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「Because it’s 2018.」、これは、4月にカナダで開催された「W7: Feminist Visions for G7」で繰り返し使われた表現です。「Because it’s 2018.」は、元々、「Because it’s 2015.」として知られるようになった言葉でした。
「Because it’s 2015.(2015年だから)」は、カナダのトルドー首相が2015年に首相に就任した際に、閣僚を男女同数にした理由を報道陣に質問された時の答えです。トルドー首相は、自らを「フェミニスト首相」と称するなど、ジェンダー平等への並々ならぬ意欲で知られています。2018年6月上旬にカナダ・ケベック州のシャルルボワで開催されるG7では、G7のすべての議題にジェンダー平等の課題を反映させることを表明しました。
そのための首相直属の委員会としてトルドー首相はジェンダー平等諮問委員会(Gender Equality Advisory Council)を設置しました。ジェンダー平等諮問委員会は21名の専門家から構成されており、日本からは国連女性差別撤廃委員の林陽子さんが参加しています。他には、ノーベル平和賞を受賞したマララ・ユスフザイさん(パキスタン)、UN Women事務局長のプムズィレ・ムランボ=ヌクカさん(南アフリカ)、「女性に対する暴力」防止への男性の参加を呼びかけるホワイトリボンキャンペーンの主宰者であるマイケル・カウフマンさん(カナダ)たちがいます。
W7(Women 7)は、近年、G7やG20にあわせて、エンゲージメント(関与)グループと呼ばれる様々なグループが開催する会議の女性版です。W7(女性)の他に、C7(市民社会)やC20、Y7(若者)、L20(労働組合)、B20(ビジネス)等があります。
今回のW7の目的は、トルドー首相の「意欲」と「熱意」を追い風に、首相、そしてジェンダー平等諮問委員会に対し、女性の現実を反映した具体的な提言をおこなうことでした。① 交差性・複合性とジェンダー、② 経済的エンパワメント、③ 女性と平和・安全保障、④ 気候変動、⑤ 性と生殖に関する健康と権利、⑥ 女性に対する暴力、⑦ 女性運動・フェミニスト運動の7つの分科会に分かれて議論がおこなわれ、2日間の議論を経て提言(コミュニケ)をまとめました。
1日目には、トルドー首相を招いて意見交換会がおこなわれ、7つの分科会それぞれが90秒で自分たちの関心と提言を発表しました。グアテマラから参加した先住民の女性は、「先住民が暮らす地域は、鉱物資源の採掘をおこなう多国籍企業の操業によって、環境破壊と人権侵害を被っている。そのなかでも女性への影響は甚大である。それらの企業の多くはカナダに本社がある」と訴えました。また、経済分科会は、現在の世界に蔓延する格差、不平等、不公平は女性により重くのしかかっており、それを解決するためにはケアワークの再分配とあわせ、持続的で公正な新たな経済システムや貿易協定が必要であると強調しました。
7分科会からの提言に応えて、首相は「ジェンダー平等の推進に対しては根強い抵抗がある。同性婚の問題を考えても社会の方が政治家や行政組織よりもずっと意識が進んでいる」と語り、「物事を前進させるためにあなたたち(W7参加者)の情熱が必要だ」と訴えました。あわせて、ジェンダー平等の実現には交差制・複合性差別の視点が欠かせないことを強調しました。
会議のスローガンは、「The future is feminist.(未来はフェミニスト)」でした。フェミニストは、決して女性の権利だけを考える人たちではありません。米国の女性学研究者であるベル・フックスは、フェミニズムを、「性差別をなくし、性差別的な搾取や抑圧をなくす運動」と定義しています。この定義を考えるならば、フェミニストは、女性、男性、さらには二分類の性別ではくくれない様々な人の「性」に基づく問題に取り組む存在ということになります。
ジェンダーの視点が、女性の生活を変えるだけではないことも明らかでしょう。「ケアへの権利」は、ワークライフバランス、ディーセントワークと深く関連しています。少子高齢化の問題にとっても重要であることは言うまでもありません。また、「女性に対する暴力」への認識の拡がりは、男性に対する性的暴力の実態を明らかにすることにも貢献しました。
「未来はフェミニスト」、これが、性別で人を縛らない、自由で平和で豊かな社会に向けた変革のキーワードになり、そして、日本が「2018年なのに」から「2018年だから」と言える社会になることを願います。
参考:コミュニケは以下のW7のウェブサイトからダウンロードできる。http://w7canada.ca