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国際人権ひろば No.137(2018年01月発行号)

アジア・太平洋の窓

インドにおける「ガオコル」-女性の命を脅かす慣習

ディリプ・バールサーガレー(Dilip Barsagade)
ピュール・アンベートカル大学教員、SPARSH(農村におけるサービスと健康のためのアクション協会)代表

 ガオコルという慣習

 インド西部マハーラーシュトラ州のガドチローリー市から7キロも離れていない村のはずれの荒れ果てた小屋に、その少女は4日間閉じ込められていた。その間、彼女は村の中に入れなかった。自分の家族も、村の誰も、彼女に触れてはならなかった。厳しい寒さにもかかわらず、14歳の少女は、扉もない、崩れかけた小屋で、ぼろぼろのマットと布団だけで過ごしていた。

 彼女はなぜこのような目にあったのか。どのような罪で村から追放される羽目になったのだろうか。

 少女にとっては月経の時期だったのである。マリア、ゴンダなどの諸部族の習慣では、月経期間、女性に触れることは不浄であるとみなされ、女性は村の境界にある小屋で過ごさなければならないのである。この小屋は「ガオコル」と呼ばれている。

 月経は自然の法則である。12歳ごろの女性に始まり、45歳から55歳ごろの閉経までつづく。生殖の一環で毎月起こる月経は、女性にとって困難な時期である。大量の出血が疲労につながるので、女性、特に少女には配慮が必要である。女性は精神的および身体的支援を必要とする。にもかかわらず、この時期にガオコルに閉じ込められるということは、部族の女性・少女にとっては大変な苦境を強いることになる。多数の女性たちがこの命を危険にさらしかねない状況を強いられている。

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外からみたガオコル

 ガオコルの実情と政府の「施策」

 農村の人々の健康問題などに取り組むNGOであるSPARSH(農村におけるサービスと健康のためのアクション協会)は、バフール部族の5つの村における調査を行い、225のガオコルを確認した。これらのガオコルは悲惨な状態であった。明かりのための窓がひとつしかなく、扉がない。ほとんどのガオコルは村のはずれにあり、深い森の近くにあることが多かった。周辺は驚くほど不潔である。最も基本的な必需品として、飲料水のための小さな容器と、バナナの葉で囲った仮設の浴室と、寝るために、あったとしても薄いシーツのかかった壊れたベッドがあるだけである。

 ガオコルはコミュニティが所有しているので、コミュニティが維持することになっている。しかし、部族にも都市化の影響がゆっくりと及んでいるために、大半のガオコルは廃れた状態のまま放置されており、コミュニティが整備をしているガオコルはわずかしかない。ラーンブーミ近郊のいくつかのガオコルの状態は悲惨である。都市近郊の村のガオコルの状態がこのようであれば、遠隔地の村のガオコルの状態はさらにみすぼらしい。

 ガドチローリー市の行政官が、ガオコルの状態に留意し、100件のガオコルの改善を行ったことがある。その際、ガドチローリー総合部族開発計画を通じて、何十万ルピーというお金が投じられた。皿、椀、水の容器、マット、戸棚などが、これらのガオコルのために供給された。しかし、いつものように、許認可、調整、納入確認などの欠如のために、この計画に使われた資金は無駄になったのである。この計画の下で購入された物品が、行政官や部族開発局の事務所に置かれているのが目撃された。一方、SPARSHの調査では、ほとんどのガオコルでこれらの物品を目にすることができなかった。これらのことから、この計画がどのように実施されたかは明らかである。計画は失敗に終わったのだ。

 私たちは、ガオコルの設備を改善するという考え方が間違っていると考える。月経中、少女や女性は家族からの支援が必要である。彼女たちの健康に配慮することが重要である。そのような考え方になるよう、コミュニティ中で意識啓発する制度が必要である。ガオコルを改善することはこの冷酷な慣習を強化することにつながる。ガオコルの整備は変化に向けた第一歩になるかもしれないが、人々の考え方を変える制度がなければ、改善は資金の無駄になるだけである。

