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国際人権ひろば No.145(2019年05月発行号)

特集 子どもの権利条約からみる日本の子どものいま

国連・子どもの権利委員会による日本の第4回・第5回報告書審査と総括所見

平野 裕二(ひらの ゆうじ)
子どもの権利条約NGOレポート連絡会議

 2019年1月16~17日にかけて、国連・子どもの権利委員会による日本の第4回・第5回統合定期報告書の審査がジュネーブで行われ、2月1日には審査を踏まえた総括所見が採択された(2月7日公表)。以下、これまでの経緯を簡単に振り返ったうえで、審査と所見のポイントを報告する。

 今回の審査に至る経緯

 日本政府が2017年6月末に提出した第4回・第5回報告書を受けて、委員会は本審査に先立ち2018年2月に事前質問事項を作成し日本政府に送付していた 注1。筆者がコーディネーターを務める子どもの権利条約NGOレポート連絡会議(連絡会議)は、事前質問事項作成のための予備審査を行う会期前作業部会(2018年2月)に参加して委員会に情報を提供するとともに、日本弁護士連合会(日弁連)をはじめとする他のレポート提出団体とも協力しながら、文書回答の作成と本審査に関する政府の対応について主要関係省庁(外務省・内閣府・厚労省・文科省・法務省等)と意見交換を行うなどの取り組みを進めた。

 事前質問事項に対する政府の文書回答は「可能であれば2018年10月15日までに」提出するよう要請されていたが、実際に提出されたのは11月中旬以降と思われる(国連人権高等弁務官事務所のサイトで11月27日に英語版が公表された後、外務省のサイトで12月17日に日本語版が公表された)。残念ながら、政府の文書回答は委員会の質問に的確に答えているとは言いがたい点が多い。たとえば、現行法でさまざまな差別が実効的に禁止されているかのように説明していること、親権者等による体罰が法律で明示的に禁止されているか否かを明確に答えていないことなどである。

 連絡会議では、NGOによる追加情報の提出期限(12月15日)には間に合わなかったものの、政府の文書回答の問題点を指摘し、会期前作業部会以降に生じた新たな問題等も盛りこんだ詳細なレポートをあらためて作成し、本審査に向けて委員会に提出した。

 本審査(2019年1月16~17日)の概要

 日本の報告書の本審査がジュネーブで開催されたのは、2019年1月16日午後(午後3時~6時)から17日午前(午前10時~午後1時、いずれも現地時間)にかけてのことである。日本政府は、大鷹正人・国連担当大使を団長とし、主要関係省庁の代表から構成される28名(同時通訳者2名を含む)の代表団を派遣した。NGOの傍聴者も多数にのぼり、おそらく70名近くはいたと思われる。審査の様子は、国連の公式中継サイトで生中継され、審査が終わると速やかにアーカイブ動画として公開された。

 委員会は18名の委員から構成されているが、最近は国別に主要な担当者を指名する「タスクフォース」方式がとられることが多くなっている。日本の審査では、サントベルク委員(ノルウェー)、ハゾバ委員(ロシア)、スケルトン委員(南アフリカ)、ロドリゲス-レイェス委員(ベネズエラ)の4名がタスクフォースを構成し、主として質問を行った。

 審査では多岐にわたる問題が取り上げられたが、タスクフォースのコーディネーター(筆頭担当者)を務めたサントベルク委員が最後に強調したのは(1)体罰、(2)差別の禁止、(3)個別事案・政策立案の双方における子どもの意見の尊重、(4)少年司法、(5)代替的養護(家庭環境を奪われた子ども)の5つである。審査後に出された総括所見も、これらの問題にとくに焦点を当てる形で作成されている。

 なお、委員から出された質問に対する政府代表団の回答は、できるかぎり遺漏なく質問に答えようとする姿勢こそうかがえたものの、基本的には現在の法制度や政府がとっている対応等を説明するにとどまり、委員会との対話を子どもの権利保障改善のための機会にしようという積極的・建設的精神は依然としてみられなかった。

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パレ・ウィルソン(ジュネーブ)で開催された日本の報告書審査の様子。
中央が大鷹正人・国連担当大使(国連の中継動画より)

