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国際人権ひろば No.145(2019年05月発行号)

特集 子どもの権利条約からみる日本の子どものいま

子どもの権利委員会の審査から考える日本の移住者・民族的マイノリティの権利

鈴木 雅子(すずき まさこ)
弁護士

 はじめに

 本稿では、特に日本の移住者・民族的マイノリティの権利の観点から、国連・子どもの権利委員会による日本政府報告書審査について振り返りたい。日本弁護士連合会は、同審査につき報告書や追加情報を提出し、また政府報告書審査に参加し、筆者もこれに加わったものであるが、以下は、筆者の個人的見解であることを予めお断りする。

 子どもの権利委員会が2019年2月1日に採択した総括所見 注1のなかで、日本の移住者・マイノリティに直接関連する内容として、差別の禁止(パラグラフ17、18)(以下、パラ)、無国籍(パラ23)、教育(パラ39)、子どもの庇護希望者、移住者及び難民(パラ42)がある。また、外国籍の親を含めた離婚後の親子関係についても勧告がなされている(パラ42)。このほか、直接移住者やマイノリティについて言われているものではないものの、子どもの最善の利益(パラ19)、子どもの意見の尊重(パラ21、22)も移住者やマイノリティの文脈で重要である。以下、これらについてみていきたい。

 差別の禁止、朝鮮学校と高校無償化制度について(パラ18、19、39)

 差別の禁止は、主要な懸念領域としての6項目のひとつに挙げられ、包括的な反差別法の制定、移住者や民族的マイノリティを含むマイノリティに対する差別への対応が求められている(パラ17、18)。日本政府は包括的な差別禁止法を採択する必要はないという考え方を崩そうとしないが(第4回・第5回の日本政府報告に関する質問事項に対する日本政府の回答)注2、民族的マイノリティの子どもに対するヘイトスピーチが繰り返され、それに対し実効的な対応がなされているとはおよそ言い難い。現実を踏まえた対応が強く求められる。

 また、高校授業料無償化の対象から朝鮮学校が除外されている状況に対し、適用可能にするための基準の見直しが勧告された(パラ39)。政府は、本審査中、この点について質問を受けたのに対し、朝鮮学校が法令上の要件を満たさないからに過ぎないとの説明をした。しかしながら、これは実情や経緯を反映した説明とはいいがたく、これについては、現地で委員に追加情報の提供を行った。

 無国籍の子どもについて(パラ23)

 本総括所見において移住者・民族的マイノリティの分野で注目されることのひとつに、無国籍についての勧告がある。

 日本においては、無国籍問題に対する取り組みは、公的にはもちろん、市民社会側においてもまた鈍いといわざるを得ない。無国籍に関する2つの条約は批准されず、また、無国籍を認定するための手続もない。そのため、政府が無国籍として認識している子どもと実際の無国籍の子どもの数は一致せず、無国籍の子どもが実際どの程度いるのかも不明である。

 これに対し、総括所見は、無国籍防止の観点から、国籍法の適用範囲の拡大、改正、無国籍認定手続の設置、無国籍に関する条約の批准検討など、極めて具体的な勧告を行っている。市民社会の側でも無国籍の問題に目を向け、積極的に取り組むことが求められよう。

 子どもの庇護希望者、移住者及び難民について(パラ42)

 子どもの権利委員会は2017年、「すべての移住労働者およびその家族構成員の権利の保護に関する委員会」(移住労働者権利委員会)とともに、国際移住の文脈にある子どもの人権についての二つの合同一般的意見 注3を発表している。「出身国、通過国、目的地国および帰還国における、国際的移住の文脈にある子どもの人権についての一般的原則」および「出身国、通過国、目的地国および帰還国における、国際的移住の文脈にある子どもの人権についての国家の義務」である。

 総括所見においては、この一般的意見に言及しつつ、子どもの最善の利益を主として考慮し、庇護希望者である親の収容による子どもからの分離防止のための法的枠組みを確立することなどを勧告している。

