特集 グローバル化のなかの「ビジネスと人権」最前線
国連ビジネスと人権フォーラムに参加し、改めて「指導原則」が果たす役割の大きさを実感した。フォーラムには、企業の事業活動によって人権を侵害されていると訴える市民社会と、人権を侵害している可能性のある企業が参加していた。市民社会側は人権への影響を訴え、企業側は経営への影響を考える。それぞれの視点が交わることが難しい中で、各セッションでは双方がパネリストとして登壇して対話をしており、その共通言語が「指導原則」であることを肌で感じることができた。
このことがよく表れていたセッションが、サプライチェーン上の強制労働や人身取引の問題に対する企業の取り組みのランキングの活用をテーマにしたものだった。このランキングは、Know The Chainという米国の非営利組織や企業のネットワークが、強制労働や人身取引に対する企業の方針や実践を評価する基準を「指導原則」に沿って策定し、ICT・アパレル・食料飲料セクターのトップ企業を順位づけしたものだ。 このセッションに企業側から登壇したのが、食料飲料セクターのランキングで3位となったネスレ社だった。同社はこうしたランキングをベンチマークとして活用して、自社でできていること、できていないことのギャップ分析を行い、アクションプランをつくるためのツールにしていると話した。
Know The Chainがめざすのは、取り組みができていない企業の名前をあげつらねることではなく、進んでいる企業の好事例を広めていくことである。企業の評価基準が「指導原則」に沿っていることで、NGO側の期待することが伝わりやすく、企業側も結果を活用しやすい。対立構造で語られやすい企業とNGOの関係をつなぐのが「指導原則」であり、NGOが「指導原則」をうまく活用することで、企業との対話が進むことが確認できたセッションだった。
ガバナンスが弱く、人権を保護する義務が守られていない国・地域では、操業する企業の影響力行使への期待が大きいが、さまざまな人権課題に企業1社で対応できることは限られている。業界全体での取り組みや、政府、NGO、労働組合など、セクターを超えた大きな動きとして「共同行動(Collective Action)」が必要であることが、フォーラムのいろいろな場面で強調されていた。企業とNGOを含むマルチセクターでの対話がさらに進むよう、その一端を担っていきたい。