 総括所見の全般的特徴 注2

 本審査を踏まえた委員会の総括所見は会期末の2月1日に採択され、2月7日に先行未編集版(advanced unedited version)として、3月5日に編集を経た正式な国連文書として、公表された。全15ページ(A4版)・54パラグラフからなる文書である。先行未編集版の公表にあたっては委員会による記者会見も行われ、とくに体罰の禁止や虐待対策の強化などが勧告されたこと(パラ24-26)は日本でも広く報じられた。

 委員会は近年、とくに緊急の措置が必要とされる分野を所見の冒頭で最大6つ挙げ、それ以外の分野については具体的な問題点の指摘(懸念の表明)を基本的に省略して勧告のみ記載するのを慣例としている。今回そのような優先対応分野に挙げられたのは、サントベルク委員が審査の最後に述べたものにリプロダクティブヘルス・精神保健を加えた6分野である(パラ4)。

 今回の所見の特徴としては次のような点を挙げることができる。

  • これまで指摘されてきた問題のほとんどが引き続き取り上げられていること。
  • 持続可能な開発目標(SDGs)との関連が全体を通じて強調されていること。
  • 4つの一般原則(差別の禁止/子どもの最善の利益/生命・生存・発達に対する権利/子どもの意見の尊重)および家庭環境・代替的養護の分野などについてこれまでよりもやや踏みこんだ勧告が行われていること。
  • 子どもの生命・発達・健康に関わる勧告が全体としてこれまでより詳細になっており、これに関わって福島原発事故の影響や気候変動への対応など新たな問題も取り上げられていること。
  • 一方で、東日本大震災の影響、子どもの人権侵害に相当する校則などの問題についてははっきりと触れられておらず、また日本の状況を十分に理解していないと思われる点も散見されること。

 個別の論点に踏みこんで検討するだけの紙幅がないが、条約実施全体に関わる「実施に関する一般的措置」と「一般原則」に関わる一連の勧告を見れば、日本では条約上の権利を効果的に保障していくための条件が依然として整えられていないことがわかる。「子どもの権利に関する包括的な法律」の制定を含む立法措置(パラ7)と子どもの権利を効果的に保障するための予算策定手続の整備(パラ10)については前回に続いて「強く勧告」されたほか、包括的な反差別法の制定(パラ18(a))も引き続き促された。一般原則のうち2つが優先対応分野に挙げられていることも重要である。

 子どもに対する暴力の問題についても、親によるものも含む体罰の全面的禁止を第1回審査(1998年)のときから繰り返し勧告されてきたにもかかわらず、2018年3月に目黒区の女児(5歳)が、そして2019年1月下旬に千葉県野田市の女児(10歳)が虐待によって殺されるまで、法改正に向けた動きが具体化することはなかった。今回の所見では学校や代替的養護の現場における虐待への対応の強化(パラ24(a)・パラ29(d))、子どもの重傷事案・死亡事案の全件検証制度の導入(パラ20(c))、学校におけるものも含む事故防止対策の強化(同(d))、効果的ないじめ対策の実施(パラ30(a))などもあわせて勧告されており、子どもの生命・発達・健康を守るため、子どもの権利の視点に立って先手先手の取り組みを進めていく必要がある。

 委員会からは、子どもの権利条約およびその他の人権条約に基づいて設けられている個人通報制度の受入れ(パラ48・49)、人権条約機関等への報告およびフォローアップの調整・監視を担う常設機関の設置(パラ52)なども勧告されている。さまざまな人権条約機関から勧告されている独立した国内人権機関の設置も含め、子どもの権利を含む人権の保障のための最低条件を整えることがまずは求められる。次回(第6回・第7回)の報告書の提出期限は2024年11月21日と指定されたが(パラ53)、連絡会議としても所見の効果的フォローアップに引き続き取り組んでいきたい。

 

1:第4回・第5回報告書の提出から委員会による事前質問事項の作成・送付に至るまでの経緯は、本誌第139号(2018年5月)参照。

2:委員会の総括所見の日本語訳等は筆者のサイトを参照。
https://www26.atwiki.jp/childrights/