 国連自由権規約委員会や欧州人権裁判所などにおいては、入国管理関連の処分の合法性判断にあたっては、処分により国が得られる利益と、対象の個人や家族が失う利益とを比較考量する、比例原則の適用が根付いている。他方、日本においては、入国管理の分野において国の裁量が絶対視される状況が長らく続き、比例原則は通常取り入れられず、また、子どもの最善の利益を主として考慮するという実務には全くなっていない。

 こうした入国管理の分野における子どもの利益の取扱いが、国際人権法の進展からいかに取り残されているかを、上記一般的意見及び総括所見は示している。

 離婚後の親子関係について(パラ27)

 総括所見は、離婚後の親子関係につき、「子どもの最善の利益に合致する場合には(外国籍の親も含めて)子どもの共同親権を認める目的で、離婚後の親子関係について定めた法律を改正するとともに、非同居親との個人的関係および直接の接触を維持する子どもの権利が恒常的に行使できることを確保すること」との勧告を行った。

 現在、日本法においては、離婚後または婚姻していない場合の共同親権は当事者の意思にかかわらず一律に認められず、また、非親権者の子との関わりは極めて限定的であると批判されることも多い。とりわけ、日本の移住者やその子どもにとっては、非親権者である親と子の断絶を国が強いるような状況にある。すなわち、入国管理局は、親であっても、親権がなければ、ほぼ単なる独身者としてしか扱わず、配偶者との婚姻を理由として在留資格を有していた外国人が非親権者になった場合、日本に在留を続ける子どもと交流や扶養等の関係を維持している場合でも、離婚後の在留資格の決定に当たって子どもがいることはほとんど考慮されない。結果として、非親権者が日本に在住する子どもの親であることを理由として在留継続を認められることは原則としてない。その結果、子どもが親を事実上失う事態が生じている。

 離婚後も両親が子どもの養育に関わるのは、子どもの心身の健全な発達にとり極めて重要であることは、日本でも近年広く認識されるに至っている。それにもかかわらず、入国管理局の認識はあまりにも旧態依然であると言わざるを得ない。入国管理局は、子どもと非親権者の関係を、外国人親の在留資格を得るための方策としか見ていないのか、子どもの心身の健全な発達などどうでもよいと思っているのかのごとくであり、変わりつつある家族像との乖離が著しい。そして、その犠牲になるのは、子どもたちである。

 総括所見が、国によって家族が引き裂かれることがない社会の実現に向けた動きとなることを期待したい。

 子どもの最善の利益(パラ19)、子どもの意見の尊重(パラ21、22)

 移住者や民族的マイノリティの分野に関して直接的に言われているものではないが、子どもの最善の利益および子どもの意見の尊重も、この分野にとって極めて重要である。

 総括所見においては、司法機関、行政機関および立法機関が、子どもに関連するすべての決定において子どもの最善の利益を考慮しているわけではないことに留意するとし、締約国が、子どもに関連するすべての法律および政策の影響評価を行う手続を確立するよう、また、子どもに関わる個別の事案で、子どもの最善の利益評価が、多職種によるチームによって、子ども本人の義務的参加を得て行われるべきであることを勧告している(パラ19)。

 また、子どもの意見の尊重は、主要な懸念領域のひとつとされ、意見を形成することのできるいかなる子どもに対しても、年齢制限を設けることなく、その子どもに影響を与えるすべての事柄について自由に意見を表明する権利を保障し、かつ、子どもの意見が正当に重視されることを確保するよう促すとしている(パラ22)。

 入国管理関連の手続においては、国の広範な裁量を前提とし、入国管理職員のみが担当して、子どもはいわば親に付随するものとして、子ども自身が対象になっている手続においてさえも通常は意見を聴取されることもない。総括所見は、かかる手続からの早急な転換を求めているものといえる。

 

1:総括所見の日本語訳は平野裕二さんのサイトに掲載されている。
https://www26.atwiki.jp/childrights/pages/319.html

2:外務省
https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000430028.pdf

3:前掲、平野さんのサイトに日本語訳。
https://www26.atwiki.jp/childrights/pages/315.html
https://www26.atwiki.jp/childrights/pages/316.html