MENU

ヒューライツ大阪は
国際人権情報の
交流ハブをめざします

  1. TOP
  2. 資料館
  3. 国際人権ひろば
  4. 国際人権ひろば No.75(2007年09月発行号)
  5. 米軍基地の街で働く女性たちを支えるNGOトゥレバンを訪ねて

国際人権ひろば サイト内検索

 

Powered by Google


国際人権ひろば Archives


国際人権ひろば No.75(2007年09月発行号)

特集 移住女性の人権を考えた韓国スタディツアー Part3

米軍基地の街で働く女性たちを支えるNGOトゥレバンを訪ねて

山本 知恵 (やまもと ちえ) 京都YWCA総幹事

■基地村[1]


  ソウル市北部に隣接したウィジョンブ(議政府)市にあるNGOトゥレバン[2]の事務所を訪問したのは、滞在中で最も暑い午後の日だった。
  トゥレバンは、同市内のキャンプ・スタンレー周辺や近隣都市の基地村にあるナイトクラブをはじめとする「性産業」で働く女性たちを支援する活動を1986年以来続けている。事務所は、細い道を隔ててキャンプ・スタンレーの外壁から正面の小さな建物のなかにある。韓国における「米軍基地のプレゼンス」の強弱とともにその活動対象、形態は変化しつつも、常に「そこで生きる女性たち」が自分を取り戻す場所として活動を展開してきたようだ。
 

■移住女性をとりまく問題


  私たちは、スタッフのパク・スミさんに話をうかがった。90年代までは、韓国人女性が主なクライアントだったが、それ以降は外国人女性が増え始めたという。ウィジョンブ市よりもさらに北部のトンドゥチョン(東豆川)市の基地村から相談に訪れるフィリピン人、ロシア人などの移住女性が90%を占めるという。
  彼女たちは、低賃金など劣悪な雇用条件、マネージャーから徴収される多額の手数料、パスポートの取り上げ(預かり)、不安定な在留資格といった問題に直面しており、多くの相談がトゥレバンに持ち込まれている。
  「どこかで聞いたことのある話」、と錯覚をおこしそうになったくらい、日本で働くフィリピンなどからの女性エンターテイナーと同じような状況だった。渡航前に借金をしてきた女性たちは、売春に追い込まれることもあるようだ。また、劣悪な労働環境から逃れるために、米軍人のパートナーとして結婚・同居を始める移住女性も多いが、短期間のうちに異動してしまう米軍人と安定した生活が送れることは稀だという。また、米軍人のパートナーとなった女性からのDV被害による相談が増加している。

トゥレバンの近くにあるシャッターの閉まったナイトクラブ
トゥレバンの近くにあるシャッターの閉まったナイトクラブ

■基地依存と自立との挟間


  ウィジョンブの基地村は数年前までは「栄えて」いたものの、在韓米軍基地の統廃合のプロセスのなかで、キャンプ・スタンレーの閉鎖が決まり、ソウル市からさらに南のピョンテク(平澤)市への基地集約が決定していることもあり、現在は7~8軒のナイトクラブが営業しているにすぎなくなった。周囲を歩いてみると、長らく鍵の閉ざされた店が目立った。
  トゥレバンでは、労働相談や生活相談、法律相談、医療相談とクリニック事業などを実施し、アートワーク(セラピー)や、コンピューター技術習得のクラスも設けている。また、出版活動や国内外の他団体との連携も交流も積極的に行っている。
  もちろん困難な課題も多い。まず、トゥレバン自身の運営・財政面の課題である。所長と3人の有給スタッフ、ボランティアが事業に関わっているが、基地村の「移住女性」も対象としていることから、韓国の他のNGOに比べて政府の支援対象にならないことが多い。
  それでも、07年から国家人権委員会の委託を受けて実態調査を始めることができたという。その調査も踏まえた上でもう一つ、トゥレバンのミッションである「基地村の移住女性の課題を一般市民社会に広く知らせること」に力を入れることが優先課題として浮かびあがってきた。それは、性産業で働く女性たちに対する偏見、あるいは米兵とのあいだに生れた子どもへの差別や社会的排除といった、韓国のマジョリティ市民の意識改革が重要だということだ。加えて、アジア地域全体で「米軍基地の再編」が進む今日、基地の暴力性を克服するために、米軍を撤収させる政策を求める一方、基地に依存して生活している女性たちを含む住民の今後の自立や生活保障の問題などの政策の必要性をパクさんは説明した。トゥレバンは、基地村の女性たちが直面する現実を個々人の問題だけにとどめることなく、家族や社会の問題として捉え、子どもも含めた支援のあり方を模索しているという。
  また、基地村の移住女性たちの問題は、アメリカ主導の世界的な軍事主義の下で韓国政府に課せられた問題であり、NGOは国内外の市民社会に向けて実態を伝えて、解決策を求めながら社会問題化していくという役割を担っているのではないかという。
 

■韓国女性による市民運動の力に触発された旅


  今回のツアーでは、移住女性当事者との直接の出会いや生の声を聞くといったことができなかったのは残念だったが、移住女性たちと共に生きる社会を創るために奔走しているパワフルな韓国の女性たちと出会い、エネルギーを感じた。
  日本と比べて、韓国市民運動の対応のスピーディーさも実感した。誰かの単なる「支援者」としてではなく、同じ時代に生きる者として、よりよき社会へと変革するスタンスに共感したとともに、そもそも市民社会は自分たちが形づくるものであり、政府・行政の施策を常にモニターしながら、ものを言っていくべきであるという姿勢の大切さをあらためて実感した旅であった。

1. 駐韓米軍基地周辺のコミュニティ。
2. トゥレとは韓国語で、「農作業の助け合いの集まり」という意味。英語名称は、My Sister's Place 。

<編集注>トゥレバンの活動については、ドキュメンタリー映画「わたしとフクロウ」(制作:トゥレバン、監督:パク・キョンテ、2004年)を鑑賞されたい。日本語の字幕版もあります。詳細は、「連連影展」まで。