 コミュニティに蔓延するガオコルを温存する意識

 2015年、モンスーンの時期にバームラガード地区で少女が出血多量により命を失った。村の外にあったガオコルでは、彼女は何の医療措置も受けることができなかったのだ。ガオコルにいることは、女性の健康にとって危険であるだけでなく、身の安全も危険にさらされる。2016年には少女が野生動物によって連れ去られるという事態が起きた。酔っ払いがガオコルに住む少女や女性に嫌がらせをする事件も増えている。

 人口の多い村では、女性は月経の時期が重なる女性と一緒に過ごすことができる。かつては高齢の女性がガオコルにいる女性と共に過ごしていた。しかし現在、ほとんどの村にそのような高齢女性がいないのである。

 「わたしたちはこの期間、村のどの道を通ることも一切禁じられています。母親とアルコール依存症の兄弟がいます。食物が時間通り私に届かないことが多いのですが、空腹でも村に戻ることはできません。月経は自然の法則です。これは私の運命です。これに関しては私の教育は全く役に立ちません」。マンネラージャーラーム・プライマリー・ヘルスケア・センターに来た、高校を卒業したばかりの女性が嘆いた。話しながら、彼女は状況を変えるために何もできないことに失望し涙ぐんだ。

 チャンダリー・トーリー地区の部族青年グループのリーダーは、「入浴した後で、月経中の女性を見ただけで不吉だ」と語った。

 「この長く続いてきた慣習を守ることが私たちの義務だ」、と近隣の村の自治組織パンチャーヤトの次長が言った。都市に住む部族の女性は月経時にガオコルには行かないと知らされると、彼は「そのような人がいるから、私たちの文化が破壊されるのだ」と述べた。

 家にいる場合、女性は月経中でもじっとしてはいない。彼女は何かしら仕事をするだろう。ガオコルは女性が休まざるを得ないようにするためにつくられたという人もいる。しかし、ものがなく、扉のない、孤立した小屋で、女性にどのようにして休めというのだろう。このコミュニティには、女性が触れると、道具、衣服や他のものが「不浄」になるので、女性は家の外にいるのが一番だと信じ込んでいる人がいる。しかし、その人たちも、女性に道も歩いてはいけないということの具体的な理由をあげることはできない。

 部族には、都市社会が及ばないほど豊かな文化がある。部族の文化には素晴らしい習慣や伝統がある。しかし、ガオコルの慣習は部族の文化の汚点である。誇り高い部族には、ガオコルが引き起こす危害について学ぶ必要がある。このために取り組んでいる部族の人がいることは喜ばしい。

 国家人権委員会への働きかけ

 2013年、SPARSHはインド国家人権委員会に対して、この問題に注目し、関係当局に必要な指示を行うよう働きかけた。人権委員会はマハーラーシュトラ州首席事務官にこの問題を調査するための委員会を設置するよう指示した。部族開発局の次席事務官は2015年2月、地区行政官を長とする委員会が設置されたと人権委員会に報告した。報告は委員会の構成メンバーにも言及していた。しかし、この委員会が紙の上でしか存在せず、実在していないことをSPARSHがつきとめ、人権委員会に通報したのである。

 人権委員会はそれを受けて、マハーラーシュトラ州首席事務官に再度「問題を調査し、関係する公務員に、地域の女性の尊厳と人権の重大な侵害について啓発する」ことを指示した。委員会はまた、部族開発局の次官に対して、2017年12月20日に委員会に出頭し、必要な情報と書類を提出するよう要請した。

 何度かの宇宙飛行を成功させて科学の分野に消すことのできない足跡を残したインド系の宇宙飛行士、スニタ・ウィリアムズがいる一方、インドには重大で非科学的なガオコルの慣習によって命が脅かされる状況下で暮らさなければならない多数の部族女性がいる。

 今日に至るまで、政府もいかなる社会福祉団体も、女性の自由と健康的な生活を奪い、女性を不可触にする、ガオコルの問題を取り上げてこなかった。行政は、性教育を支援する一方で、ガオコルの問題には目を閉じてきた。この瞬間にも、何百ものガオコルで女性と少女が不可触の生活を強いられている。重要な問題は、私たちはガオコルの問題から目を覚ますのであろうか、ということである。

 

(翻訳・岡田仁子)