、遺伝子組み換え食品に表示が必要ないとされた<図5>
[準備中]。これには多くに消費者が反対し、不十分ながらも表示が義務づけられた。遺伝子組み換え食品がすばらしいものなら、進んで表示をするはずだが...と消費者は見抜いていた。
今では完全に遺伝子組み換えでない食品を手に入れることは大変難しくなっている。例えば、遺伝子組み換えの花粉が飛散して、遺伝子組み換えでないナタネ種子圃場を汚染している<図6>
[準備中]。カナダでは非遺伝子組み換えのナタネを保証できないとして、種子圃場をニュージーランドに移してしまうということも起きている。更にこの汚染は日本にも広がっている<図7>
[準備中]。日本では栽培していないはずの遺伝子組み換えナタネが自生している事が分かったのだ。前に紹介した遺伝子組み換え検査キットは、野外で遺伝子組み換えナタネなどが自生していないか調査するものだ。以前、遺伝子組み換えメダカ回収という記事があった。クラゲの発光遺伝子を組み込んで発光させるようにしたメダカである。記事では回収指示とあり、回収終了とはなかった。突然野生の魚が光り出したというのはもはやジョークではない時代になっている。
■遺伝子汚染とシュマイザー裁判
この遺伝子汚染に絡んでとんでもない事件が起きている。カナダの農家シュマイザーさんが突然訴えられた
[3]。シュマイザーさんの畑に遺伝子組み換えナタネが作られていて、これはモンサント社の特許を侵害したというのだ。シュマイザーさんからすれば、勝手に遺伝子組み換えナタネにされたのだから、被害者は自分だということになる。ところが、裁判では径路はどうであれ、遺伝子組み換えナタネを栽培していることはモンサント社への特許侵害になるとされた。巨大企業が遺伝子組み換え特許を盾に種子農業支配を進めているとしか私には思えない<図8>
[準備中]。
さらにもっと驚くべき記事を目にた。ワンワールドフェスティバルも迫った1月29日の毎日新聞に「インドの綿花ベルトで6年間で10万人もの自殺者が出ている」という記事が紹介された。記事では、農民たちの自殺の原因はハイブリッド種子の購入代に法外な利息がつき、その借金が原因とあった。農民たちは遺伝子組み換え種子導入反対という運動をしている事も載っていた。確かめると、これはハイブリット種子でなく、遺伝子組み換え種子購入で自殺者が出ているということだった。遺伝子組み換え技術の正体がますます明らかになってきているように思える。
この原稿を書いているとき、ある人から、空き地でナタネがきれいに咲いているということを聞いた。今年は温暖化で早くなっているのだ。遺伝子組み換えナタネの調査も早くしなければ。目には見えないけど遺伝子汚染の調査はしなければ...。しかし、無邪気に咲くナタネを採って、「遺伝子組み換えナタネでは」と調べる事にも躊躇がある。遺伝子組み換えとはそんな悲しみも背負うことなのである。
1. ESDとは、Education for Sustainable Development(持続可能な開発のための教育)の略。2005年1月から2014年末までの10年間は、「国連持続可能な開発のための教育の10年」(DESD)とされている。
2. 今回使用した遺伝子組み換え作物検査キットは、
種子ネットのホームページから入手できる。
3. シュマイザー裁判に関して。また「ジェネティックマトリックス」というDVDがあります。これはシュマイザーさんだけではなく、世界中の人たちの意見が聞けます。検査キット・自生調査に関してはインターネットで「種子ネット」と入力して検索してみてください。興味のある方にご案内します。