特集 移住女性の人権を考えた韓国スタディツアー Part4
私たち一行にお会い下さり、ていねいに説明してくださったのは、常任委員の一人であるチョン・カンジャ(鄭康子)さんほか3名の職員の方々です。最初に、国家人権委員会(以下、人権委)が、啓発活動の一環として一般からアイデアを募集して製作したアニメを見せていただきました。家事労働と育児の負担が女性だけに負わされる一方、男性は手伝いもせずにリラックスしている若い夫婦の家庭の様子が淡々と描かれたものでした。私にとって目新しさはなかったのですが、何人かの男性参加者には自己反省を迫られる契機になったようです。(喜ぶべきでしょうか?)
チョンさんは、政府から独立した機関としての人権委の設立を求める市民運動に関わっていた方です。法務部(省)の傘下に設置しようとした政府に対して、ハンガー・ストライキを含む粘り強い運動が3年に及んで展開されたそうです。チョンさんは、とても穏やかな話し方の中にも人権に対するコミットメントを感じさせる素敵な女性です。チョンさんによれば、「人権委は設立以来6年間、パリ原則(国内人権機関に関する国際基準を定めたもので、その内とりわけ重要なのは、政府からの独立性)に合うように努力してきた。今、ようやく幼年期を脱して青年期に移行する時期にある」とのこと。実際、国会に提出された各種法案を人権の視点から批判的に検討して意見表明する、女性差別的な戸主制度の廃止を勧告する、教育現場における子どもの人権侵害を止めさせる、刑務所や拘置所の被拘禁者の処遇を改善させるといった成果を上げてきたそうです。
人権委は、「人間が人間らしく暮らせる世の中の実現」をスローガンに、社会的弱者と少数者の人権保護の強化を目標の一つに位置づけ、移住労働や結婚移住(日本で「国際結婚」と呼ぶもの)を原因として韓国社会で暮らす外国人の人権の保護・促進を重点課題の一つにしています。これって、すごくありませんか? 日本ではいわゆる国民と日本国籍を持たない人々の人権状況に大きな格差がありながら、政府が外国籍住民の人権の実現に責任を感じている様子はまったくないのですから。それどころか、移住者は選別、監視と管理の対象であり、治安悪化の原因、犯罪予備軍とさえみなされているのです。
私人間の人権侵害については、差別問題に限定して扱うことになっており、DVなど、他種の人権侵害は別の制度によって対応するということでした。設立後の5年間で約24,000件の申立てを受付けてきており、その約80パーセントが国家機関による人権侵害であり、私人間の差別事案は13パーセントに過ぎません。その不均衡の理由は、韓国の歴史と社会状況にある、つまり公権力による人権侵害が圧倒的に多かったし、今も多いという説明でした。ただし近年、生存権に関する平等に市民の目が向けられるようになったとのことで、差別に対する苦情申立ての比率は増加しているようです。
国家人権委員会で質疑応答。(一番右がチョン・カンジャ常任委員)
チョンさんだけではなく、プレゼンテーションをしてくださった若い職員の方々にも、人権の実現に対する熱意が感じられました。韓国は、世界各国およびアジア・太平洋地域諸国の国内人権機関の会合においても積極的にイニシアチブを発揮してきたとのこと。チョンさんは、日本にもできるだけ早く国内人権機関が設置されること、日韓の人権委員会が協力して活動できるようになることを願っていることを強調されました。韓国の市民社会が、このように独立性を確保し、優れた機能を果たす人権委員会を自力で闘い取ったことを思えば、「日本にもできることはできたけれど、政府の主張どおり法務省の下に設置されてしまいました」とは言いにくいですよね。私たち自身の課題を再認識すると同時に、隣国や周辺国の市民に対する責任の重さを実感しました。NGOなど、他の訪問先でも韓国の女性たちの先進性、エネルギー、行動力などに大きな刺激をうけた旅でした。
韓国の国家人権委員会とは? |
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人権に関する宣言や条約をつくってきた国連が、その実現を図るために、各国内に人権機関を設立することを奨励してきたことに応えて2001年11月に設立されたもの。現在、11名(委員長のほかに常任委員3名、非常任委員7名。男女比は、7対4)で構成され、200人を超える職員を擁し、ソウルの本部のほかに3つの地域事務所も持つといった規模で運営されています。世界各地の国内人権機関の中でも大規模なものです。 主な機能は、(1)政策提言機能 - 人権に関連のある法案、法令、制度、慣行についての調査・研究および改善勧告・意見表明、(2)準司法的機関としての救済機能 - 国家による人権侵害および私人間の差別に対する調査と救済、(3)教育・啓発機能 - 人権状況の実態調査と人権教育・啓発。その他、国内の人権関連団体(NGO)、国際機関、外国の人権機関との交流と協力。 |